第2節 転移と転生

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第2節 転移と転生


PM 2:00 札幌市営地下鉄 南北線車内


『虚数空間』を展開したことで、余計な犠牲を出すことなく、今に至る。

 どうやら、私は彼らの反目を買うことになったらしい。彼らの一人が、私に詰め寄る。


「なぁ、これ、解いてくれね? 人っ子1人居ねんじゃ試しようがないんだよ?」


「何の話か、さっぱりわからんが?」


「惚けないでよぉ? これ、お姉さんが張ったんでしょ?」


「断ると言ったら? それまでの人混みと同様に、私を殺すのか?」


 私は、あえて彼らに挑発する。すると、3人組の1人の少女が、私に詰め寄った。


「ねぇ、いいから解きなさいよ!! 早くしないと、『女王』から褒美がもらえないっつうの!!」


「そうそう。ねぇお姉さん、いいからこれ、解いてよ」


「お断りだね。生憎だが、私は自分より弱いやつの意見は聞かない主義でね。特に、君らのような、自分の力に過信やつの意見なんて、聞く意味がない」


「何だと……!! おいてめぇ!! 今何つった!!」


 私は、激昂する少年の意見を無視するように目と瞑る。


「まぁ落ち着きなよ。こんなの、僕らにとっては、相手にならないよ」


「いいね!! 悪りぃな、姉ちゃんよ!! ここで死にな!!」


 3人組のうちの2人は、私を挟み込むように、魔術を使う。だが、私はグラムとティルフィングを展開し、それらを防いだ。


「なぁ!!」


「魔具だって!? それじゃ、魔術師か!?」


「だから言ったろ? お前たちじゃ私には勝てんと」


「コウキ!! スグル!! 気をつけて!! こいつ、魔力が他の魔術師と全然違う!!」


 私は、魔力を8割を解放した状態で3人組と対峙する。どうやら、私の予想が当たったようだ。


「ほう? 私の魔力を感知できるとはな。さてはお前たち、件の転移者か?」


「おいおい……。まさかと思ったが、こいつが例の、『魔女』じゃねぇだろうな!?」


「待てスグル!? 言われなかった、それを目の前で言うなって」


「でも、この重圧感、間違いないって!? どうするの!?」


 3人組が動揺していると、私はさらに圧をかける。


「おい」


「!?」


「今、『魔女』と言ってな? 不幸なことだね。眼前でそれを言われたら身内以外は殺すことにしているんだ。たとえ、お前らのような餓鬼でもね」


「く、クソが!! 俺が、必ず殺してやる!!」


 3人組の1人が、私に攻撃をする。


「『能力スキル発動!! 狂戦士バーサーカー』!!」


 3人組の1人が、腕を肥大化させ、私に殴りかかる。すると、私はグラムとティルフィングを同化させて迎え撃つ。

 彼の攻撃を、いなしながら魔術を唱える。だが、炎の中を掻い潜り、連続攻撃を私に加える。


「もらった!!」っと彼はいうが、その隙に私は彼の影を拘束する。


「な、何だこれ!? 体が、動かねぇ!?」


「しばらく大人しくしていろ」


「コウキがダメなら、僕が行かせてもらう!!」


 もう1人の少年が、私に攻撃をする。


「『能力スキル発動!! 魔剣士ソーサリーウォーリアー』!!」


 彼は、魔術で形成された剣を使い、私の攻撃する。


「ヒャヒャヒャ!! 僕の魔法の剣の相手にならないね!!」


「なるほど、魔術で形成された剣か」


 彼は、私に魔法の剣を連射する。だが、彼がどんなに慢心しようが、グラムの前では無意味だった。


「何だ、高らかに言ったものの、たいした事無いな」


「はぁ!? おかしいだろ!? こんなのありえないって!?」


「ありえないっと言うのはお互い様だろう? それに、こちらも見せられてばかりにはいかないのでね。今からその種明かしをご覧にいれよう」


 私は、左指を鳴らす。すると、先程の魔術で形成された剣を展開する。


「これって、まさか、僕の剣なのか!?」


「ご名答。私の魔術は少し特殊でね、この左腕の『白の魔術』は他人の魔術を吸収し、そして、私自身も魔術として、返すものさ。

 いわゆる変換さ。他者の魔術を吸収して、私の『色素エレメント』に書き換え、私の魔術として返す。これが私の魔術だ」


「そ、そんなのチートよ!! あり得るわけないもん!!」


「チートなのは、お互い様だろう? 現に、お前たちはそれを使って人殺しをしてるんだ。そっちの方が、大概危なかしいんだがな」


 3人組は、迫り来る私に後退りする。だが、彼らの1人の少女が、私に向けて目を合わせる。


「『能力スキル発動!! 魔眼術師アイズ・メイジー』!!」


 彼女の目が、私の合わせると、魔術が発動する。だが、眼鏡に目を合わせたせいか、彼女は絶叫する。


「きゃぁーーーーーーーーーー!!」


「どうした!?」


「み、見ちゃいけないのが!! いや!! 来ないでぇ!!」


「運が悪いな。眼鏡これは少々、じゃじゃ馬でね。この状態からでも、呪いで保有者を蝕むんだ」


 彼女は、目を押さえながら喚き出す。ダーインスレイヴの呪いは、やはり『魔女』でもないものには相当きついものだったようだ。


「この……!! よくも、サナを!!」


「おいおい、ここへ来て逆恨みか? 彼女の自業自得だろうに」


「ダメだコウキ!! 僕らじゃ太刀打ちできない!! ここは、退散しよう!!」


 3人組は、地下鉄を降りるように逃げる。だが、その先は私の『虚数空間』外になる。彼らを逃す訳にいかないが、『虚数空間』の練り直しは時間がかかる。

 そして、平岸で彼らが降りる。私は後を追うように降りるが、不思議なことに『虚数空間』を展開されていた。

 私は、あたりを見渡していると、彼らが、改札の近くまで行ってしまう。私は追いかけるが、異常な魔力を感じる。そして、剣戟を私に襲いかかる。


「良くやったぞ、坊主ども。このお嬢さん前に、生き延びたんなら、お前たちの大勝だよ」


「誰だ? 少なくとも、こいつらよりも強いと感じるが?」


「これでも、転生まれたのは、つい最近でな。どれ、現代の『魔女』のお手並みを拝見させて貰おうか」


 大柄の男が、私の前に立ちはだかる。どうやら、彼らの上官にあたる人物に違いない。


転生まれた? 転生者か?」


「いかにも。俺は『コノートの戦士』が1人、名は『フェルグス・マック・ロイ』」


「『フェルグス・マック・ロイ』だと? 虹剣『カラドボルグ』の担い手か?」


「ほう? 我が剣も知っているとは、嬉しい限りよ。だが、ここは武人として、お前さんの力を試させてもらうか!」


 フェルグスと名乗る男は、大振りの剣を構える。私は、グラムとティルフィングを構え、立ち向かう。

 無人のホームに、魔具を構える両者。たとえ、英雄だとしても、容赦しない。

 こうして、私は英雄『フェルグス・マック・ロイ』との戦闘を開始するのだった。


 ――――――――――――――――――――――



数時間前 美羽視点


 リリィの命により、私はキサラギさんの事務所に訪れた。理由は単純で、セシリアさんと3人での情報共有だ。

 近頃、『コノート戦士』を名乗る集団による事件が多発している。今日もまた、篠路方面で事件が起きたそうだ。

 事務所の近くまで訪れると、魔力を感じる。エイルとヒルドに見張らせていたように、『コノート戦士』の一員が、事務所まで来てしまっていたのだ。


「まさか、キサラギさんが危ない!」


 私は、急ぎ足で事務所に向かう。しばらく進んでいると、なんと、尻餅をついた青年が、逃げようとしていた。


「一体、何が目的なんです!? 姉さんの場所が知りたいのなら、私を倒していきなさい!!」


「こ、こんなはずじゃ!! 『魔女の妹』は、実力が対してないって聞いていたのに!!」


 氷花を携えていたラスティアさんが、相手をしていた。そうやら、門前払いをしていたらしい。ともあれ、何事もなくて、私は安心した。


「ラスティアさん! ご無事ですか?」


「美羽ちゃん。えぇ、私は特に」


「よかった、ご無事で何よりです。それより、こいつらは一体?」


「姉さんがいない事を見計らって、襲いかかってきたの。でも、思ったより大した事なかったわ」


 ラスティアさんを見て改めて改心する。キサラギさんと共にいるのなら、並の魔術師くらいは大した事ないのだ。

 だが、まずは状況だ。彼に情報を流したものがいるのなら、それはきっと連中に協力している魔術師だろう。

 私は状況を見ていると、後ろにいた少年が逃げる。だが、彼はすぐに拘束されてしまったみたいだ。


「ダメだな〜。お姉様の前で逃げようなんて、考えが甘いね」


「ヒルド。あなた、どうしてここに?」


「お姉様に何かあったらって、エイル姉とスルーズ姉がうるさいから出ちゃった。それよりこれ、どうするの?」


「丁重に扱いなさい。セシリアさんが来たら、引き渡すわ」


 ヒルドは、少年を捕まえたままセシリアさんを待つ。


「とりあえず、中に入りましょう? お茶でも飲みながら話し合お?」


「いつもすいません。では、失礼します」


 ラスティアさんにもてなされる形で、キサラギさんの邸に入る。

 かくして、私はセシリアさんの事を待ちながら、ラスティアさんとティータイムをするのだった。

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