1ー2

セシリア視点 PM 7:00 魔術院日本支部


 議長の呼び声に、私含め日本在籍の幹部達が集結する。会食とは言わんばかりの会議だ。それほどに、状況が思ったより切羽詰まってるようだ。

 出された料理は、高級フランス料理のフルコースである。どうやら、わざわざこちらの方にまで出向いたらしい。

 ご苦労な事だ。何も、ここまで来る事もないのに。そう思いつつ、出されたフルコースを食していく。

 その後食事を済ませ、ようやく幹部での会議を開始する。議題はもちろん、例の集団に関する内容だ。


「では、まずは師団の方より、ご報告をお願いします」


 美羽の呼び声に、黒服の師団員が立ち上がる。あのお子様の専属の秘書である彼女が、この議題の進行役になるのも必然であろう。


「は。師団全体に関しまして、現在、『コノートの騎士団』を名乗る組織の追跡、並びにこれらの討伐を行なっております。

 しかし、これらに当たってるもの達に関して、死傷者が後を立たない状態になります。かろうじて生還した者は、彼らの魔術に圧倒されたとの報告が上がっている状態です」


「あら? 師団様でも、状況が深刻のご様子で?」


 私がそういうと、師団員が私に返事を返す。


「師団様でもっと申しますと、執行者側も同様だと?」


「えぇ、こちらも死傷者が後を立たない状態でしてね。被害がこちらだけでないということで、安心しましたわ」


「アーデンフェルト主任、私語は慎むようお願い申し上げます。では次に、魔術研よりご報告をお願いいたします」


 美羽の呼びかけに、今度は魔術研の研究者が話し始める。


「はい。魔術研では今回の騒動に関して、ある一つの通説が立証されました。それが、こちらになります」


 研究者は、プロジェクターを起動させる。美羽の手の合図で、護衛の魔術師は部屋の電気を消灯させた。

 そして、研究者はノートPCを開き、PC上の画面をプロジェクターに映す。


「これは?」


「彼らが使用していると思われる魔術です。彼らはこれを使い、魔術による魔力の負担を軽減していると思われます。

 ですが、このような魔術は、本来は時間を要するものと私たちは考えており、何かの魔具による補正ではないかと推測しています。

 また、彼らが、魔術による殺人を正義と認識していると予想が立てたとした場合、この組織から咎人が出現してもおかしくはありません」


「となると、考えられるのは寄せ集めの魔術師の集まりか、あるいは、全く別の方法かの二択のようね」


 私は、それを見ながらつぶやく。そして、魔術研の説明はまだ続く。


「我々の独断で、組織の編成を調べ上げました。しかし、どれも魔術員の属していないものしかいなかったのです」


 その発言に、周りがざわめき出す。だが、リリィと美羽に関しては、至って冷静だ。


「そこで、我々はある術式について、調べました。その魔術というのは――――――――」


 研究員が発する前に、リリィが話し始める。その発言には、正直私も耳を疑った。


「『異世界転移術式』だ。この術式は、別次元より人間を対象に召喚することができる禁術だよ。

 魔術院創設以来、禁忌とされていた魔術で、使用者は異世界より人間をどんな時代からでも召喚することができる代償で、使用者はすぐに『66級』の咎人になるデメリットがある魔術さ。

 そして、召喚された人間は、無条件で魔術を会得することができるメリットも存在する。となると、早い話さ。この組織は、『転移者』の集まりだってことさ。まぁ『女王』と名乗る人物と、『騎士』を名乗る人物は、れっきとした『転生者』だろうけどね」


「そんなことが、できるはずも無い! 大体、それが出来たとしても、辻褄が合わない!」


「できるさ。僕に反旗を掲げる魔術師を、大量に雇ってるなら、そんな事余裕だよ」


 師団院が、リリィの言い分に異議を申す。しかし、魔術に関しては彼女のいうことは正しい場合が多い。

 

「確かに、議長に恨みがある『元老院』派の魔術師なら、その甘い蜜を吸いたくなるか」


「そうね。結果として、私たち魔術師だけでなく、一般人にも被害が出てるのなら、一刻を争うのも事実だわ。

 我々としては、どうするかを決めて欲しいものね」


「そうだね。師団は、この組織の魔術の調査と魔具の回収を。魔術研は引き続き魔術の研究を。

 そして、執行者は組織の実態の調査を任せたい。共通として、組織側がこちらに危害を加えた際、僕の承認なしで独断で迎撃するように。以上」


 リリィの一声によって、会議は終了する。幹部達が去っていく中、私はリリィに呼ばれる。


「彼女には話したの?」


「えぇ、もう依頼済みよ。今頃、私の渡した資料の元に解析をしているのでしょうね」


「今回は、キサラギさんの力無くしては解決出来ない事案ですからね。ですが、彼らはこの街にいるのでしょうか?」


「もちろんさ。今は準備中だけど、そのうち尻尾を見せるさ」


 リリィは、紅茶を啜る。そして、同じく私も紅茶を啜る。

 すると、耳を当てた美羽が、驚いた表情を見せてきた。


「リリィ、セシリアさん! 美生が見つかったとの方向が!!」


「美生が!? 一体どこに!?」


「中の島方面のビルで、美生らしき人物を見かけたそうです! だけど、そのまま去って行ったらしいみたいで」


「そう。しかし、彼女は一体何を?」


「これは、また一つ仕事が増えそうだ。美生、君は美生の捜索をして」


「でも、リリィの護衛は?」


「大丈夫だよ。その辺は、イロハに任せるよ」


 美羽は、やれやれと表情を浮かべながらリリィの命令を受ける。

 そして同じくして、私もリリィより命令を受ける。特命ってやつだ。


「セシリアは、アルと連携して進めてね。まぁ、いつものことだけど。表じゃできないけど、それができるのは君だけだからね」


でしょうよ? まぁそうさせてもらうわよ。無理に部下を失いたくないし」


 私がそういうと、リリィは鼻で笑う。そして、私も会議室を去る。その去り際、リリィは何かを話し出す。


「この事件。裏では元老院老害どもが手引きしている可能性がある。くれぐれも気をつけてね」


「そうね、そうさせてもらうわ。なんだったら、こっちから殺しにかかるつもりよ」


「その辺は任せるよ。では、またね」


 リリィの声に私は会議室のドアを開けてその場を去る。事件は一刻を争うなら、そうしていても良いかもしれないと私は思う。

 こうして、私は執行者の事務所に足を運ぶのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る