第13話 阿呆はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている*
銀白色の霧を抜けてダンジョン前のロビーに出てきた。
公社に買い取ってもらう物は何もないので個人ロッカーに向かおうとすると職員が声をかけてくる。
「初めてのダンジョンは如何でしたか? 」
「フルフェイスのヘルメットを被りっぱなしなのは息苦しいのと、履きなれない靴や着なれない重い服。とにかく疲れました」
関心がないようで、こっちの話をきっちり聞いている老人達が何かを言って場が爆笑に包まれたが、何を言ったのか聞き取れなかったので無視することにした。この公社の人。老人達へのサービスで話しかけてきたんじゃないだろうな。
俺の向けた視線に思うところがあったのか、公社の人はにこやかな笑みで営業トークをはじめる。
「当公社ではクリーニングサービスも有料ですが承っております。特に機動隊旧装備一式であれば個別にだされるよりもセットでクリーニングされた方がお得になっております」
突っ込みどころはあるが、本当に疲れているし、この後は本命の自宅ダンジョン突入への準備もあるので、大人の対応で済ますことにする。
「今日はさして長時間着用しておりませんし、防具一式は一度自宅に持ち帰って関節の接触部周りに布を当てて着心地を改善するつもりです。バックパックに入れての持ち出しは問題ないですよね」
「あぁあの大きなバックパックはそのつもりで持ち込まれたのですか。はい。外から見えないようにしていただければ防具の持ち出しに制限はありません。ですが、防具は一度こちらで預からせてもらいます。ボディースキャナーの外側、私服を収納されているロッカーまで当職員がお持ちいたしますので少々お時間を頂戴できますか。この時間であれば、全く込み合っておりませんので、さして時間はかかりません。どうかご理解ください。それでは、あちらの男性側の部屋で防具を預からせていただきます。その後、“健康保持増進の赤ポーション”を職員の前で必ず飲んでください。摂取後、ボディースキャナーでの健康チェックを経て退場となります」
「ダンジョンで拾った軟オーブ(赤)を自分で飲んでは駄目なのですか? 」
「当社の“健康保持増進の赤ポーション”は専門の技能をもった者によって、寄生虫・ウイルスを根絶するのに最適化しております。一般の方が作製した赤ポーションはダンジョン条例で代替物として認めておりません。それに“健康保持増進の赤ポーション”の料金は入場料金に含まれております」
ついでに、次回の防具持ち込み時にも一度預けるのかと質問しようとしたが、余計なことを尋ねるのは
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*芥川龍之介『河童・戯作三昧』角川文庫 2008
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