The Outsider ~規矩行い尽くすべからず~

藤原丹後

第0章 プロローグ

第1話 徒然

初日のみ10話+memorandumを2話投稿します。

2日目以降は毎日1話投稿するです。

毎日1話の投稿は43話までを予定しています。

その辺りから週2回の投稿へと変更することをご承知おきください。

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 特養(特別養護老人ホーム)から帰宅した。

 築50年弱のマンションの一室。昔は親子四人で暮らしていたが今は一人暮らし。

 父は大分前に酒の飲み過ぎで他界。姉夫婦は隣県で暮らしている。

 母は数年前にも一度室内で転んで骨折し、医者からはもう自力歩行はできないかもしれないと言われたが、一度目は無事に回復した。だが二度目の骨折は駄目だった。


 一度目の入院時に俺は勤めていた郵便局を辞め、目出度く無職というジョブ? タスク? を手にした。主夫という言葉があるのは知っているがちょっと違う気がする。

 何か俺の役柄に相応しい用語があるのだろうか?

 職に就かずに母親の介護をしている息子。

 まぁ母は特養に入っているので、やってることは汚れ物の洗濯だけだが。

 警官に職質されたら、やはり「無職です」と答えるべきか……

 警官だって仕事なのだから個々人の細かい家庭の事情を聞かされても迷惑だろう。


 独りで食べる夕食。

 日替わりの具に、溶き卵を入れて錦糸卵状になったものと刻みネギをふって彩を増やし、普段より少し手間をかけた味噌汁が食卓にあると、母は「きれいやなぁ」と毎回喜んでくれた。

 そんなちょっとしたことをふと思い出す。

 生味噌を買うのをやめて、フリーズドライの味噌汁ですますようになってから、もうどれぐらいの月日が流れたのだろうか。

 認知症が進行し、流行り病の数年後に面会できた母は、もう俺のことがわからなくなっていた。


 女性用の下着を買うことにも抵抗がなくなり、特養へ週に二度母の着替えを持って行き、洗濯物を回収する。

 月に一度の面会日に、此の人は誰だろうという顔をした母と全く盛り上がらない会話をする。


 先月なかったことが今月あることもなく。今月なかったことが来月あることもない。

 何もない日常が過ぎていく。


 ある日。何時ものように洗濯物を干しにベランダへ出ると、隣室との隔て板の下部三分の一ぐらいが銀白色の霧状のものに覆われていた。

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