第2話 向ふの縮れた亜鉛の雲へ*
……確か、世界の8つの文明圏。あれ? 9つだっけ? の地域に、数年前から出現しはじめたんだよな。これ。
この国の現行の都道府県区分ではなく、令制国の一之宮近辺に出現する可能性が高いそうだが、この近くには文献に記載されなかった非公式の二之宮があったのだろうか?
報道されていることが正しいのなら、1メートル? 、1ヤード** ? 以下の霧は低脅威度ダンジョンへの入り口らしいが、国への通報義務を怠ると罰則はあるんだっけ?
最初の頃は通報が相次いだのと、マニュアルが整備されていなかったので、かなり混乱したそうだが、常識的に考えて通報しないわけにはいかないよなぁ。
外国の事情は知らないけれど、この国のマスメディアは抵抗しないと分かってる行政相手だけには喜々として叩く習性があるから、ダンジョン騒動初期の報道は見ていて気分が悪かったことは覚えている。
民間企業相手でも企業側が謝罪一辺倒の場合にはごくまれに暴走するが、自らを正義の代行者だと勘違いしているから、マスメディアってのは
それに騒動が沈静しはじめると攻撃の矛先を行政から政権与党に転換して、
「ダンジョンのない外国の方々には優先してこの国のダンジョンを開放しろ」
「いや、それだけでは不十分だ。相手側の感情を配慮して、使ってくださいとこちらからお願いしろ」
と、情動で気勢をあげる連中の話を聞いていられなくて、意識的にダンジョン絡みの報道は聞いていなかった。
……うん。俺は今、自分自身に対して嘘をついている。
しなければいけないことはわかっているのに、したいことを優先しようとしている。
ぶっちゃけ(死んだり、負傷したりしなければ)ダンジョンは金になる(かも知れない)。
まだネット上でこの国のダンジョン関連の意思疎通が可能だった頃。
初物ダンジョンにはオーブがゴロゴロ転がっており、いくらでも取り放題だ。という書き込みが散見した。
同時に、この話は書いても数時間以内には削除されるというネット伝説も流布された。
……それに、まぁ、その、なんだ。特養には洗濯物代行サービスを申請しておけば、特養からの引き落としと母の年金振込口座は同じだから問題はおきない。
季節がかわったら気候に合った服が必要になるが、俺と連絡をとれなくても姉が対応してくれるだろう。
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* 宮沢賢治『新編 宮沢賢治詩集』角川文庫 1995『春と修羅』第一集「屈折率」より
七つ森のこっちのひとつが
水の中よりもつと明るく
そしてたいへん巨きいのに
わたくしはでこぼこ凍ったみちをふみ
このでこぼこの雪をふみ
向ふの縮れた亜鉛の雲へ
陰気な郵便脚夫のやうに
(またアラッディン、洋燈[ラムプ]とり)
急がなければならないのか
** 約91cm
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