第8話 迷いてはしきりに動く心なり 音なき方に音をな聞きそ*

 うん。ダンジョン公式ホームページの表記は変わっていないな。

 外国はサッカーのリーグに例えているが日本人には馴染み難いということで、ダンジョンで時折見つかるオーブのグレードを誰かが何処かで日本独自の公式設定として定めたらしい。


紫 世界大会の優勝候補。

藍 世界大会のベスト4・8止まり。

青 全国大会で優勝候補。

緑 全国大会のベスト4・8止まり。

黄 都道府県大会で優勝候補。

橙 都道府県大会のベスト4・8止まり

赤 都道府県大会に記念出場レベル。


 素人が硬オーブ(青)で柔道のスキルを得た場合。日本代表にはなれても世界大会では初戦で敗退する程度の強さにしかなれない。

 もちろん、この設定は目安であるから、競技人口の少ないスポーツであれば、硬オーブ(青)で世界大会優勝も可能であるかもしれない。


 ダンジョン出現以降。全てのプロスポーツと金銭の絡むチェスや将棋等の大会では、試合前と直後に鑑定能力持ちからのチェックが義務づけられた。心ある関係者はこのチェックによってドーピング問題も解決されると期待したが、ドーピングの闇は鑑定スキルでどうにかなるほど単純なものではなかった。


 紫と藍を区別しているのは日本人だけだとか、虹は七色ではないとか、男と女では色の種別が一致しないとか、ネット上ではカシマしかったが、そもそも江戸時代の日本人は虹を五色としていて、七色だと言ったのはニュートンだとダンジョン公社公式ホームページで書かれてからは沈静化した。

 外国では、青みどりや黄みどり等、お国事情で区別しているようだ。

 カテゴライズも五分類の国もあれば、九分類の国もある。

 つまるところ色は凡その指標であって、確定されたレベルが約束されているわけではないらしい。


 ダンジョン公社は機動隊・自衛隊・民間人のチーム・個人を色分けしているという噂は根強いが、公社側が公式に認めたことはない。


 ダンジョンで発見された硬いオーブ。公式に確認されたのは、青・緑・黄・橙・赤のみ。紫・藍は恐らくあるだろうという推測。

 使用しているイメージを強く念じて握りしめれば、念じたスキルレベルが強化されるが、何が強化されたのかははっきりしない。使用者が明らかに上達したと感じることができれば成功したことになる。

 イメージを念じている際に、何らかのアクシデントがあると失敗しオーブは失われる。又、余計な雑念が入ると、使用者も何のスキルが上達したのか鑑定スキル持ちに確認しないと判然としないことになる。


 軟体オーブ。公式に確認されたのは、緑・黄・橙・赤のみ。緑のオーブの買取金は何故か公表されていない。青のオーブを巡って中米ではファミリーが幾つか消えたという噂はあるが、消えた原因は麻薬絡みで米のDIA** が介入したからだというのが公式アナウンスになっている。

 衝撃に強く破裂しにくい。念じると損傷部位治癒薬・病気治癒薬・毒消しに変化する。

 通常の骨折であれば、橙か黄のオーブだが……加齢による骨折って黄でなんとかなるのか? 緑なんて保有を公表することは危なすぎるから、見つけても人前にはだせないか。

 認知症は初期ならともかく、緑のオーブでも駄目だろうなぁ……

 そもそも認知症は、脳の損傷か? 病気なのか?


 軟体オーブを病気治癒薬として使用する場合は、経口薬をイメージすれば良いらしい。天然痘や性病等皮膚に症例が顕著な場合は膿に触れさせてから経口薬をイメージした方が効果が高いのだが、それは望まれない事が多いらしい。多分俺もやらない。


 軟体オーブを毒消しに使用する場合は、毒をオーブに付け、オーブが毒に反応してから毒消しをイメージするのが一番効果があるらしい。

 毒は面倒だからなぁ。確か経口毒、皮膚に触れる接触毒、刺し傷や裂傷を介しての体内への注入毒、呼吸器系への毒があるんだったか、もっとあるか、まぁどうでもいい。

 大体、呼吸器系への毒にはどう対応するんだ? 気体にオーブをさらすのか? その間に俺死んじゃわない?

 接触毒や注入毒に対してはゼリー状の毒消しをイメージしろってのは分かるが、呼吸器系に作用する毒なら、袋の中でオーブを気体状の毒消しとしてイメージし頭から被れと言われても、警察や自衛隊なら専門の医療担当を用意できるだろうが、俺には関係ない話だ。そんな冷静な対応を咄嗟にとれるか。

 わざわざ御丁寧に、多数の注入毒(蜂の大群? )や接触毒・呼吸器系毒に対して経口薬として毒消しを飲んだ場合は、薬の効果が発揮される前に死亡する可能性がありますとある。ご親切ですこと。

 あぁ、毒を使うモンスターが報告されている階層へ行く前には、有料の講座を受講することが推奨されているな。


 毒といえばピタゴラス教団が戒律で禁じたソラマメ。花粉は経口と呼吸と眼球と、どっから入ってきて中毒になるんだろう?

 毒には関わりたくないなぁ。






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* 夏目漱石『倫敦塔・幻影の盾』角川文庫 1957 「幻影の盾」

「迷いては、迷いてはしきりに動く心なり、音なき方に音をな聞きそ、音をな聞きそ」


** Defense Intelligence Agency 米国国防情報局

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