第1章 ダンジョン

第11話 ダンジョン前のロビーは老人達の憩いの場

 フル装備の俺を見る老人達。生暖かい視線が辛い。

 ごめんねお爺ちゃん達。将棋や麻雀をやりにきた誰かじゃなくて。

 買ったばかりの新品で、機動隊旧装備一式を頭から靴まで揃えてはいるけど、団塊の世代の人たちに喧嘩を売りに来たわけじゃないし、言いたいことは分かっているから話しかけないでね。


 定年退職後、自宅に居場所のない元企業戦士たち。流行り病のせいで50年80年と続いた将棋クラブが次々と閉店し、玉を打ちに行くところも斜陽化した現在。

 夏涼しく冬暖かいうえに湿度管理まで完璧で、一日千円(税別)ポッキリ風呂サウナに入り放題なダンジョン前ロビーは何時しか老人達の憩いの場と化していた。

 大っぴらに賭け事をしていなければ、将棋・麻雀の持ち込みを公社も黙認し、スライム限定だが時には公社主催のイベントで、ヘルメットに外付けビデオカメラ・ヘッドライト・ポンチョ・玄翁ゲンノウを貸し出し、一匹でも退治すれば豪華景品としてロビー備え付けのマッサージチェア10回使用権が配られる。

 おまけに公社HPは、地域貢献にイソしむ祖父曾祖父の動画をみた孫ひ孫から、どれだけ尊敬されたのかとの爺さん同士での自慢話を煽る演出がなされている。


「現代のジジババ捨てではないか! オゾましい」 


 こう言って野党が国会で政府与党を下品にノノシった。

 過去には、国会の国政調査権を行使する手段として、憲法62条で定められた制度により、国会が関係者を出頭させ事実を問いただすために与党が選んだ証人喚問で、野党に利する発言を行った猫背の証人もいたが、その時喚問された矍鑠カクシャク たる老人は、その挙措キョソの美しさに耳目を惹いた。


所謂イワユル姥捨て山と言われる風習が我が国にあったという事実は確認できません」


 あたふたと思いつく限りのレトリックで、存在した可能性を完全には否定できないのではないかという抗弁を見苦しく続ける野党議員に対し証人は冷徹に言い放った。


老拙ロウセツ、今日に至るまでそのような可能性を匂わせる如何なる文献にも接することアタわず」


 この時の国会中継のやりとりは各国語に翻訳され、ポリコレ嫌いの海外web民によって今も拡散が続いているらしい。


 閑話休題。


 地下工事中に発見された銀白色の霧状のものは高さが7メートルぐらいだろうか? この先がダンジョンなのだと思うとやや緊張してきた。


 そんな俺の背中で腹蔵無く面白がった声が飛び交う。

 俺は霧の中に踏み込んだ。

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