第41話 世界の半分は他の半分がどんな生活をしているかを知らない
市立科学館のプラネタリウム最終プログラムに、間に合った。
数ヶ月前に全館リニューアルされたことは知っていたが、一人だと来ることもなかっただろう。
少し時間に余裕があったので、惑星や銀河系といった基本的な天文知識をマヤに説明しながら、館内を見て回る。何故か楽器も陳列されていたが、マヤの世界の楽器とは似ているけれど同じではないらしい。
ちなみにマヤのお気に入りは、平面台の下にある花をライティングと鏡の組み合わせで台上に浮かんでいる様に見せかけている仕掛けだった。
花に触ろうと、何度も手を伸ばしては空振りを繰り返している。声を掛けないと一日中続けていたかもしれない。
俺は、核分裂連鎖反応シミュレーションをピンポン球で模擬実験できる装置がよくできているなと思った。
最終プログラムがはじまる時間になったのでプラネタリウムに向かう。
平日なので人は少ない。できるだけ四方の壁から離れている席に座るとマヤに(通訳)サークレットを手渡す。
照明が徐々に暗くなり、スクリーンに今日最終のプログラムが投影される。
寝てる? 室内に証明が戻り、館内アナウンスは閉館時間になったことを告げている。
「マヤ? 」
「はいっ! 」
元気のいい声が返ってくる。
「退屈だったかな? 」
「そんなことはありません。こういった柔らかな椅子に包まれることも、見慣れた満天の星をただ見続けるために、素敵な音楽を聴きながら長い時間を費やすということも、これまで一度もありませんでしたし、夜空一杯の星々のことをこれまでは漫然と見ていましたが、こんなに美しいとは全く思っておりませんでした。今日は素敵な場所に連れてきてくださったことを、とても感謝しています」
プラネタリウムのリラックス効果というやつかな。不満があるようには見えない。
学芸員がさっきからこっちを見ているし、そろそろ退室しないと何か言われそう。
立ちあがってマヤに手を伸ばす、俺の視線の先にある(通訳)サークレットを少し考えてからマヤは返してくれた。
駐車場へと歩いて行きながら、いちおうの確認として聞いておく。
「夕食をすましてから帰る? 何時までには戻らなければいけないといった門限みたいなものはあるの? 」
「ありません! おいしいものが食べたいです! 」
……まぁ俺も、子供の頃は親戚と外出したら飯をおごってもらって当然と思っていたか。
さてと自分から話をふっておいて困ったな。月に二度行く店には連れて行きたくない。月に一度の店でも店員はいつも一人で食いにくる俺のことを覚えているだろう。何よりも夕方にランチはやっていない。この時間でできるだけ安くすますことができて、
あの店にするか。車をとめる場所がうっとうしいが。
目当ての店に着いた。もうちょっと遅い時間だと、この道の奥は未成年女子を連れ歩けば間違いなく私服警官か防犯協会の者に呼びとめられることになる。
ここのうどん屋には天ぷらを食べに月一で着ているが、店の雰囲気的に店員が友達感覚で話しかけてくることはない。と思う。
ちなみに川を越えた向こう岸の蕎麦屋には月一でかつ丼を食べに行っている。
ついでに言うとそこから更に先に行ったところの焼き鳥屋。二年間程、真夏にも月一で通っている。昼はラーメンしか出していないが、俺はその店で焼き鳥を食ったことがない。
マヤは店外に設置してある食品サンプルを見て驚いていた。それは
何を食べるか悩んでいるマヤに寿司はやめておいた方がいいよと言ってあげたら、俺は何を食べるのかと聞いてきたので天ぷら定食を指さした。同じものでいいとようやく決めてくれたので店内へ。
俺の予想通り、運ばれてきたどんぶりの大きさに、マヤは三度目の驚きをみせてくれた。
無理に全部を食べなくていいと言っておいたけど、マヤが完食できたので逆に俺も驚かされた。
帰り道。お世辞にも治安が良いとは言えない地区だけに、駐車場までマヤには[不可視]の魔道具を使ってもらった。
車の助手席に座るマヤにシートベルト着用を
マヤは指輪を不思議そうに眺めていた。
「まだ十数回は[インヴィジビリティ]を使えるはずなのに、後数回使用すれば魔石に溜められた魔力がなくなりそうです。この辺りは魔素が少ないのでしょうか? 」
それを聞いて俺は試しに魔法を使ってみることにした。
「[不可視]」
目の前に置いたスマホは透明にならない。ダンジョン外で俺は魔法を使えないようだ。
こっちの世界で当たり前のように存在する[鑑定]。
魔道具の開発に成功しているのだろうか。
それとも公表されていないだけで、異世界との交流はそれなりに行われているから、魔道具の
あと可能性としては、魔石とやらを使えば俺も現代日本で魔法を使えるのだろうか……
個人で検証してもどれだけの時間がかかるかわからない。組織っていいよなぁ。
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