第16話・開戦
夜の帳が開け太陽が空へ登り始めた頃、両軍は川を挟んで布陣した。数多の武器が朝日を反射し煌めく光の海が広がっている。
兵たちの顔には緊張が張り付いており、今日の戦いが激戦になるのだろうと両軍ともに感じていた。
俺はブルークライト騎士団を率いて木製の橋の前に並び。誰も何も音を出さずにただ動物たちの不安そうな嘶きだけが辺りを支配している。
ブルークライト家の家紋の旗の中にオレンジブル家の旗も交じり、青とオレンジがカラフルに入り混じっていた。
馬の首を撫で落ち着かせているうちに本陣の方で弓兵同士の射撃戦が始まり、敵の矢が黒い雲を作っているかと思うほどに濃密な攻撃が我が軍の矢を呑み込んでしまっている。
(そろそろだな……)
撫でる手を止め、手綱を握り直し兵たちの中から歩み出る。
背中の黒剣を引き抜いて、対岸を覆いつくすほどの敵騎兵隊へと剣先を向けた。
「諸君! これより数多の敵兵と戦うことになるが撤退する事は許されない! 我々が敗北し撤退してしまえば本陣は側面を無防備に晒すことになり敗北は確定してしまう。
つまりこの戦いにおいて我々は役割はとても重要だ! 自らの誇りをもって、信念に従い見事な戦いを期待している!」
俺は対岸にも聞こえる様に大声で騎士たちを鼓舞すれば、皆自分達の武器を天へと掲げ雄たけびを上げる。
「どうやら敵は少数の我々に怯え一歩も動けていないようだ。もしかしたら過大評価をしてしまったかもしれないな!」
挑発。
古今東西いつだって使えるリスクのない作戦。相手が怒りをつのらせれば判断を誤る可能性があり、さらに激昂し無策で突っ込んできてくれる可能性すらある破格の一手。
俺は前哨戦の結果からもしかしたらこれで相手を釣れるかもと思い、そうじゃなかったとしても少なくとも何らかの反応があると思っていたが……。
(どうやら俺は見くびっていた様だ)
まさかの無反応。末端の兵すらも意に介した様子すらないほどしっかりと統制がとられていた。
昨日の司令官とは別人なのかと、ふと思ったが遠目に赤い魔獣が見え。そして赤髪のアクバと呼ばれた男がいる事が確認できた。
「どうやら敵は本当に怯えているらしいな! なら此方から出向いてやろうではじゃないか! 俺に付いて来い!」
そう言い俺は戦いを始めるために先頭になって橋へ走り出した。すると敵も前進を開始したが橋の出口で止まった。どうやら俺達の突撃を受け止めるらしい。
そうして両騎兵部隊はぶつかり激戦となった。俺は前線で剣を振るいながら敵将への挑発を続けていたが、本当にいっさい反応が無く昨日の奴とは思えないほど冷静に後方から指揮をとっていた。
俺達が戦い始めた頃に敵軍も渡河を開始したらしく、本陣の方からも怒号が鳴り響き始めた。
幾年ぶりだろうか……これほど滾る戦は。
我が家の家紋と同じ緑色の柄をした愛槍を握りしめ、これからの戦いのはやりを素振りすることで落ち着かせていた。
王が病に臥せってしまってからは家の事もあり、頭を使うことの方が多かったがやはりワタシの居場所はここなのだと再認識した。
最初の弓合わせはそれほど被害も無く済み、敵軍は早速渡河するべく動き始めた。
「アッハッハ! 来るぞお前等! 血肉沸き踊るほどの熱い激戦が!」
水しぶきを立てながら敵兵は勢いよく川を渡し始め、いまだ続く我が軍の射撃が数名に命中し川に赤い模様がいくつか作った。
右翼を任された部下の兵達は真剣なまなざしで敵を見つめ、己の武器を握り今か今かと構えていた。
そして敵兵が渡り切り川岸を踏んだその時。
「攻撃開始! 腐れ悪魔共を川へと叩き落してやれ!」
命令を出せばすぐさま兵たちは前進を開始し、渡河を終えたばかりの敵兵へと襲い掛かり二度と地面を踏めなくなるよう川へと叩き返した。
そして続けざまに槍の壁と形成し、川で身動きのとりにくい相手は攻めあぐねていた。
だがそれでも我が軍は圧倒的に少数。
いくら敵兵を倒したところで次々に湧いてきて、味方はどんどん押し込まれまた川岸に上がられる。
それでもそれ以上の進軍は押しとどめる事には成功している。
ワタシはむずむずする体を抑えきれずに前線へと向かい走り出し、後ろからは部下の驚愕の声とため息が聞こえた。
「中央で負けた恨みをはらせ! もう一度押し返せ!」
槍を振るえば敵兵が吹き飛び、突けば貫通し二人を串刺しにする。
体へ降りかかる血の熱をどんどん吸収しているかのように体中が熱くなる。……懐かしい、すべてが懐かしく感じる。
故郷に帰ってきたかのようだった。
「そこまでにしてもらおう! お前の相手はこのオレだッ!」
そこらの兵よりはガタイの良い悪魔がワタシの攻撃を横から防いできて、目の前で相対する事になる。
しかし負ける気は一切しなかった。
敵は小手調べとばかりに槍を突きだしてきたため、それを半身になり躱し足を大きく上げ槍を踏み折ってやった。
驚愕し固まる敵に情けをかけるわけも無く、大きく振りかぶり体を両断する。
驚愕の表情のまま敵は川へ沈み、部隊長だったのだろうそいつの敗北で辺りの兵には動揺が走った。
そこを見逃さずに兵たちは押し込みをかけもう一度川の中へと押し返した。
今のところは苦にせず防衛できており、何度だって敵の攻勢を跳ね返せる自信があった。
しかしこの戦いの趨勢を握っているのはあの小僧だ。ここでいくらワタシが勝とうと流れは変えられない。
ワタシはそんなことは頭の片隅からも弾き出し、いまは目の前の敵へと集中した。
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