第13話・作戦会議①

 川を挟んでお互いの本陣が戦場に到着したがすでに日は傾き、その日は前哨戦以外に戦いは起きなかった。

 渡河を行わなければいけないため夜襲の可能性は低いが、敵が他の渡河地点を見つけ夜間に移動しないとも限らないため、川岸にはかがり火を焚き少数の兵を見張りに立てた。

 

 そして俺達は即席の陣幕に集まり、蝋燭の頼りない灯に照らされるここら一帯を簡易に描いた地図をナイフで止めたテーブルを囲んでいた。

 参加者は俺とセドリックとダミアンのオレンジブル家と、アリシアとディアナのブルークライト家。

そしてグリーンハルト伯爵とその部下のモノクルを着けた明るい茶の短髪の男、パリスが参加する。


「前哨戦には勝ったわけだが。……どうして橋を壊さなかったんだ?」


「人手が足んなかった事に加え、敵の目の前で行えば相応の被害が出る」


 口火を切った伯爵の疑問に端的に答えながら、俺は地図上に色が違う二種類の石を置いていく。

 白っぽい石は自軍を、黒っぽい石は敵軍として配置していき、少数の白と多数の黒を見れば両軍の兵力差は圧倒的だった。


「敵兵は2万、わたくしたちの五倍ですわね。どうする気かしら?」


 アシリアが重々しい口調のわりにあまり心配していない表情に俺は笑う事で答えた、彼女にならこれで伝わるだろう。


「それだけではございません。我が兵達の大多数は悪魔との戦いに敗北した経験をしています。

 また悪魔と戦うとなれば士気は大いに下がるかと」


 はっきりとした声音でパリスはそう注釈した。我が軍の半数以上4000程度は、もとはと言えば敗残兵。


「大丈夫だそこはあまり関係ない」


「か、関係ない?」


 パリスがずれたモノクルを直し声を荒げる。


「我が軍の主力が使い物にならなかもしれないと言っているのですよ!?」


 不満があろうと伯爵から指揮権を継いだのは俺になる、その俺が兵法を軽視する発言をパリスが見逃せるはずがない。

 だが俺は黙々と石を置き続け、伯爵がパリスを落ち着かせてくれた。


「最初の質問にはもう一つ回答がある、それはこの橋を囮として残したという事だ」


 橋の両側には白が一個と、黒が多数置かれ。両方の石にはドリック達と傷つけ、馬と刻まれていた。


「この橋は正直言って軍の通行にはまるっきり向いていない、まあ見落とす程度には小さいからな。

騎兵では横に4騎、歩兵でも6から7人しか並べない。逆に言えばその程度の数で封鎖できる。

 だから敵もこの橋は重要視せず、渡河に向かない騎兵を向かわせてくるはずだ」


「何だこの陣形?」


「これは……斜線陣、ですか」


 そう言う間に俺は石を全て置くと伯爵は頭に?を浮かべ、パリスは声を上げた。

 斜線陣とは軍の両側のどちらかを突出させ、もう片方を下げる事で敵軍とぶつかるまでの時間差を作る陣形だ。

 今回の場合は南の軍が川岸ぎりぎりに並び、北はかなり陸地の方に並んでいる。


「北の敵をわざと渡河させて、深入りしたところの横っ腹を殴りつけようってか?」


「そのとおり」


 俺は後方の森と書かれた所に配置された騎兵の石を指でつつく


「この場所に騎兵を最初から隠し、戦闘中にここぞという時に出撃し回り込んで攻撃を行わせる。そしてこの部隊の指揮官をアリシア、君に任せたい」


 そう言ってアと書かれた石を森の騎兵の傍へ置いた


「お、お嬢様を!?」


 この部隊は一番立ち回りの難しく。隠れておかなければいけないため、戦況の把握が難しく、音や限られた報告のみで行動を決定しなければいけない。だから一番信頼できるものに任せたいと思っている。


「ちょっとまて! そんなおいしい役割はワタシの役目だろ!?」


「お、落ち着いて。ちゃんと用意してあるから」


 テーブルを叩き激昂する伯爵は俺の言葉に一旦その矛を収めてくれた。


「待て! そんな危険な役目をお嬢様にさせるわけにはいかない! 私が代わりに」


「ふふふ、大丈夫よアリシア。わたくしの実力はあなたが良く知っているでしょ?」


「そ、それは……」


「それにディアナ、君には他の役割がある」


 俺はそう言ってまた石の配置を変える。


「……ただの横陣になりましたね」


「そうだ、最初はこの陣形で戦い。

 さっき見せたのは斜線陣ではなく、敵に押される形で結果的にそうなる予定だ」


 そしてさらに石を動かし、南の軍を極端に多くして北の数を少なくした。


「この南の軍に兵を集中させ川岸で踏ん張ってもらい、敵の渡河を妨害してもらう。そして少ない北は突破されないよう、うまく敵を引き付けながら先ほどの位置まで後退してもらう」


「「――無理だ(です)」」


 ディアナ。パリス。セドリックが一斉に反対した。


「敵との兵力差があるなかでは自殺行為だ! 突破されるの目に見えている!」


「それに、先ほども申し上げましたが。我が軍の士気は低く川岸でも防衛もどれほど行えるか」


「わ、若様! さ、さすがに……かなと僕も思います……」


「――いんや」


 俺は伯爵の方を見た


「死ぬ気で守れって言えば、あんた好みだろ?」


「……いいねぇ。わかってるじゃねえか」


「伯爵様!? お待ちください! さすがにこれは無謀です!」


 パリスは声を荒げ、俺の無謀な作戦に賛同する伯爵を何とか諫めようと行動した。その時、伯爵はパリスの事を無視し地図のある地点を指で突いた。


「小僧、何か考えがあるんだろ? これだけ奇抜な事をしてるんだ。

 ――橋を守るだけ何てなまっちょろい事言わねぇよな?」


 俺はその答えに不敵な笑みを浮かべた。

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