第14話・作戦会議②
「橋の話をする前に、まずはみんなの配置の話をしたいと思う」
俺は各将の名前が刻まれた石を盤面に配置していく。
伏兵にはさっき言った通りアリシアの石を置き、南つまり右翼に伯爵の石を置いた。そして中央にはパリスの石を置き、左翼にはセドリックとダミアンの石を配置した。
「え、僕!? ど、どうしてですか若様!?」
そう、この作戦の肝となる左翼の担当を一番若い(俺を除き)セドリックに任せることにした。
「俺はお前が適任だと判断した。やれるよな?」
「む、無理ですよ!? 無理無理!? パ、パリスさんの方が適任ですって!」
泣きそうな顔で俺に縋りつき、懸命に配置を変えてほしいと懇願した。確かにパリスでもよかったのだが、彼には両サイドとつかず離れずの位置をキープしなければならない中央という、これまた難しい役目があるため変えるわけにはいかなかった。
「ダミアンお前も同じ所になるわけだが。どうだ、こいつじゃ不満か?」
俺は一言も発せず天幕の壁となっているダミアンに話を振った。
「……構わねぇぜ俺は」
「ど、どうしてさ、こんなに危険な場所なのに僕と一緒でいいのか!?
情けない声で自虐をし、ダミアンに自分には不適切だと援護してもらおうとしているが。当のダミアンは目をつぶったまま微動だにしない。
「セドリック。何も俺は捨て駒とか消去法でお前を配置したわけじゃない」
「そ、そうは思っていませんが……」
「お前は自分を臆病だと思っているだろ? だが俺は違うと思っている。臆病なんじゃなく慎重なんだ、お前は。
常に物事を見て考え、起こりえる事を想定している。だからどうしても動きが遅くなってしまう。
だが、お前はそれなのに命令を遂行しようとする責任感と粘り強さがある。だからお前に任せるんだ」
「若様……」
常々セドリックの堅実さには気づいていたが、先の戦いにおいて敵将へと立ち向かうなんてまさか思ってもおらず。危険を省みずにしなければいけない事を判断し実行する大胆さがあることを知った。
だから左翼を任せることにした。そしてその事を知っているのは俺とダミアンなため一緒に配置した。
それに加え、ダミアンにはセドリックにない苛烈さと強引さを期待している。
「それにダミアンお前にも期待しているぞ」
「ケッ! 俺は先に寝る、指示があるならセドリックに伝えとけ」
そういいダミアンは陣幕を出て行った。
「……よし、分かりました若様! 若様のご期待に添える様。このセドリックには重すぎますが。任されたからにはやれる限りの事はやってやります!」
俺は深く頷いた。
「で、事前準備は終わったわけだ。そろそろ本命の作戦を教えてくれ」
頬杖をついてテーブルにある地図の橋の部分を相変わらず指で突き、退屈そうにしている伯爵に俺は苦笑いを浮かべる。
残り余った、俺の石とディアナの石を橋の所に騎兵部隊の場所に配置した。
「俺達も敵もこの橋が狭いから活用する事が難しいとさっき話した、だから敵はこの橋を重要視しないと。だが逆を言えばこの場所は敵にとって盲点となるわけだ」
俺は白い石を橋の向こうの黒い石の中へと進ませた。
「前哨戦で戦った感想だが敵の将はかなり若手だ。それにかなりの気性が激しく、少し挑発をすれば一騎打ちでも受けてくれそうなほどだ」
俺は黒い石の一個に将と傷をつけた。
「ま、そんなうまくいくわけがない、敵だって一度やりあって実力差が分かったはずだ。けどそんなの関係ない、俺ならこの橋を突破する事が出来る」
「よほど自信があるんだな。けど突破したところでどうする? 敵の総司令官の前にはいくつもの部隊がいるぞ?」
敵が渡河をしてきたところで全軍が向かうには川幅も時間も無いため、当然対岸で待機している部隊も多いはずだ。だが逆に言えば、その部隊がいなくなったとしたら敵の総数は渡河した部隊だけになる。
「当然橋を突破されたのなら対応する部隊を差し向けるはずだ。そうしたら渡河を行う予備兵力が減少する事を意味する。その瞬間に、騎兵と歩兵という差をいかし俺達は急速に反転し橋を渡ってアリシアの部隊に合流し敵側面への攻撃に参加する。
そして橋はこの時に破壊する」
対岸に黒い石を壁のように並ばせた後、俺の白い石を動かし橋を渡って、セドリック達を攻撃している敵の側面へと移動させる。
「これで敵渡河部隊が敗走すれば、すぐの立て直しが困難になり。少なくとも渡河は中止、うまくいけば撤退に追い込むことさえできるだろう」
「なるほど……。簡単に言えば、相手の機動力を担う騎兵部隊を拘束し、相手の対応力が低下したところをかき乱す……という事ですか」
地図に配置された石を食い入るように見つめるパリスは感嘆の声を上げた。
「しかし、撤退時に橋を壊すとおっしゃいましたがどうやって。道具は置いてきてしまいましたが」
「それは問題ない、俺が破壊するから」
「え? ご、ご自身で? いえいえ、そうはおっしゃいましても。もう一度言いますが道具が無いと――」
「それは問題ないと断言いたします」
「問題ありませんわ」
「若様なら問題ありません」
一緒に戦い俺が崖を破壊した事を知っている三人が援護してくれたおかげで、パリスは納得いってなさそうだったが引き下がってくれた。
「みんな、異論は無いな? 明日はこの作戦で行く。覚悟は今日中に決めておいてくれ」
そう言い作戦会議の幕を閉めた。皆それぞれ戻っていく中で、空っぽとなった陣幕に残った俺は。
ポケットからコインを取り出しテーブルへと叩きつけた。
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