第26話・幕間:今世の二人
パーティーの後、俺達は北のグリンデン要塞を攻める事で方針を決定したが。その後数日間いまだに伯爵の町から動いていなかった。
そんな日々を過ごしていたある日に、アリシアからデートをしませんか? と誘われ。俺は平民の服装に身を包み町へと繰り出している。
そしてついでにデート以外の予定も消化しようと、この伯爵の町グリバーデンの側を通るネイスト川の船着き場へと向かった。
居城のある街の中心は石造りの建物が多かったが、目的地に向かうにつれ木造の建物が増えて。辺りには網や釣り具などが落ちているのを見える。
そうして進み続ければひと際大きくこの場にそぐわない石造りの建物が見えてきた。
薄橙色のようなクリーム色のような石壁に沿って歩き、川に面している入り口らしき木製の扉へと向かった。
少しチクチクする服の袖を捲り、拳を握って少し強めに扉をノックする。
「なんだ」
頭にバンダナを巻いた目つきの悪い男が扉を開いた。
「スザンヌさんいる? ケントが来たって伝えてくれない?」
年若い俺の姿に要件の思い当たらない男は怪訝な表情をしていたが、スザンヌという言葉に少し驚いた顔をして、「待ってろ」といい扉を閉め。その後少したって扉が豪快に開かれた。
「なんだいケントこんな時間に」
確かに少し朝早かったかなと思った。日に焼けた朝黒い肌をし、少しぼさぼさの黒髪に傷のある逞しい腕をした美女がでてきた。
「まあいいよ、何か要件があるんだろ? 入ってきな」
「違う違う。前に頼んだ事の進捗を聞きに来たんだ」
俺はこの町に来た時にスザンヌへと伯爵の手立てで顔を繋いで貰い、あるお願いをしていた。
「そんな事で、こんな朝早くやってきたのか?」
呆れ顔になったスザンヌ。
「準備の方はすでに終わっているよ、悪魔共のせいで仕事が無いからね。だけどいつまでのこのままってわけにはいかない。それは分かっているんだろ?」
「もちろんわかってるさ。俺の予想ならそろそろ使うことになる」
「……ま、すでに金はもらってるあたしにとっちゃどうなろうといいけどね」
「要件はそれだけだ、こんな時間にごめんな」
「本当にそれだけだったのかい」と呆れたような疲れたような表情をスザンヌがしたら、小走りの足音が聞こえてきてちょうどアリシアが集合場所にしたここへやってきた。
「なんだいなんだい。あんたのこれかい?」
「ノーコメント」
ニヤついた表情で話しかけてきたスザンヌに、こういった人種の相手はめんどくさいと相場が決まっている為無理やり扉を閉めて追い出した。
「おはようアリシア」
「おはようございますケント」
俺は笑顔で迎え入れ、アリシアも笑顔で寄ってきたがどこかその表情には怒りが滲んでいるような気がした。
「他の女性とも予定を入れていたなんて罪な男ですわね? いつの間にそんな上手になったのかしら?」
「ちがうよ! スザンヌとはビジネスの関係さ」
慌てて言い繕った俺の姿が面白かったのか、そもそもからかいだったのかアリシアは声を上げて笑い出した。
「アリシア……」
「フフ、申し訳ありません。ですが弱点を見せてきたのはあなたですわよ?」
そう言いながら手を差し出してきたので俺はその手を握った。
前世ではあまりこういった時間は取れず、落ち着いたころにはお互いいい年だったためこういった事は嬉しさ半分恥ずかしさ半分に感じる。
そうして町に繰り出し、俺は最初にご機嫌取りを兼ねてアリシアの好物である甘い物を求めパン屋へと入った。
店内は朝食の時間が過ぎている為かお客の姿は少なく、比例するようにパンの数の少なかった。だが、王国西部の名物であるリンゴを使ったパン残っていたため二人で同じものを買い。次の目的に向かいながら食べ歩きをする。
「意外に甘いですわね」
さすがに貴族へ出されるような甘味には負けるが、ほんのり香るバターの風味とシャキシャキとしっかりと感じる果肉の果実本来の甘さが口に広がる。
「このりんごという名前は、あなたが名付けた名前でしたわね」
「え? そうだっけか?」
ほんといい加減なんですからとまたアリシアに笑われた。
そうして楽しく街中デートしていたら、あっという間に夕方になってしまい。俺はそろそろ戻ろうかと提案して。
城へと向かい歩き出そうとしたらアリシアが服を掴み止めてきた。
「どうした?」
「……不安に思った事はありませんか?
貴方は一度世界を救いました。それならば今世の事は今の人達に任せるようなことはしないのですか?」
突然の質問だった。
夕日に照らされたアシリアの表情は迷子の子供の様だ。
俺はしっかりとアシリアと向かい合い正面から抱きしめ優しく答えた。
「俺はもう二度と目の前の悲劇を見て見ぬふりなんてしない。そう決めたんだ」
「決意……だから助けると?」
「それだけじゃない。俺達だって今を生きる人間なんだ、王国が攻められている事は他人事じゃない」
「私達も今を生きる人間……」
そう呟いたアリシアは静かに泣き出した。
俺はそれ以上何も言わずに抱きしめ続け、アリシアが落ち着くのを待つ。
「私は不安だったんです。周りとちがく前世の記憶をもって生まれ、自分が世界の異物のように感じられて。
貴方に会った時は心底安心しました。自分だけが取り残されたわけでは無いと思えて」
アシリアは一人孤独だったのだろう。周りの子供とは違う、でも大人達とも違う。
俺がこの世界へやってきた時と同じような感覚なのだろう。今まであった繋がりが一切合切無くなり一体自分の居場所はどこなのだろうと。
しばらくしてアリシアは泣き止んだ。俺はその顔を見ないようにし優しく手を引いて城へと向かった。
そして門をくぐりそれぞれの自室へ戻るため別れようとした時。
「ケント」
名前を呼ばれ顔を向けた瞬間お互いの瞳が至近距離で見つめあった。
俺の唇とアシリアの唇が重なり、数秒後に離れお互いに呼吸を再開する。
「失礼しますわ!」
アシリアは少し顔を赤くして、足早に去っていく。
(元俺の嫁、今は恋人って感じ? まるでアニメみたいだ)
情熱的なアリシアの行動に俺も顔が熱くなるのを感じる。
このまま夕食にでれば伯爵にからかわれるのは明白なため、俺は体中が熱くなってしまえばいいとおかしな考えで剣の素振りへと向かった。
「二度目の人生もまた覇王」異世界に来た俺は魔王を討伐し覇王と呼ばれ亡くなった。そしたら二度目の人生が始まったので今度は平和に暮らします。魔王が復活してる?仕方ないので前世の妻と共にもう一度討伐します。 戦亀 @senngame
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