第25話・幕間:部下達
伯爵の城下町の外には兵士達が野営地を構築し、外側にはテントが建ち並んで陣地の中央に近づくにつれ簡易な小屋に変わり。
その中の一つセドリックの小屋へと夜中オレは入っていき、火のつけられた蝋燭が置かれたテーブルへと向かい合うように座った。
「来てくれたよかったよダミアン」
早速セドリックが微笑みながら歓迎してきた。
「まあ、酒が飲めるってんなら乗らない手はない。それで、一体酒はどこにあるんだ?」
テーブルには蝋燭の他には何もなくオレは怪訝な表情をする。
「まだまってくれ、もう一人来る予定なんだ。酒はその人が持ってくる」
もう一人とは一体誰なのかオレには見当がつかなかったとりあえずは納得したが。セドリックは何だが落ち着かない様子だった。
「お前どうした? どうしてそんなに落ち着きがない?」
「え、あ。これは……まあ、ほんとは酒が来てから言おうと思っていたんだけど。……ダミアン。先の戦いでは崩壊しそうだった前線を保てたのはあなたのおかげだ。その、か、感謝している!」
顔を真っ赤にしてそうお礼を言ってくる姿にオレの方も少し恥ずかしくなってくる。
だが
「オレのした事なんざ大したことじゃない。もともとのお前の指揮が良かったからだ」
間違いなくそう断言できる、実際にした事なんて兵士共へ活を入れただけだ。陣形も部隊移動も、すべてにおいてセドリックは俺より熟達していた。
何より敵の攻撃を巧みに察知し、前線が崩壊しないよう部隊を移動させる視野の広さには完敗だ。
もしを考えてしまう。
もし俺があのまま山賊を続けていたとしても、どこぞの兵士達に負けていた事だろうと。
あの小僧は俺にとっての蜘蛛の糸だったのだと今頃になって理解した。
「ダ、ダミアン? 一体どうしてそんなに暗い顔を……何か気に――」
どうやら表情に出てしまっていたようで、この後の酒がまずくなるため気持ちを切り替えた時。
小屋の扉が開かれた。
「一樽買ってきた、これで足りるだろ?」
なんとまあ。
部屋に入ってきたのはまさかのディアナだった。
騎士らしい騎士といった印象でなおかつ女性なのに男二人と酒を飲みかわす。意外すぎて口を開けっぱなしにしてしまった。
「ありがとうございますディアナさん! さ、こちらに座ってください」
ディアナは席に座ると早速樽の蓋を開け、セドリックが取り出した木製のコップで酒を掬って配ってくれた。
オレは安酒と聞いていたが、期待半分で改めて樽の銘柄を確認したがしっかりと安酒だ。
「お、おまえってこんな酒を飲むのか?」
「それ僕も思いました。一応声を掛けたら来るっておっしゃるので驚きました」
話を振られたディアナは早速一杯目を飲み干した。
「もともと我が家の家柄は良かったけれど貧乏で、娯楽らしい娯楽に触れた事が無かったのだ。
だけれど騎士団に入ってお嬢様の護衛となったさいに、お嬢様から町へ連れられて初めて酒を口にした。安酒を」
「ええ!! あのアリシアお嬢様が自ら安酒なんて飲んでいたのですか!?」
これまでの人生で一番の衝撃だった。
典型的な貴族のお嬢様みたいなあの女がまさか、それも自ら安酒を飲んだなんて信じられない。
「それだけじゃない。お嬢様はああ見えてかなりの武闘派だ。よく騎士達に混じって訓練を受けていた」
「人って。ほんと見かけによりませんね……」
「ああそうだ。お嬢様は頻繁に街へと繰り出されよくお父上様を困らせていた。もちろん私たち騎士だって振り回された」
主の愚痴……と言っていいのだろうか。酒のせいかディアナから次々にアリシアの話が出てくる。
幼少期から今に至るまで話していた所
「そうだダミアン! 見かけによらないと言えばお前もだ。この前の戦いでの活躍は意外だったぞ。わたしは山賊だった貴様があそこまで出来るとは正直思っていなかった」
あまりの言葉にさすがに怒りが昇ってきたが、言い返せる材料が無く大人しく酒を飲み続けた。
「そうですよ! ダミアンは僕の指揮を褒めてくれましたけど。ほんとに危なかった時を救ってくれたのはあなたなんですから」
「本当に危なかった時?」
酒に誘っておきながらあまり強くないのだろうか。セドリックはかなり顔を赤らめて若干呂律が怪しくなりながらもオレの問いかけに答えてくれた。
「ほら、左の部隊が崩壊しそうになった時に。自分からその部隊に混じって武器を振るって兵達を鼓舞して崩壊を食い止めてくれたじゃないですか。
ふつうあんな状況ビビッて腰が引けてしまいますよ、実際僕はかなり諦めていました。けれどダミアンの勇敢な背中を見たら僕も頑張らなきゃって持ち直したんです」
「そんなことがあったのか、根性あるじゃないかダミアン! ますます見直したぞ」
さっきまで思い悩んでいたのはどこに行ったのか。異様に持ち上げられた俺は不安何て吹っ飛んでしまった。
俺は自らがつかんだ蜘蛛の糸がいまだに切れていない事に感謝し。
その日はそれ以降の記憶が無く、朝起きたらセドリックと折り重なって眠っていた。
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