第3話・山賊討伐
乗ってきた馬を山の麓の木に繋ぎ、俺達は針葉樹林の広がるエルナト山中を進んでいた。
あまり人の入らない山にもかかわらず、至る所に切られた後のある藪や、踏み固められた地面が見え、確かに人の気配があった。
茶色のローブに身を包んで辺りの草木に身を隠し、辺りにざっと見渡せば、見張りと思われる山賊が30名は数えられた。
「わ、若様? 人数多くないですか?」
「確実に多い、見張り何ていない事もざらだったし。これ下手したら200以上いたりするんじゃね?」
「ちょっと、何気軽に言ってるんですか! 僕達10名しかいないんですよ!」
セドリックの言葉に続くように、8名の兵士たちも首が千切れてしまうのではないかというほど頷いた。
(やっぱりこれ中央で何か起きたな……)
もう一度山賊どもの様子を伺えば、木製の防具や武器を持っている奴らがほとんどで、着の身着のまま賊になったかのようだった。
さすがに一度戻り兵を増やした方がいいかと思ったその時、アジトと思わしき洞窟の傍で乱雑に積まれた材木を見つけた。
アジトの補強かワナの素材か、そんな事を考えながらふと連れてきた兵士を見る。
いきなり視線を向けられたことでキョトンとした表情をした兵士の手元に、念のために持ってきた油と布があることを確認する。
「お前らからさ一人だけ援軍を呼んできてくれないか?」
「それは……構いませんが。残りはどうすのですか?」
「やるぞ」
「…………や、やる?」
「攻撃に決まってんだろ」
わずかな静寂の後、身の危険を感じた兵士達は俺の考えを改めさせようと言葉を尽くすが、もちろん俺はしっかりと勝算のある作戦なのだから聞き入れなかった。
説得は無理だと悟った兵士たちは、そうなると今度は伝令に行く一名の枠を争って熾烈なじゃんけんが行われた。
戦いは白熱し涙あり笑いありの大接戦の末に勝者である弓兵のジョンが、山賊どもにばれないよう小さく天に向かいガッツポーズを決めた。
「あ、すまん。言い忘れてたがジョンは確定で居残りな、お前の弓の腕が必要なんだ」
天国から地獄へ。
突き出した拳を地面に叩きつけ涙を流すジョンの隣で、俺は二番だった奴に50名の援軍呼んでくるように言い。
そいつは天に祈りを捧げた後に、敵に聞こえないよう小さくでも元気な声で「了解しました」と笑顔で言い残し颯爽と馬の所へと向って行った。
「最初に言っておく、これは博打でも何でもなく確実に勝てる戦いだ。
俺を信じついてくれば勝利の美酒をお前らに味合わせてやる。
明日同僚どもと伝令に返ったあいつにこういう準備をしておけ。「勇者となる日を逃した」ってな。」
多少はましな顔になった兵士達。
この勢いのままにさっさと作戦を伝え行動を開始した。
俺はセドリックとジョンを連れアジトの下側に移動し、残りの6名は横に回って警戒されていない道から山を登って行った。
山賊どもは数が多い為か遊んでいるものや、中には眠っている見張りさえいるほど大きく油断していた。
だからこの人数でも勝てると思った。
兵が山の上に到着したのを確認しジョンに火矢の準備をさせた。
「あそこにある材木が見えるか」
「俺弓兵っすよ、あれくらい余裕で見えるっす」
「よし、じゃああそこに向かって3射打ち込んでくれ。そしたらお前の仕事は終わりだ」
少し強めに肩を叩き笑いかけ「お前がこの戦いの主役だ」そう言うと、お世辞と分かっていながらまんざらじゃなさそうなジョンは、すぐさま矢をつがえ弓を引き絞った。
瞬間、鋭く空気を切り裂く音が鳴り響く。
空気抵抗の強く弾道が安定しない火矢を見事材木へと一発目から命中させた。
「セドリック行くぞ!」
続けざまに二射三射と飛んでいく矢に続くよう、俺はセドリックと大声を上げながらアジトに向かって突撃を開始した。
火矢の刺さった廃材は勢いよく燃え上がり周りにいた山賊たちは消火しようとしたが、火の勢いは増すばかりだった。
そして立ち昇る黒煙を合図に山の上にいた兵士達が鎧を叩き、騒音を鳴らしながら「我々は騎士団だ!」「こっちは500もいるぞ!」「お前らはもう包囲されている!」と言うと。
山賊どもはたちまちパニックに陥り、もうすでに逃げ出す者すら現れた。
「一体何の騒ぎだ! お前ら持ち場から離れるんじゃねぇ!」
アジトの洞窟から大柄で髭と髪を伸ばし放題な、まさに野蛮人な容姿をした男が周りの山賊どもを落ち着かせていた。
実力があるのか、カリスマなのか、その野蛮人が出てきてからは混乱がだんだんと収まっていき逃走を止める賊どもが現れた。
予想が外れ圧倒的に早く混乱が収まりそうだったが、山賊どもの頭と思わしき人物がすぐに見つかったのは幸運だった。
俺はセドリックを置いていき森の木々を蹴り進んで、高速で頭の所に向かい。
周りにいた数名の山賊を蹴り飛ばしながら目の前に着地した。
「な、なんだ!?」
驚き固まってしまった頭、そのチャンスに俺は懐まで一気に飛び込む。
遅れたとはいえすぐさま迎撃をしようとした頭の戦闘センスに感心したが、もう遅かった。
持っている剣の柄を腹に叩き込み、口から唾を吐き痛みで硬直した頭の背に回り両手を拘束し首元に剣を当てた。
「山賊ども動くんじゃねぇぞ、おまえらの頭は捕まえた! もうおまえらの負けだ。命が惜しければおとなしく武器を捨てろ!」
「聞くなお前ら! オレ達はま――」
剣を頭の口に突っ込み強引に黙らせる。
改めて見渡せば思った通り、アジトから出てきた奴らを合わせ200名もの山賊たちがいた。
このまま頭を殺すことはできるが、そうすれば山賊どもがちりじりに逃げてしまう結果となり、討伐の手間が増えてしまう。
そのためこのまま山賊どもが降伏してくれればいいのだが。
……うまくいったようだ。
「よし。悪いようにはしないから武器を捨て、洞窟の中に入れ」
木製と数少ない金属製の武器が乱雑に山積みになっていく。
よほど頭を失いたくない無いのか、そんな頭が負けたショックなのか、山賊どもは大人しく言う事聞き続々とアジトの中へと入った。
「ま、まさか本当に成功するなんて。いつもいつも無茶ばかりしていますが、今回はさすがに無理だと思っていました。不肖このセドリックこれからもついて行きます若様!」
集まってきた兵たちは、生き残った喜びと思いがけない戦果に喜び抱き合っていた。
俺は兵から縄を受け取って頭を拘束するため剣を口から抜くと、頭は恨みがこもった表情でしゃべりだした。
「くそ! お前らはいつもそうだ! 自分らの不始末を俺達に押し付ける!」
「押し付ける? どういう事だ?」
「若い奴らを連れていき、村の食料を根こそぎ持って行ったのはお前らだろ!」
拘束したロープが解けてしまうのではと思うほどの暴れっぷりに、兵士二人が両脇から押さえつけた。
「だがそれで山賊になっていい理由はないだろ。お前らが襲っているのはもともとのお前らみたいな農民達だ。お前らはもう被害者ではない」
「だまれ! もともとお前ら貴族がした事だろ!」
「そうやって貴族とひとまとめにする、少なくともうちの村ではそんな事はしていない」
罪人の身勝手な言い分だったが引っかかるものがあった。
少なくとも最近中央から来た商人からそんな話は聞いていない。
そんな事を考えていた所に、伝令として行かせた兵が慌てた様子で帰ってきた。
「そんなに慌ててどうした、山賊の討伐ならもう終わった。あとは拘束して――」
「――そ、それどころじゃありません若! えと、王国に悪魔が侵攻してきて。そ、それで中央の、中央の貴族様達が壊滅しました! あと貴族様のご令嬢様が逃げてきて……」
「……は?」
途切れ途切れで呼吸をするのも煩わしく思っているかのような焦った報告に、俺の脳内の空白になっていたパズルに最悪のピースが嵌ってしまった。
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