第11話・凶報
朝霧の出ている間にすぐに兵を起こして親父に伝令を走らせた。
戦いに勝ったのにこんな朝早くになぜ行動するのだろうと、兵達には不信が広がったが粛々と指示に従い行軍体勢になった。
そして欠伸をするものや、寝ぼけ足取りの怪しい者たちを連れ街道を進む。
だんだんと明瞭になっていく風景が、逆に時間の流れを感じさせ焦りが募り始める。
俺を含み皆何も話さなかった、
今はなに一つ状況が分からなかったため、自分達にできる事は伯爵の行為が良い方向へ向かう事を祈ることだけだった。
村へは昼前には戻ることができた。
様子をかがっていたのだろう、館の前には家族が待っており。俺は兵たちに休息を命じて素早く近寄った。
「親父! 伯爵はどうなった!」
「……」
親父は暗い表情で顔をそらし何も話さなかった。代わりに傍にいた兄が俺の横に立って、耳元で小さい声で話し始めた。
「伯爵様の軍は敗北した……」
「ッ!!」
わかっていた、というよりそれ以外の結果だったら声を上げていただろう。
「ここではまずい。詳細は中で話すから、ディアナさんとアリシア様を連れて書斎に来てくれ」
「……わかった」
気を引き締める、余裕のできたはずだった戦いはまた振出しに戻ったに等しかった。
俺は言われた通りに二人に声をかけ伯爵が敗北した事を話せば二人は驚愕し、書斎へ来てほしいといえば素直に従ってくれた。
そして兵たちの事をセドリックとダミアンに任せ、俺達は言われた通りに階段を上り書斎へ入った。
「……お二人様、ご足労を賭けまして誠に申し訳ありません。内容が内容でしたので……」
兄は二人に礼をする。続くように父も頭を下げたが、どこか心ここにあらずと言った様子だった。
「報告が来たのは夜が明けてすぐでした。伯爵様はあなた方が出陣された時には、中央へ向かわれていたらしく昨日のうちに決戦となったようです。
そしてその日のうちに敗北し。……現在は状況が分かっておりません」
「き、昨日のうちに出陣されたのですか? 魔法使いもいた中央貴族連合ですら敗北したのですよ? どうしてそんな無謀な事を……」
「公爵である……」
絞りだすような声だった。
「伯爵は、アンドルフは! こんな無謀な戦いをする様な男ではないのである!
中央で敗北した公爵が、自らの領土奪還を目的に進軍させたのである!」
「公爵様はこちらへ逃げていらしたのですか!?」
中央貴族のまとめ役にして王家の分家。そんな大物がなぜ王都のある東部ではなく西部へと逃げてきたのか。
「奴は王家と仲が悪いのである。自らの領土を取り戻す手足として、吾輩ら西部貴族を当てにしたのである」
「そんなことは後回しだ。今は自分達の身を守るのが先決だろ?」
俺は持ち出した地図を取り出して、今回は整頓されていたデスクに開いた。
「中央から西部にはザーン川が通っていて、アクト川と同じくこれの渡河を阻止したいところだが」
「それは、不可能ではありませんか? アクト川と違いザーン川にはいくつかの橋が架かっております。今からすべてを破壊するのは……」
俺達は一つずつ作戦を出しては潰すという事を繰り返し、これといった解決策が出てこなかった。
その時、荒々しく書斎の扉がノックされた。
「だれである! 入れ!」
「――失礼します! いまグリーンハルト伯爵様の軍がこちらへ向かってきています!」
「なんとッ!!」
親父が真っ先に部屋をを飛び出していき俺達は慌ててその後を追った。荒々しい足取りに階段が悲鳴の軋みを上げるのを無視し、親父が開け逆光している玄関に飛び込んだ。
すると屋敷の前には緑色の旗を棚引かせ視界をうめ尽くすほどの兵がいた。しかしどの顔にも疲労の色が濃く、統一された鎧には土汚れが目立っていた。
「アンドルフ! よかった……よかったのである!」
「アルバン……」
巨漢というのがしっくりくるほどに恵まれた体格をし、白髪交じりになのに老いを感じさせない顔つき。そしてべたべたと手を握って涙を流す親父に困り顔のこの男性がグリーンハルト・アンドルフ伯爵その人であった。
「そちらにいらっしゃるのは……ブルークライト家の」
「アシリアと申します伯爵様」
「そうか……バンホルトの事はご冥福をお祈りする」
親父の歓迎を受け流しながらアンドルフ伯爵は俺達に挨拶をし始めた。一人ひとり言葉を返し俺の番となった時顔つきが変わった。
「君が」
「オレンジブル・ケントと申します」
「君の父からよく聞いているよ、「吾輩とエバンスから生まれたとは思えないのである。きっと天から軍才を授けられたのである」っとね」
何とも言えない気持ちになり、苦笑のように笑顔を作ってごまかした。
「それに報告を貰ったよ、北の敵軍を倒したのだろ?」
「え、ええ。お耳が早いですね」
(まさか中央に向かっていながら、北の情報をもう手に入れているとは)
心強い、そう思った。
中央で戦っていた訳なのに、他の場所の事も考え情報を手に入れようと思う。その視野の広さはまさに優秀な指揮官の特徴だった。
「君の手腕を買って一つ質問があるのだが、敗北した我々はこの後どうしたらよいと思うかね?」
間違いなく分岐点となる質問だった。伯爵は口元に笑みを浮かべながらもその瞳は鋭く細めている。
「ザーン川南の橋はもう壊されていますね? そして撤退なされていながらも北部の橋を壊した」
人読みだ。この人ならまず中央への攻勢が失敗すると認めており、その後の対策をしていると。
「……そのとおりだ」
「なら残すは中流の橋。今すぐに軍を向かわせるべきです。そして敵軍を対岸に封じている間に、敗残兵や…………父みたいにあえて残しておいた貴族を招集するべきです」
なるほどと思った。よほど用意をしていたのだと。なぜ父に召集の話が来ていなく、でありながら出陣したと連絡が来ていたのか。
「そこまで……ハッハッハ! ――そこまで読んだか! おいアルバン! お前の考えは間違いじゃないかもしれないな! こいつはお前の子じゃないぞ!」
「さ、さすがに言いすぎなのである!?」
伯爵は大笑いを上げながら父を引きはがし、そして俺の前に立つ。すると俺はその大きさから見上げる形になった。
「ワタシはどちらかと言えば司令官には向いていない。ほんらいは今は床に伏せられてしまったが王の指示で戦っていたのだ。
……お前の下ならばもう一度本来の俺に戻れそうだ。」
封印していたのだろう、野蛮で獰猛な獣の精神がその強烈な笑顔から覗かせている。そして腰に帯びていた剣を鞘ごと引き抜いて投げ渡してきた。
「俺はこの戦い細工は施したが、あのバカのせいで勝つ方法が分からなくなってしまった。なら一つ次世代の若者に託してみるのも一興。どうだ、その剣受け取らないか?」
俺は無言ですぐに受け取った剣を鞘から抜き、上にある伯爵の肩に剣の腹を当てた。
「ケ、ケントお前! 何をしているのであるか!!!」
「こいつは……。古風だな小僧。この行為がどういった意味を持つかしっているのだろうな?」
威圧感を出す伯爵、だがその程度で俺は怯まなかった。こんな事で怯んで魔王に勝てるはずがない。
歯茎をむき出しにして笑った。
「俺に付いて来い。あんたの望む戦場に連れてってやる」
おろおろする伺う周りをよそに、俺達は二人して笑った。
獣は自らの本能を取り戻した。
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