第22話・フラウロス

 陽は隠れて久しくたいまつに火をつけ休まずに魔王様へ合流を目指し、数名の部下を引き連れ重い足取り来た道を引き返す。

 惨敗だと言われても仕方がないほどに手ひどくやられた。正直何名生き残っているのか想像がつかない。

 こうして儂が逃げられているも奇跡に……。いやそれはアクバに失礼だ、恩知らずすぎる。

 あまりの出来事に頭には霧がかったかのようだったが、今になって思い返せば確かに油断している部分はあった。


 だが何十倍も兵力差がありながら儂の元にまで突破してくるなど。

それにあの時見せた光の柱。

 心底恐怖した。いったい儂が戦っている相手はだれなのだろうかと。

 理不尽の一言で済ますことは……さすがに逃げなのだろうか。


 そうこうしいると後方より素早い足音が聞こえてきた。

 儂らに緊張が走ったが、これは人間どもが使役している馬という生物ではない事に気づいた。

 儂は部下へ無言で停止の合図を出しその音の主を待つ。


「あ、れは。アクバ将軍? アクバ将軍がやってきます!」


 最後方の部下からそう報告された。

 儂は、先の戦いにおいて見つけた原石を失わずに済んだのだと心底安心した。彼が生きている事だけが儂の敗戦を意味のあるものにしてくれると思っている。


 だが、現れた魔獣は数騎。そして先頭の魔獣には血まみれでぐったりとしたアクバが部下におぶられていた。


「アクバ!」


 儂はすぐさま駆け寄り容体を確認する。

 左腕を失っているようだが応急手当がなされており、本人は意識を失っているようだ。

 今すぐ死ぬようなことが無く一安心したが、それでも早く医者の処置を受けなければどうなるか分からない。


「儂の事はいい、お前らは自らの主の心配をしろ。この先の町に駐屯している部隊には医者が同伴している。急げ!」


 敬礼をしようとしているアクバの部下を静止し、すぐさま医者の元へと行かせた。

 一瞬戸惑っていたが、すぐさま命令に従い儂らを追い越していく。


 自らの失態を見せつけられたようだった。いや実際に失態だ。

 いくらだって後悔してもしたり無い。アクバに殿を任せなければよかったと、儂の様な老いぼれで代われるのならいくらだって……。


 いつまでも立ち止まっているわけにもいかず、儂らはまた進み始めた。


(作戦自体に無理はなかった。北と東からの挟撃。それに南から帝国軍も来るはず――)


 そうだ。そうだった。帝国は一体何をしていたのだ。

 奴らとは条約を結び、不可侵の代わりに王国西部へ助力する手はずだったはずだ。


(反故にしたのか? あの人間の情報を知っていて我らが負けると思ったのか?)


 ならばあの人間は帝国の者なのだろうか。

 あるいは帝国としてもあの人間はイレギュラーであり、疲弊した王国西部と我々、両方を襲おうとしていたのか。

 であるのならば、帝国領を監視している兵からいまだ報告が上がってこない事が気になる。

 そういう計画ならば明らかに行動が遅い。


 いくら考えたところで答えが出るはずが無かった。答えが出るとすればそれは帝国が実際に行動を起こしてからだ。

 だが、今すぐ言える事がある。

 我々は帝国にどうれあれ謀られたという事だ。


 儂はきつく拳を握った。

 大切な部下、魔王様より授かった軍。そして悪魔軍将としてのプライド、その全て失った怒りのぶつけ先。姑息にも戦いをそこからコントロールしようとする卑劣者。


「帝国ッ! この借りは絶対に返させてもらうッ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る