第23話・パーティー
伯爵の居城へと到着した俺達は姫様を気遣ってすぐに堅苦しい会議を行うのではなく、戦勝パーティーを兼ねた立食会を開くことになった。
シルクの様なテーブルクロスに乗せられた料理には見覚えが無いものがほとんどだったが、数は少ないが転生する前に食べた事のある物もあった。
そのうちの一つにクルミのような木の実を甘辛く炒めた物があるのだが、その味付けが味噌のような味がして好んでいる
俺はその皿があるテーブルの前でひたすら食べていたら、赤いドレスに身を包んだアリシアが飲み物を持って来てくれた。
「ブンドウのジュースです、相変わらずお酒はだめですか?」
「生まれ変わったって味覚は変わんなかったな。ありがとう」
紫色の果実を絞った飲み物を受け取った。少し渋みと酸味がある甘い飲み物だ。
「そういう君こそ好みが変わったりしたのか?」
俺は転移と転生の両方を経験したが好みが変わるような事は無かったが、もしかしたら他の人ならおきるのではないかと疑問に思い問いかけてみた。
「んー好みですか……? いえ、変わったりしませんでしたわ」
肉体が変わっても精神が同じならそう簡単に変わる事は無いのだろうか? 俺はさっさと意味のない思考を切り上げて、好物を口に運ぶ事に専念する。数日前に北へ出陣してから塩っ辛く固い食事ばかりで飽き飽きしていた。
それは他のみんなも同じだったのだろう。伯爵やパリスそしてディアナなどの騎士・貴族階級らや、厚意で呼ばれたセドリックとダミアンなどの隊長格達も、全員がもれなく食事に釘付けだった。
「……伯爵様がお呼びでしたわ」
耳元でアシリアがそう囁いた。
伯爵の方を見れば、体は別の方を向いているのに時折視線だけは飛ばしてきていた。
意図はすぐには分かった。
伯爵の奥さんと楽しそうに談笑している姫様と、伯爵の位置は真反対に位置していた。
呆れそうなほどの気遣いだ。
(そこまで気にするのなら、今じゃなくて後にすればいいのに)
口に含んでいる食べ物ごとため息を呑み込み、俺はアリシアに感謝を伝えて伯爵の元へと寄った。
そして隣へ近づいた瞬間、伯爵は俺の方へ腕をまわし密着するほど引き寄せてきた。
「帝国に動きは見えない。だが、援軍を出すという話だったのにそれらしき兵の招集する動きも見えていない」
「完全に沈黙ってわけか……」
拘束はすぐに外された、一番重要な話が終わったのだろう。
俺は帝国の動きがチグハグだと感じた。
攻撃するわけでもなく、助け合うという感じでもない。何なら今すぐ動くような体制をとっていない事がおかしな話だった。
(悪魔共が自国へ攻めてこないとでも思っているのか? 危機感を持っているように感じられないのはなぜなんだ?)
ふつう人間に敵対的な集団と離接したのなら、軍勢を国境へ派遣するなどのアクションがあってしかるべきだろう。
「それで、今後はどうするきなんだ? 現状で手に入る情報はそれぐらいだ」
「悪魔の方は分からないの?」
「悪魔と人間じゃ見た目ですぐにばれる、間者を忍び込ませることなど出来ん」
そりゃそうだ、俺は伯爵の言い分に同意するが。
それはそれとして結局考えても仕方がない帝国の、しかも自分達へのスタンス一つ分かっておらず。
結局情報量としては変わっていない。
「正直、打つ手を考えたところでその通りになる事なんてほぼ起きない。相手の出方が一つも分かっていないのだから」
「そんなことは分かっている。そのうえでどうするのだと聞いているんだ」
伯爵のこの状況を良しとは思ってはいないだろう。少し声を荒げたその印象からは状況の打開を望んでいるようだが。
「堅実に行くしかないと思う。相手がどう出てもとりあえず効果のある策、北の要塞攻略が最善手かな」
思っていた通りだったのだろう、伯爵はため息こそ吐かなかったが沈んだ表情になった。
「言ったではないですか。やはり今は堅実に行くしかないと」
「わかっている、わかっているが……。姫様の事を思うと一刻も早く王都を奪還せねばと気持ちが逸ってしまう」
「帝国が動けばかなり好転するんですが……」
パリスと伯爵ですでに話し合いをしていたのだろう。俺も同じ結論に達した事を残念がっている。
「けれど結局北の要塞奪還の好機なのには違わないし。北への防衛がしっかりすれば、王都奪還もやりやすくなる」
念押しをすれば渋々と言った様子で頷いた。
俺はまた食事へと戻りアリシアやセドリック達と談笑し、しばしの平穏を楽しんだ。
そしてその後は兵達にもすこし豪華な食事がふるまわれ、次の激戦へと向け士気を高めた。
姫様には別館に過ごして貰い、近衛騎士達が警備を行い。俺達は久しぶりのベッドでの睡眠で英気を養い、北のグリンデン要塞奪還へと備える事になった。
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