第18話・決着

 紙一重で負ける圧倒的に強大な敵に挑むこの瞬間と言えば。

 悪い癖になってしまっているのは自覚できるのだがとても高揚してくる。


 俺は右翼の騎兵百名程度を引き連れ、突破口より抜け出し敵本陣目がけて馬を走らせる。

 敵本陣と俺達の間には障害となる地形も部隊も存在しない。

 敵兵の顔が分かるほどに近づけば。俺達が来ると思っていなかったのだろう、驚きと恐怖が入り混じり緩慢な動きで何とか陣形を整えようとしていた。

 

「敵は混乱している! このまま立ち直らせる暇を与えず突撃するぞ!!」


 俺を頂点とした三角形の陣形で敵とぶつかった。

 最前列の敵兵を吹き飛ばしてなお止まらず、巨大な生物の体内を食い進むが如く敵陣を切り裂いていく。

 切って。突いて。潰し。俺達が通った道は赤く染め上げられていき、敵兵の中には恐怖から俺達に進路を譲るものもあらわれ、戦いながらも進行速度が加速していく。

 そう順調に進み司令部らしき陣幕が見えてきたその時、目の前に明らかに質の違う部隊が現れ、最初の激突で相変わらず数名を吹っ飛ばしたが、そこでピタッと突撃が止まってしまった。


 間違いない、総司令官直属の精鋭部隊が最後の壁として立ち塞がった。

 黒色で統一された防具に大盾に大槍と重武装なその部隊と俺達の騎兵部隊の相性は最悪で、敵部隊は密集し槍衾を形成し容易に近づけなくされてしまっている。


 俺は自分が笑っている事に気がついた。


「お前等俺から少し離れろ!」


 そう言いながら俺は馬から降り敵部隊の前に歩み出ていく。好機と思った敵兵の何名かが攻撃を仕掛けてくるが、軽く蹴散らしてしっかり大地を踏みしめて力を集中させていく。

 消耗は激しいがこの場が切りどころと、邪魔な思考され捨て去り剣に意識を集中させる。

 高まる俺の力を感じ取った相手は焦り防御を構えるがそんなもの無意味だ。


 十分力のままに剣を振り上げ。光が集まっているかと思うほどの力を纏った剣が天空を貫き。

 渾身の力を込めて大地に振り下ろせば、大地を震わせ敵陣を通り抜け後方までに及ぶ巨大な亀裂を作り出した。

 そしてもちろんだが目の前の精鋭部隊はその大半が消し飛んだ。


 敵味方問わず大半の兵がその光景を目にしていたのだろう、戦場は静寂に包まれた。


「ぼさっとするな! このまま敵将の首を取り決着をつけるぞ!」


 俺はそのまま走り出し生き残りの精鋭部隊を倒していく。味方も気を取り直し、再度突撃し始めれば。ついに敵兵の恐怖は頂点に達し崩壊していった。

 ほとんど抵抗も無くなり俺はついに敵総司令官の姿を捉えた。

 鷲のような姿をしたそいつは驚いた表情をしており、俺の接近に反応が遅れていた。

 その隙を見逃さずに攻撃を行うが何とか気づいた敵が攻撃を防ぐ。俺は立ち直らせる余裕を与えないよう、連続して攻撃を放ちどんどん追い込んでいく。

 

「す、隙ありぃぃ!!!」


 が、その瞬間横合いから豪華な鎧を着た敵が槍で突いて来たが。俺はあっさりと回避するとその敵は悲鳴をあげて逃げて行った。


「儂の……想像以上だ……。」


 しかし総司令官には体制を整えられてしまった。


「儂の名は悪魔軍将フラウロス。お主、名は何という?」


「オレンジブル・ケント。これ以上の言葉は不要だ」


 俺は問答を行う気はなく、名乗りが終わったらすぐさま攻撃を再開する。


「ケント! まさか我らが悪魔族最悪の名前と一緒とは」


 あまり肉体派の敵ではないのだろう。アクト川で戦った敵よりも数段弱く、数回の打ち合いの後またしても体勢を崩した。

 そして止めを刺せそうと放った攻撃を横から赤い槍が飛んできて防がれた。


「この槍!」


「フラウロス様! ここはおれに任せ早く撤退してください!」


「アクバおまえ……」


 やはりか。

 ディアナが相手をしているはずのその悪魔だった。

 腰から予備の剣を引き抜いたそいつは馬の機動力を使い、俺と打ち合わずに一撃離脱を繰り返し時間稼ぎに徹しており。その間にフラウロスは立ち上がって2対1になってしまった。


「駄目です! さっきの攻撃をご覧になったでしょう。二人がかりで勝てる相手ではありません! 早く撤退してください」


「くッ! ……分かった。アクバこの場は任せる!」


 そう言いフラウロスは戦うのを止め、生き残った精鋭部隊に連れられ逃げられてしまった。

 だが。


「目的を成して気を抜いたか!!」


 フラウロスを気にするあまり、余り攻撃をしてきたアクバを馬上から叩き落すことに成功した。

 素早く受け身をとり立ち上がろうとするが、そんな隙を与えず攻撃を行う。地面を転がりながらなんとか回避していたがついに武器をも落としてしまった。


「――終わりだ!」

 

 首元を狙い放った攻撃は何とか回避したアクバの左腕を斬った。


「ぐぅぅうう!!」


「アクバ様!」


 何とか痛みを我慢して立ち上がったアクバの元に、ディアナが負傷させた部下がやってきた。


「あなたはここで死ぬようなお方ではありません!」


 そう言いアクバを拾った部下へ攻撃をしたが、馬の速度に振り切られ紙一重で届かなかった。

 俺は追撃を行おうかと思ったが、数の差がある中耐えている本陣が気になり、このまま渡河部隊の背後をとり確実な勝利を手に入れる事にした。


「敵総司令官は撤退した! この戦いは俺達の勝利だ! 勝鬨をあげろ!!」


 打てば響くように歓声を上げ自分達の勝利を叫ぶ部下を連れ、俺はいまだ戦い続けている敵の攻撃に移行した。

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