第二児童公園の集会


 「第二児童公園」には長老がいつもいる。砂の地面の上にぺたんと寝転がりながら毛繕いをしている。

 長老の周りにはいつも数匹の猫がいて、長老の話を聞いているのだ。オイラもそのひとりだ。


 長老はいつもいろんな冒険話を聞かせてくれる。カラスと戦って勝った話、魚屋からおっきい魚を仕入れてきてくれた話、車の荷台で昼寝をしていたら遠くまで連れて行かれてしまった話。

 オイラはいつも目を輝かせて長老の話を聞いている。長老はオイラの憧れの存在だ。長老みたいになりたいっていつも思っている。



 そんなある日、オイラは長老みたいな大冒険をしたんだ。

 下水道の中に落っこちてしまって、その中を探検したんだ。

 とっても暗くて臭くて気がおかしくなりそうになったし、ほんの少し歩いたら出口が分からなくなって不安になったりもしたけど、歩いて行ったら光の先に道路工事のおじさんがいて助けられて外に出られたんだ。



 オイラはさっそく「第二児童公園」に行って、下水道冒険記を長老に話したんだ。

 長老はうぬうぬとゆっくり頷きながらオイラの話を聞いてくれて、「よく無事で帰って来れたね」と言ってくれた。


 オイラよりも先輩の白と黒と茶色の三毛猫からは「これで一人前だな」と言ってくれた。

 それからオイラと同じくらい歳の、黒と茶色が不規則に混ざり合ったサビ柄の子猫は、オイラが話している時に、終始、目を大きくして聞いてくれて「それで? それで?」と話の先を聞きたがってくれた。


 そんなに身を乗り出して、目玉が落っこちそうなぐらい見開いて聞いてくれるなんて、なんだかオイラも長老になった気がしてすごく嬉しかった。



 子猫は、「あたしも冒険してみたい!」と、長老が冒険話を話したときと同じように、さらに目を輝かせていた。オイラは憧れの長老に近づいた気がして、うずうずした。

 長老が「危ないからよしなさい」と言っていて、先輩猫が「この先に大きな工事現場があるんだ。そこは隠れる場所がたくさんあって面白そうだったぞ」と言っていた。

 子猫は「人間もたくさんいそうね!」と、さらに目を大きくしていた。


 オイラは、こうやって公園で自由気ままに過ごすのが好きだけど、子猫は「人間に飼われてみたい」と言っていた。人間に飼われるのは何がいいのだろう。

 長老も人間には飼われたことはないみたいだった。


 人間に飼われている猫はこの近くでもたくさん見る。いつも家の中にいて、窓辺で寝ていたり、家の中を走ったりしている。そんな小さな家の中にいて何が楽しいのだろうとオイラは思う。


 その点、オイラはいつだって外にいる。そりゃあ、毎日ご飯を探すのは大変だし、雨風凌げる場所を見つけるのも大変だ。だけど広い空を見ながらのんびりお昼寝できるのは最高だ。人間に飼われている猫にはできないだろう。


 集会はお開きになって、オイラは公園の水飲み場で水を飲んで、そのまま公園でお昼寝タイムにした。

 いつもの場所で、他の猫たちと適度に距離を取りながら、砂地にぺたんと寝転がった。砂はポカポカしていて温かい。気持ちいい。



 ぽたっと水が身体にあたって目を覚ました。激しい雨が降りそうな匂いがする。

 長老はのそりと起き上がり、公園の隣の家の軒下へと移動していった。公園隣の家は本当に最高な場所だ。日中は公園でお昼寝できるし、夜にはすぐに寝床に移動できる。人間に見つかりにくいから朝まで安心して寝ることができるんだ。


 それにこうして雨が降った時だって、屋根がついているからとても助かる。それからあそこには食料も豊富なんだ。ネズミ、蜘蛛、カエル、昆虫、なんだっている。

 オイラも前に長老に勧められて一緒に軒下に行ったことがある。だけど基本的には一人で行動しなさいって長老に言われてて、毎日居るわけにはいかないんだ。

 だから、公園の隣の家の軒下は長老猫の特権だ。



 先輩猫はというと、急いで駐車場の方に駆けていった。車の下は雨風が防げるのはもちろん、さっきまで動いていた車だと、車の下から隙間に入っていくと、とても温かい空間があるんだ。ここも人気の場所だ。周りの猫たちとよく陣取り合戦になる。

 でもオイラはあまり好まない。だって気持ちよく寝てると、いきなり大きな音で、バンバン車を叩いてくる人間がいるんだ。「猫バンバン」って言われている猫を脅かす方法らしい。人間の考えていることはよく分からない。びっくりするじゃないか。


 そして子猫は、長老よりも先輩猫よりも先に、きっとオイラが寝ている間に公園からいなくなっていたようだ。昼に話していた工事現場にでも行ったのだろうか。

 雨が激しくなってきた。オイラも移動しなければ。雨は身体が濡れるから好きじゃない。


 実はオイラは軒下や車の下にも負けない良い寝床を知ってるんだ。前に他の猫がいた形跡があったけど、今は誰もいなそうだったのでオイラが使っている。

 ここからちょっと走るから、雨が激しくなる前に移動しよう。長く雨にあたったら風邪引いてしまう。茂みの道を通りながら雨宿りできる場所を目指した。


 石の階段を登ると、そこには大きな木で作った家が建っていた。そこは木々に囲まれていて、車や電車、それから人間の子供の遊び声も聞こえないとても静かな場所なんだ。今だって雨の音しか聞こえない。

 ネズミはあまり見かけないけど、昆虫が豊富。それから鳥もいる。オイラは捕まえられたことないけど。 


 そして、ここの軒下がとても快適なんだ。木材が置かれているのだけど、その隙間に入ると風も来ないし温かく過ごせる。

 昼間も快適なんだけど、昼は時々、ジャラジャラジャランと鈴の音と、パンパンと人間の手を叩く音がする時がある。だから夜の方が快適だ。


 雨が冷たいし、風も吹いてきた。今夜はここで寝泊まりすることにした。

 オイラは下水道での冒険を思い出していた。とても怖かったけど、その経験が長老に近づけたと思うと、自信に繋がった。

 軒下で丸くなり、激しく降る雨をじっと見ながら、オイラはそんなことを思った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る