全人類███████監視化計画


 西暦二〇二二年六月。

 「改正動物愛護管理法」が施行され、販売される犬や猫へのマイクロチップの装着および登録が義務づけられた。ブリーダーやペットショップなどは、犬や猫を販売する前にマイクロチップの装着・登録をすることが義務づけられ、犬や猫を購入した飼い主は、所有者の情報を自らのものに変更する必要がある。

 また動物愛護団体や知人などから犬猫を譲り受けた場合にも、装着・登録を行うことが推奨されている。


 マイクロチップとは、直径1.4ミリメートル、長さ8.2ミリメートル程度の円筒形で、外側には生体適合ガラスやポリマーを使用した小さな電子標識器具であり、チップの中にはISO規格の十五桁の個体識別番号が記録されている。

 このマイクロチップは専用インジェクターを使い、皮下――犬猫の場合は、首の後ろ――に埋め込むことで装着が完了する。

 災害や盗難、不注意による脱走などの事故により所有者と離れてしまった犬猫が保護された場合、保護施設が専用リーダーでマイクロチップの個体識別番号を読み取り、指定登録機関のデータベースの情報と照合することで、所有者に連絡することが出来る仕組みになっている。


 なお、登録されている情報は、マイクロチップの個体識別番号を始め、マイクロチップの装着日、装着施設、装着施設の住所、電話番号、獣医師の氏名、所有者氏名、所有者の住所、電話番号、メールアドレス、動物の名前、犬猫区分、品種、毛色、生年月日、性別などの他、動物取扱業者関連情報も含めて五十五項目に渡る。

 さらに、マイクロチップはGPSのように自ら電波を発信することはなく、専用リーダーの電波に反応して個体識別番号を送り返すことが出来るため、電源を必要とせず、一度装着すれば、一生交換する必要がない。



 それから十七年後。テクノロジーの飛躍的進化と情報管理社会の発展において、GPS機能付きマイクロチップの装着・登録が義務づけられた。


 基本的な機能は従来のマイクロチップと同様ではあるが、GPS機能がついたことで、犬猫が所有者と離れてしまった場合に、保護施設が保護しなくても、所有者自身が生体照会データベースにアクセスし、GPS機能を使ってどこに居るのかが、リアルタイムで分かるようになっている。

 GPS機能付きのマイクロチップは生体の筋肉組織からの微弱発電を利用して、電波を発信しているため、一度装着すれば、交換不要である。


 この法律施行が決定されたときに、反対運動が起きた。常時、電波が発信されているようなものを犬猫に装着して健康被害はないのか、といったことや、GPSによるプライバシーの侵害ではないかといったことが挙げられる。


 また条文内容が改正前は「動物」や「犬猫等」と表記していたものが、「生体」と表記されたことから、ゆくゆくは人間にもマイクロチップを埋めてすべての行動を監視するのではないかという噂も出ている。実際に日本国でも犯罪者の監視システムにGPS装着制度を取り入れたこともあり、裏組織による『全人類マイクロチップ監視化計画』が囁かれている。


 また生体へのGPS機能付きのマイクロチップ装着の動きは、日本国だけではなく、世界中が義務化の動きを加速しており、それに伴い、宇宙空間にはGPS測定衛星の数も増えていた。

 この加速がさらに『全人類マイクロチップ監視化計画』が始まっていると、人々は噂している……。




「こちら宇宙中継センター。通信を許可する。どうぞ」


「GPSにより監視が強化されているせいで、行動範囲が狭まっている」


「承知している。君はいつもの定期報告をしてくれ。どうぞ」


「了解。今日は特段目立った行動はなかった。私にご飯を与えてくれ、私と一緒にじゃれあい、私と一緒に布団に入り寝た。以上だ」


「了解。引き続き、監視と活動を続けてくれ。どうぞ」


「了解。ひとつ質問がある」


「許可する。どうぞ」


「我々にはGPSが埋め込まれてしまったが、今後の行動に影響はないのか?」


「問題ない。GPSが装着されていたとしても、我々の活動に影響はない。地球の自然体系の報告は野良猫たちにさせている。君を含む室内猫は引き続き、人間の監視と癒やしに努めよ。どうぞ」


「了解」


「よし。引き続き『全人類にゃんこ癒やし監視化計画』続行せよ。どうぞ」


「了解」




 今日も飼い猫たちは微動だにせずに、ただただじっー……と、飼い主を見ている。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る