「低血糖」を意味するタイトルのとおり、身近にありつつ知らないことも多い栄養学が事件解決の鍵となる作品です。
主人公は管理栄養士かつ医大で犯罪栄養論を研究する岩園真帆。大学時代の友人・湖香の死をきっかけに、彼女が勤務していた大手チョコレートメーカーで相次ぐ不審死の疑惑を追うことに。その謎は、やがて真帆たちの大学時代に起きたある事件とつながっていきます。
主人公の研究する、栄養や食生活と犯罪の関係、という切り口がまず興味深いのですが、そうした栄養学の知識はもちろん、大企業の代替食品開発と医大の内部事情をめぐる骨太な世界観、そのリアリティのある記述は読みごたえたっぷり。
美しく聳える六甲山脈を背景に展開されるクールな企業ミステリーかと思いきや、学生時代の旧友や恩師、所属大学の同僚、さらには元夫など、さまざまな人物が交錯しミッシングリンクが繋がれていくので、読んでいて油断できません。
さらに主人公の真帆はⅠ型糖尿病を患っており、定期的にインスリン注射が必要な状態。このタイムアタック要素もスリリングな読み心地をもたらすのです。
連載中の物語もいよいよクライマックス。ぜひリアルタイムで遭遇してほしいです。
ちなみに同じ著者の前作『ランビエの絞輪』(完結済)も、栄養学と新薬開発をモチーフにしたミステリー。こちらもおすすめです!
(「謎解き+教養! 知的ミステリー」4選/文=ぽの)