友人が亡くなった。その葬儀で真帆は不穏な話を耳にする。友人の勤務先では立て続けに社員が亡くなっており、今回はその三人目だというのだ。
献体登録されていた友人の遺体。勝ち誇ったような笑みでその遺体を見送る理学部教授・佳乃。真帆に声をかけてきた警部補・穴瀬。
本当は何が起こったのか? 真の死因を突き止めることを真帆は決意するのだった。
描かれる様々な専門分野の様子や知識の量が物凄いです。商品開発の模様も面白く、全体を通して大変興味深く読ませていただきました!
ハイポグリセミアとは低血糖のことだそうです。物語には血糖値やⅠ型糖尿病患者の日課だけでなく、内科医や臨床検査技師など、本当に様々な分野が関わってきます。
管理栄養士というと、個人的には食事に関する助言をくれたり、施設で献立を立てたりというイメージなのですが、主人公の真帆は「犯罪栄養論」の研究もしていて、それにまた非常に興味を引かれました!
次々と示される個別のエピソードが、専門家の視点や様々な検査結果等によって撚り合わされ、謎が紐解かれていく展開は見事です。最後の最後まで油断できません。ぜひ、多くの方に完走していただきたいです!
個人的な感想ですが、体に入れたものは吸収され、様々な影響を及ぼす。そんな当たり前のことを再認識させられました。
私たちは普段色々なものを飲み食いし、体調が悪ければ服薬したりしています。改めて考えてみれば、食べたものは体になるし、薬を飲めば効果があらわれます。それってすごいことだし、見方によっては怖いことだな、と。
本当に様々な知識の詰まった作品でしたので、自分が普段何気なく口にしているものにも、実は知らない何かがあるかもしれない。不健康を引き起こす要因になっている場合もあるかもしれない。と興味がわきました。
本当に最後まで目の離せない作品でした。
素敵な作品をありがとうございました!
「低血糖」を意味するタイトルのとおり、身近にありつつ知らないことも多い栄養学が事件解決の鍵となる作品です。
主人公は管理栄養士かつ医大で犯罪栄養論を研究する岩園真帆。大学時代の友人・湖香の死をきっかけに、彼女が勤務していた大手チョコレートメーカーで相次ぐ不審死の疑惑を追うことに。その謎は、やがて真帆たちの大学時代に起きたある事件とつながっていきます。
主人公の研究する、栄養や食生活と犯罪の関係、という切り口がまず興味深いのですが、そうした栄養学の知識はもちろん、大企業の代替食品開発と医大の内部事情をめぐる骨太な世界観、そのリアリティのある記述は読みごたえたっぷり。
美しく聳える六甲山脈を背景に展開されるクールな企業ミステリーかと思いきや、学生時代の旧友や恩師、所属大学の同僚、さらには元夫など、さまざまな人物が交錯しミッシングリンクが繋がれていくので、読んでいて油断できません。
さらに主人公の真帆はⅠ型糖尿病を患っており、定期的にインスリン注射が必要な状態。このタイムアタック要素もスリリングな読み心地をもたらすのです。
連載中の物語もいよいよクライマックス。ぜひリアルタイムで遭遇してほしいです。
ちなみに同じ著者の前作『ランビエの絞輪』(完結済)も、栄養学と新薬開発をモチーフにしたミステリー。こちらもおすすめです!
(「謎解き+教養! 知的ミステリー」4選/文=ぽの)