第6話 悪徳商会。やることは時代劇と同じだった。

 この町は、辺境伯が治める町からは少し距離があり、代官が治めている。


 辺境だから、目が届かないのか、王国との為替で儲けが出るため放置されているのか、不明だが、シンキ総合商会とズブズブなのはすぐに判った。


 だって、調べる必要が無いほど、大っぴらに出歩いている。


 一軒目は別々に入るが、酒を飲めば騒ぐし、店の子に手を出すし、やった悪事の内容まで酔って言いふらしている。

 とがめる権力が居ないせいで、完全に図に乗っている。


 そして…… こいつらは腐っている。


 酔って愚痴を言っていたオッサンとは別に、やはりはめられた店があった。

 その商店には、十七歳になる有名な美人の娘がいたが、奴らの目にとまったようだ。

 とうぜん、例の証文詐欺ではめ、店の代わりに娘を強引に連れて行ったが、娘は反抗して、自ら命を絶った。

 その遺体を投げ返し、娘が死んだから店をよこせと言ったらしい。

 その店は、子供が出来にくく、一人娘だったために、絶望して、川に身を投げたようだ。


 イサークが、そんな話しを拾ってきた。

 

 それを聞き、法でさばけぬ悪を退治してくれよと、俺の中で何かが訴える。


「よし退治をしてやろう」

 一つは、悪事の証拠を集めて、辺境伯に報告だが、あまり良くない。

 辺境伯が絡んでいる可能性がある。


 俺が捕まってしまい、メーヴィス王国の王子だとわかると、非常に面倒なことになる。

「あー。どうしよう」

「偽金の犯人にしたら?」


 冒険者登録をして、小さな家を皆で借りた。

 皆の部屋割りは適当だが、二階の奥は、俺の個室になっている。

 金庫兼物置兼クローゼットだが、俺の部屋。


 なぜか見せつけるように皆が着替える。

 ああいや、女の子達だけな。


 そして、悪徳金融のことで悩んでいるのを皆は知っているし、ぼやいた言葉に反応したようだ。


 顔を向けると、ローラがなぜか、下履きだけで立っていた。

「ローラか。風邪引くぞ」

「ちぇー。反応無しか。オネスティって、男が好きなの?」

「はっ? なんで」

 思わずそう聞かれて、ローラの方を見てしまった。


「だって、あたいとかが、こんな格好してても全然だし」

「いやまあ、ドキドキはしているよ」

「うそ。平気そうだし、ちらっとだけしか見ないし」

「だから、ドキドキするから見られないの」

「そうなんだ」

 そう言って近寄ってくると、背中側から抱きついてくる。


「私たちが、この年まで生きてこられたのは、オネスティのおかげだから。したくなったらいつでも言ってね」

 畜生どいつもこいつも、何処で覚えてくるんだ……


 だがまあ、偽金の犯人か。この世界でも流石に何処の国でも偽金は重罪だ。

 金というのは、原材料の価値に、国家の信用という付加価値がくっ付いて、今の値段がついて運用されている。


 その価値がなくなれば、価値は下落する。

 そう、うちの王国のように。


 インフレ率二百パーセントとかね。

 流石に金貨とかは、金自体に価値があるから、そこまでは落ちないだろうが、偽金が流れると国の信用は落ちる。


 この土地に、とがめる奴らが今はいないが、目を付けられてもその状態は保てるのか?

「悪い事をして集めた金だ。多数の人間を救う資金として、有効に使わせて貰おう。浄財だね」


 俺は皆と、シンキ総合商会へと忍び込む。

 表の戸は、比較的きっちり閂で閉じられているが、裏は鍵一つだったりする。

 だが、鍵が見当たらない。


 見回すと、左のドア枠の外側に、レバーがある。

「まさかな?」

 レバーを引くと、ドアが開いた……


 中へ入るが、物音はしない。

 ドアは重りが仕掛けられ、自動で閉まるようになっている。

 閉まると、鍵もガチャンと閉まる。

「まあ、最新型だね」


 こそこそと、まるで泥棒のように忍び込み物色をする。


 大体、見張りというか寝ずの番が居そうなのに、誰も居ない。

 しまったな。

 どこかに倉庫を持っていて、そっちに仕舞っていたのか。


 そう思っていたら、廊下の突き当たりに、怪しい扉サイズの絵が掛かっていた。

「引くのか、押すのか」

 額縁のサイズからすると…… 縁に指を掛けて引っ張る。

 すると、わずかに、リンという鈴の音。

 引く手を緩める。


 音が止まる。

 ゆっくりと引き、戸を開けていく。

 わずかにチリチリと音がする。頭を突っ込み、仕掛けを見ると、ドアを開けるに従って棒が回転する仕掛けが、ベルを鳴らしていた。


 そして、足下には紐。


「ここに仕掛けがある。引っかかるな」

 皆に注意をして、ドアには石を挟んで閉まらないようにする。

 むろん、ベルが鳴らないようにするためだ。


 注意をしながら、下へと降りる。


 明かりが見え、人の声が聞こえる。

 一酸化炭素中毒は大丈夫なのか? 心配になってくる。

 ものが燃えると、一酸化炭素が出るが、空気よりも重い。

 それが溜まると、中毒となり頭痛などが起こる。

 さらに、濃度が上がると、吐き気やめまいなどの中毒症状がでて、動けなくなって死ねる。



 酒を飲んで、騒いでいる奴らがいたので、とりあえずぶん殴る。

 むろん、ほっかむりを装備して、顔は隠している。


 泥棒ではない…… おれは正義の味方だ。


 とりあえず、縛る。


 そして、奥の扉はレバー式。

 上下同時に下げるタイプ。

 足と手で、鍵を開けて中を見る。

 金庫室と言えば良いのだろうか、宝箱がドンと座り、周囲には証文だろう。

 巻かれた紙がゴロゴロしている。


「もう、見張りに見つかったし、全部運びだそう」

 そう言って俺は、泥棒? いや、正式に強盗になった。


「まだ、義賊という存在もいる」

 心の中で言い訳しながら、偽金を数枚、床へばらまく。


 こうして俺達は、無事盗賊へジョブチェンジをした。

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