第32話 限界
ある朝、普通に目を覚まし、ベッドから降りたオネスティ。
立ち上がろうとした瞬間、それはやって来た。
グキッと……
悶絶する痛み……
そう。ぎっくり腰。
過酷な生活により、彼の腰は限界だったようだ。
テントの床でのたうち回り、苦しむ彼。
その声を聞き、集まってきた仲間達。
「一体何が。誰にやられた」
その声で、ジャンナとアネットも起き出してくる。
「オネスティ。どうしたの? 犯人は誰?」
そっと指さして、オネスティは告げる。
「犯人は、お前達だぁ」
当然、指の先はジャンナとアネット。
昨夜おねだりされて、抱っこしたまま歩き回った。
そこに背中から、アネットが飛びつき、彼はかなりのダメージを負った。
まあそれはいい。
だが今日は、魔人の封印をするため、帝国のフレーベ侯爵にも協力を依頼していた。
結局、大事な晴れの舞台。彼は荷車に乗せられて、出陣を行うことになった。
無事封印が出来れば、多分最も情けない救世主として後世に語り継がれるだろう。
荷車に乗ったヒーロー。
横の荷車には封印用の石。
適当に、あった物。
「あれは、一輪挿しか?」
「いえ切り出し途中で、捨て置かれていたものかと……」
「そうか。まあいい。さあ行くか」
広場に行くと、ドンという感じで、魔人は変わらずそこにいた。
こちらは、荷車に乗ったオネスティ。もう一つには封印用の石柱。天辺に穴あり。
とりあえず、この距離で使えないか、オネスティは文言を唱える。
「『神様お願いです。魔人を封じてください。』…… 駄目か」
今現在、魔人は目視できるが、距離が直線で三百メートルは離れている。
「だめだ。もっと近寄ってくれ」
敷き詰められた干し草に半分埋まりながら、オネスティは命じる。
近寄っていくに従い、仲間達は良いが、フレーベ侯爵とお仲間の兵士達はなぜか、オネスティの視界から消えていく。
「もう少し、きっちりしたマニュアルをくれれば良いのになぁ」
ぼやきながら、じわじわと近寄っていく。
こちら側の陣営、緊張感が高まり、物音の一つでも起これば皆がパニックでも起こりそうな状態。
距離は、とうとう百メートルを切る。
この時魔人は、いやな記憶が蘇っていた。
昔我を封じた者。それと同じ気配がする。
一団を見つめる。そいつは荷車に乗り。けだるそうに寝転がるオネスティ。
「あやつか」
そう思った瞬間には、動いていた。
俊足の移動。
あっという間に、距離がつめられる。
その時、オネスティはひたすら呪文のように『神様お願いです。魔人を封じてください。』を唱えていた。
おおよそ、三十メートル。
それは来た。
「ぬっ。こしゃくな」
魔人はとっさに、封じるために持って来ただろう石に向かい。術を投げかける。
その瞬間、彼は封じられたのか、消えてしまう。
だが、その前に放たれた術は、切り出し途中の一輪挿しのような石に直撃をする。
生き物とは違い、真っ二つにはならず術は霧散をする。
だが、当たった衝撃で
元々割るために石ノミが打ち込まれていた穴、そこへと繋がるように……
これが、四十五度角度がずれ、角に当たれば耐えたかもしれない。
だが、石は面で攻撃を受けてしまった。
「ああ。やばい。皆。石を置いてにげろ」
オネスティが叫ぶ。
その瞬間、皆は素直に従う。
「こら待て、俺をおいていくなぁ」
そう皆は、つい荷車から手を離して走り出してしまった。
干し草の上に横たわり、石を眺めるオネスティ。
石に広がる亀裂は、ついに穿たれた穴へと到着する。
「やべえ」
そう思ったとき、荷車は動き始める。
まるで、イナバウアーの様にのけぞり覗くと、荷車を引きながら悪いという感じで、ニクラスが右手を顔の高さまで持ち上げる。
遠ざかる景色の中で、もう一つの荷車の上で、何かがはじけ。黒いもやのようなものが吹き上げる。
そっと、干し草の中から筒のようなものを取り出すと、そっと引き金を引く。
榴弾砲、マーク三。
「あちーぃ。オネスティ何をやってんだ。あちっ」
ニクラスが叫ぶが、都合五発ほど撃ち込む。
城門をくぐる頃には、敷いていた干し草も燃えてきて、周囲の兵達は勘違いをしてくれる。
「早くお助けしろ」
彼はきっと魔人の攻撃を受けたのだと……
さて、封印されて即復活をした魔人だが、受肉をした瞬間にランチャーの直撃を喰らう。
復活直後で脆かったのか、彼は息絶え絶えで、動けるまでに三日ほどかかり、復活後。
広場の周りの家は、八つ当たりを受けることになる。
きっと死にかかっていた彼。その時に攻撃をすれば、きっと殺せただろう……
返す返すも勿体ない。
さてその間に、オネスティは丈夫な封印用の石を探しに行くことを計画する。
「手を抜いてはいけない。本当なら終わっていたのに……」
「そうだな。世界一かっこわるい勇者が誕生をしたのにな」
尻を焼かれたニクラスが、嫌みを言う。
荷車に乗り、干し草の上で怠惰に寝転がる勇者。
歴史に残る、恥ずかしい銅像が出来たであろう。
「それを考えれば、今回の失敗は、成功だ。距離も判ったしな」
「問題は、魔人がおとなしくしてくれているかだな」
心配そうにニクラスがそう言ったが、そう誰でもいいが、この時見に行っていれば、誰でも倒せたはず。
だが、フレーベ侯爵側の兵は怖がって、誰も見に行かなかった。
残念……
彼らが、見逃した功績は、計り知れない……
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