第31話 封印されし力の解放

 ぐだぐだ言っていても仕方が無いので、帝都に向かっている。

 少数でいくはずだったが、道案内のカールだけではなく、主要メンバーが付いてきた。


 その為か、二週間程度で行ける行程が、気が付けば二ヶ月。

 すっかりいい季節。


 途中、秋で浮かれている連中相手に、ぼったくる。


「はいはい。甘いべっこう飴はどうだい。銀貨一枚だよ。はいお嬢ちゃんに奥さん。あまいよぉ」

 そう言って渡し、舐めるのを見てから旦那に請求をする。


「おうおっさん。銀貨二枚だ。払えや。まあ泣くな、これでも食え」

 そう言って、串焼きを渡し……

「おう。銀貨一枚だ。払え」

 当然マジックショーもする。

 最近は、寸劇も入ってドラマ仕立てになっている。


 通行人がコインを落とす。

 拾おうとしたら、指ごとコインがふまれて、お姉さんがにっこり。

「痛えなこの野郎。金を返せ」

 だいこんニクラスが叫ぶ。


 コインを拾い上げた、アネットは問いかける。

「あなたが落としたのは、銀のコイン? それとも金のコイン? それとも薄汚い鉄貨?」

「きっ。金でございましゅ」

 そう言って、だいこん役者能力を極めたニクラスが奪おうとする。


 和やかな、アネット女神。

 その言葉を聞くと、布を一瞬翻す。すると、ジャンナ鬼に早変わり。

「そうか…… 嘘つきは死ねぇ」

 此処で、箱に閉じ込め人体切断。からの、「ウム一件落着」と一言。


 そう言いながら、女神が空へ昇っていく。

 もう、大道具が大変。


 そんな商売をしながら、地方を回っていく。

 だが、のんきなのは地方だけで、帝都に近付くにつれ、人々は何かにおびえる雰囲気。何かを楽しむような感じではなく、串焼きだけは売れる。

 匂いに釣られる村人。


 話しを聞きながら渡すと、以外と受け取る。

 まあ金は取るんだが、べっこう飴はサービスする。

 この辺りになると寂れて飢えた農村、そのものだからな。

 子供達がかわいそうだ。

 多分、帝都があの状態だから、税の再分配がされていない。

 この辺りは、もしかすると兵糧を取られたのかもしれないが、農民には関係ない話しなんだろう。


 一応状況を説明。

「帝都から距離を取れ。逃げろ」

 忠告はしておく。


 そうして、とうとうたどり着いてしまった。

 せっかく、牛歩戦術を採ったのに。

 道を歩めば来てしまう。


 帝都外周では、かなりの兵が腐りながらも様子を見ていた。

「おい何処へ行く。中へ入っては駄目だ」

 仕事はしているようだ。


「少しだけ、物見遊山で」

「そうそう、旅の一座ですが、串焼きを行いますから食べてください」

 数は数えて、偉い人に請求しよう。

 払ってくれないなら、国中に触れ回ると脅そう。


 どさくさに紛れて中へ。


 皆は外に残して、俺とだいこんニクラスとカールで見に行く。


 中に入るにつれて、匂ってくる、血の匂いと腐敗臭。

 そして見つけた、角が生えた奴。

 見事な鬼。

 黒鬼さんだな。


 目視で目が合った瞬間。俺の中で何かが割れた。

 いや、はじけたのか?

 これは良くある、神様特典か?

 そう思ったら、封じ方の説明が頭の中に降ってきた。


「ええと、封じるには器が必要。ただ器は耐久性があるものを選べ。壊れると解放されてしまう。ふむふむ。それで? 『神様お願いです。魔人を封じてください。』そう言いながら願え。さすれば封じてやる……」

 それなら、神様が勝手に封じれば良いじゃ無い。

「俺って必要か?」

 なんとなく、兄ウェズリーの気持ちが、少しだけ分かった。


 それはともかく、魔人さん。目が合ったからには、目の前に迫ってきた。

 とりあえず、銀弾を撃ち込んでみる。

 腹、膝、額。

 物理的影響はあるが、思った以上に効かないようで、奴はすっ転んだがすぐに起き上がった。

「銀は駄目だな。徹甲弾。ストッピング重視の平弾頭装填」

 起き上がったところへ、撃ち込む。


 ある程度効くようで、あがあが言ってぶっ倒れる。

 すかさず。とりあえず生の乗りで、とりあえず美味しい自家製のパイナップル手榴弾を食わせてみる。

 だが、都合良く口など開けてくれないから、三つほど、まとめて投げて逃げる。


 背後で聞こえるドンという音。


 少し待つが、追いかけては来ないようだ。


「やべえ。とにかく戻って、封じるためのものを探そう。耐久性があり壊れないものが要る」

「しっかし。あれが魔人かやべえなあ」

 だいこんが何か言っている。

「前より、少し大きくなっている気がします」

 重要な、カール情報。人を喰らうと太るようだ。



「ぐうぅ。何者……」

 ダメージが通り、足や手が折れ、顔が潰れたようだ。

 だが生きていた。

 魔人も、無敵ではない。

 もっと攻撃を加えて、殺せば殺せる。

 だけど、封じ方を知ったことで、封じるしかないと勘違いをしてしまった。

 オネスティもサイコロジカル・ミスディレクションの罠にかかってしまった。

 思い込みは意外と、やっかいなのだよ……


「さて思いつくのは、墓石などの花崗岩や安山岩なんだよな」

 帝国内でうろうろして、記憶に残っているのは死の谷付近の岩。

 だが過去に火山活動があれば、戻らなくても地質的にはあるだろう。


 ちなみに、帝都の外壁などは、加工しやすい石灰岩だ。地球の古代遺跡にも多い。

 今でも、ナイル川近くのアラバスターには採石場がある様だ。

 ちなみにナイル川と言えばワニが名物だが、ワニは、上から見たときに頭が尖り、口を閉じたときに牙が見えていればクロコダイル。

 頭が丸く、口が閉じているときに牙が見えないのは、アリゲーターらしい。


 オネスティは偉そうなおっさんを見つけて、お代を請求しつつ、ごま塩を振ったような石を見たことがないかを聞いてみる。

 ところが、フレーベ侯爵は当たり前だが、ごま塩を知らなかった。

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