第37話 調印式。そして帝国は消滅をする

 一,シュプリンガー帝国は、すべての権利をネメシス王国へ移譲する。

 二,帝国貴族も同様。すべての権利をネメシス王国へ移譲する。


 調印書には、その二行。

 事実上の無条件降伏。


 これにより、帝国は事実的に滅んだ。

 調印は、今現在皇帝もおらず、妃も魔人に殺されたため、子どもと思ったが、残念ながら子どもが居なかった。宰相では足りないから、各方面の行政官達も連名をする。


 一応帝国の印は押されている。

 その手前で、こんな話し合いがあった。

「おい皇帝がいない。ニクラスお前皇帝になれ」

「わずか一日だけの皇帝なんか、いやだよ」

「我が儘な奴だな。履歴書に前職皇帝ってかけるんだぞ」

「履歴書って何だ?」

「仕事を貰うときに、書いていく書類だ」

「ひどいな。俺首なのか?」

「それは困るな……」

「ならいい」

 そんな茶番。



 まあそんな事はあったが、無事に帝国は無くなった。

 ひどくあっさりと事が終わったが、その道のりは長かった。


 そして、暫定的だがフレーベ侯爵を侯爵のまま、元々の自領を含めて治めるように命令書を出す。帝都が丁度中間くらいだなと言うことで、北側すべても自治を投げる。


 聞いた本人は、一瞬だけ喜んだがふと考える……

 国の半分。

 一体どうやって治めるのかと……

 彼は途方に暮れる事になる。


 今までの区分で代官を置き、何とかするしかないと考えていると、貴族の心得みたいな文書が渡される。


 農奴を含め、奴隷は禁止。

 代官などによる罪は、連座制として、上部貴族がその責を負う。

 住民台帳を作り、きっちりと把握すること。

 農地の広さを計測をして、収量の概算を計算して、税の収量をあらかじめ計算すること。

 天候不順などは、係数を用いて推測し、隠蔽などの調査を行うこと。

 等々……


 意外と細かに決められていた。


 問題は、地方税が最大二割。国税二割。

 今までは、税が九割といいながら、結局農民からはすべて取り上げ、農民は雑穀や野菜で飢えをしのいでいた。


 そして読めば、飢饉などの災害時は、領主が負担をして民を救済。

 不足分は、国に必要分を請求すること。

 その時、虚偽があればその罪を問う。


 暫定法だと聞いたが、かなり細かに書かれていて、厳しい。


「これでは、貴族がまるで民の庇護者ではないか」

 そんな言葉が、侯爵から出る。


 これは、メーヴィス王国時代に失墜した貴族の威厳を取り戻す意味もあり、骨子はネメシス王国側でも実施されている。


 そして、貴族に必要以上の力を持たせないためという意味もある。

「参勤交代させようかなぁ」

 などと、ぼやいた事もあるくらいだ。



「王様、報告があります」

「何だ?」

 王であるウェズリーは、いつもの様に手を伸ばす。

 だが、それを無視して、言葉が続く。


「オネスティ様が、帝国を落としました。本国に土地を編入した旨と、これから領地を治める貴族を決めるから、承認をするようにとのことでございます」

「はっ? 帝国? 落とした…… どうやって?」

 それを聞いて、王座から半分ズリコケながら聞いてくる。


「さあ? わたくしのような、浅慮な者には思いも及びません」

 宰相も、考えが浅いと言われ続けて、とうとう本人も理解した様だ。


 そして、帝国側では吟遊詩人とは別に、公布人という者が街角に立つ。

 国民の識字率が低いためだ。

「帝国の皇帝は悪行からモンスターとなり暴れまわった。これに帝国では対応できず、助けを求める。ネメシス王国へと。依頼を受けたネメシス王国は強く、あっという間に魔人となった皇帝を封じ、国を救った。そして悪政のためボロボロだった我が国を救済するために、自国へと組み込んだ」

 公布人は聞いている民の反応を見ながら続ける。


「ネメシス王国の決まりにより、税は半減。日照りなどの災害時は、その救済を貴族が行う事になった。貴族で力が及ばないときには、国が救済を行う」

「「「おおおっ」」」

 耳障りのいい言葉に、民から反応があった。


「そのために、住民帳を作り、住まいを登録をする。何かあって援助をするときに困るからだ」

 決して、税を確実に取るためだとはいわない。

 そう、まるでどこかの国のようだ。


「冒険者などの人間はどうするんだ?」

「冒険者や行商人などでも定住出来る拠点がある者は、その領へ税金を払う代わりに、怪我を負ったときなどは生活の保障をもらえる。そして、現役で移動しまくる冒険者は、領を出るときに、ギルドに連絡すればギルド間で取りまとめをしてくれる。どうだ面倒は、移動時に書類を出す手間だけだ」

 保障のための、保険料が税金とは別に引かれるが、そこはまあ良いか。


「それと病気や怪我のときのために、健康保険制度も始まる。何かあったときにその札を持っていれば、治療費を払わなくてよくなる。その代わり、月々幾ばくかの金は要るがな」


 そんな感じで、各町や村に現れて説明をしていく。


 そう日本で行われていた、社会保障制度をこそこそと組み込んでいく。

 ただ年金は、老後貯蓄制度と名称を決め、収入から貯蓄分を非課税とした。

 国として将来的な、物価や貨幣価値が予測できないからだ。


 そうして静かに、どさくさに紛れて内政を整えていく。

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