第五章 ネメシス王国
第38話 周囲国との話し合い
「何? 帝国が倒れた?」
「ええ。オネスティ殿が成し遂げたようです。帝国はネメシス王国へと編入されたようです」
宰相の顔は、喜ばしい情報なのに浮かない顔。
対する、王もやはり浮かない顔である。
ここは、エルドランド王国。
「そうか。それは良いが、巨大国となり、この武器を有している国」
「武器は、我が国へ貸してくれている物は、一部です。彼ら、小銃と呼ばれる強力な武器を持っています」
「何だと。では、帝国のように暴君が現れたときには」
「帝国のとき以上に、我が国では何もできません」
「そうだな……」
それは、エッカルト王国でも同じ。
両国で、同じ反応が見られた。
共に、ネメシス王国のことを知っているがために、出てきた言葉。
そんな心配をしている頃、帝国では奇跡がばら撒かれていた。
「はいはい。お立ち会い」
そんな台詞を吐いているのは、オネスティ。
横では、串焼きやべっこう飴。
そして、爆裂種のトウモロコシを見つけたためポップコーンが売られている。
彼らは、村々を回っていた。
定番のコインマジックから始まり、帝都の皇帝封じ込め騒動を面白おかしく寸劇で教える。
人間切断で、「これでも死なぬか」。オネスティがそう言うと、箱から魔人に扮したニクラスが出てきて高笑い。
「人間ごときが、我を倒そうとは片腹痛いわ。ぬわっはっはぁ」
「ええぃ。これならどうだぁ」
大きな布がかけられ、一気に燃え上がる。
すると、ちょこんとおかれた、例の石へと変わる。
それを見て、オネスティの長台詞。
「こうして、魔人は封じ込められ、世に平和が戻った。この封印した石は旧帝都の広場に安置するため、決して壊してはいけない。再び魔神が現れた時。この世界は暗黒の世に戻ってしまうだろう。いいか忘れるな」
その周りでは、ジャンナやアネットと達が拍手をしたり、カールやレーモが、オネスティを拝みながら泣き真似をする。
そこで、幕を持ったエーミルやルカネン達が出てきて裏では、急ぎ小道具をかたづける。
そして、再び幕が開く。
立っているのは、オネスティ。
「さあさあ、皆さん。この痩せ細った土地でお困りでしょう。我ら『夢の奪還者』が奇跡をお見せいたしましょう」
そして、ここからは、奇術ではなく、本当の奇跡。
マントを着たオネスティが、両手を肩の高さまで上げて、結んでいた拳を開く。
すると、掌からキラキラとした光がこぼれ始めて、それは周囲へと広がっていく。
幻想的な光景。
これは精霊の力。
種も仕掛けもなく、現象である。
その光が、畑の上に広がっていくと、端からドンドンと植えられている麦などが育ち始める。
気が付けば、小石などが勝手に這い出してきて、流れていく。
野菜の畑では、土が空気を含み、ふかふかに変わっていく。
そう土壌の改良と、今植わっている植物は精霊の力によって、一気に育っていく。
長引く戦争で、ひどい状態だった帝国国内。
物資の援助だと、本国側に負担が大きい。
なら、当座食える分を育てればいいんじゃねえ作戦。
広報と救済。
オネスティの承認欲求を満たす作戦だ。
マジックだけではなく、魔法まで使い出したオネスティに死角はない。
「この世界に奇跡を与える。わが一座。定期的に回って参りますので、よろしくお願いいたします」
口上も終わるが、拍手すら起こらない。
そう、目の前で起こった奇跡に、農民達は跪いている。
いい加減、情報のないこの世界。
コインが、出たり消えたり。
増えたり減ったり。
それだけで、十分驚いてもらえる。
種も仕掛けもある、人間切断や空中浮遊でも、ビックリ仰天である。
そして、目の前で植物がざわざわと伸び始めて実を付ける。
もうね。
「このお方は、神様に違いねえ。者ども頭が高いひかえおろう……」
とまあ、なるよね。
そうして、一座『夢の奪還者』が回る後には、信者が生まれていった。
色々な所に、こそっとオネスティが入れていた六芒星がまねて描かれ、各村々で村人が、指無しのグローブをはめ、妙なポーズをきめるような、痛い国が出来上がってしまった。
そう日本なら、中学生くらいの時に、かかる病。
それが今、国単位で起こってしまった様だ。
中には、奇妙な立ち方。
そう、ゴゴゴと効果音でも出て、背後に何かが居るのでは無いかと思えるような連中まで出始める。
「これがすべて、信者なんだぜ…… 信じられないだろう」
オネスティが夕暮れに村を見ながら、ぽつりとそんな事を言ったとか。
そうして、国内を安定させながら、エルドランド王国やエッカルト王国へと足を伸ばす。
調印書を作り、一応不可侵の条約を締結する。
ついでに、相互援助も約定に入れる。
国が大きくなり、相手に恐怖が見えたからだ。
何せ、到着早々。
王が城の下まで、迎えに来ていたくらいだ。
こちらは、兵を幾人か連れているが、着替える前で旅の冒険者の格好。
それに対して、王が出迎えに来て頭まで下げる。
なんとなく、どこかのご隠居さんかと思うくらいだ。
その晩、オネスティが、六芒星入りの印籠を作ったとか?
「控えおろう。この紋所が目に入らぬか」
そんな台詞が、オネスティの寝所から聞こえたとか……
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