第34話 帝都で魔人消失。そして土地も喪失

 炎は、魔人を中心に燃え上がり、一気にその高さと温度を上げていく。


 ふと考える。

 今封じれば良いのでは?

『神様お願いです。魔人を封じてください。』

 そう唱える。


 すると、旋風ごといきなり消失をする。

 今度は、石も割れず、きっちり封じられたようだ。

「よっしゃあ」

 ニクラス達とハイタッチをする。


 広場の中心に、魔人を封じた石碑をそっと置き、周りを囲う。

 土魔法で壁を造り、此処にも六芒星をデザインをする。

 とっても、怪しいアングラな雰囲気だが、ニクラスたち現地人からすると、違う意味で怪しく見えるようだ。

「これは女性の……」

「気にしすぎだ。これは六芒星と言って、聖なる記号だ」

「そうなのか? 何処の…… まあいい。終わったな」

「ああ。帰ろう。帰って今のうちに帝国との戦争準備だ」

「おう」

 そう、どさくさ紛れに、かっぱらおう作戦。



 外へ出ると、フレーベ侯爵が駆け寄ってくる。

 今回は魔法を使うため、中へは入れなかった。

「どうなりましたか?」

「ああ、無事に封じて広場の真ん中に設置してある。あの石は壊さないように、語り継ぐように」

「はい。判りました」

 そして、フレーベ侯爵は振り返ると大声で喧伝する。


「魔人を封じたそうだぞぉ」

「「「「わあぁーーー」」」」

 嬉しそうな兵達。


 その間にテントを片付けて、荷車に乗せる。


「よし帰ろう」

 そそくさと、逃げていく一行。


 一通り騒いだ後、フレーベ侯爵は一行がいないことに気が付く。


 そして、帝国の混乱。そのどさくさに紛れて、デルヘーストの町から向こう側。つまり南側がいつの間にか旧メーヴィス王国領となっていた。

 そこには関所が建ち、ネメシス王国の旗が立っていた。

 帝国がそれを発見するのは、数ヶ月後。


 領地割譲の書類は用意されていた。

 そして、ペテン師は語る。

「俺はずいぶん前からココに居るよな?」

 事情を伺いに来た、帝国の兵士がいる前で親方衆に聞いてみる。


「ああ、こいつなら、ずいぶん前から居るぞ」

「なんと。帝都に帰って確認をしてみます」

 そう言って、あわてて帰って行く兵達。

 

「ふっふっふ。王城の上半分は吹っ飛んでいた。書類は見つかるかな?」

「おぬしも悪よのう」

 ニクラス達と兵を見送りながら、我慢できずに笑ってしまう。


「住んではいたが、冒険者だったはずだが」

 にまにまとニクラスが、判りきっていることを聞いてくる。

「ああ、だが、勘違いをしたのは向こうだ。ネメシス王国が何年も前から、ここに居たとは一言も言っていない。俺がいたと確認しただけだ」


 帝国側の拠点。

 ここには、工場や配送場。

 子供達の保育施設と学校まである。

 せっかく造ったもの。返すのは勿体ない。

 もらえるものなら貰う予定だった。

 いまのどさくさが、そのタイミング。


 兵達はあわてて帰り、なんと生き残っていた宰相に話を伺う。

「デルヘーストの町から南側がネメシス王国の物だと? そんな話にはなっていない。いつからそんな事に」

「それが、町の親方衆に聞くと、もう何年も前からだそうです」

「なんだと、まだネメシス王国になってからも一年くらいだろう」

 そう答えながら、旧メーヴィス王国を属国化していたとき、国境線がぐだぐだになっていたのかもしれないとふと思う。

 それを、逆手に取られたのかと……


「ええい。こざかしい。そんな書面はない。兵を送り、国土を取り返せぇ」

 宰相は吠えたが、帝国の兵力は、帝都を守っていたエトヴィン=フレーベ侯爵が率いる、シュプリンガー帝国北方解放軍しか残っていない。


 宰相からの過酷な命令を受け、彼らは休む暇も無く遠征をする。

 帝都から南方はヘルムート=シュトロー侯爵の影響下だった。

 彼らは魔人に食われてしまい、管理はいまぐだぐだになっている。


 二週間をかけて、駆けつけ。

 何とか、付いて来られた者だけで、ネメシス王国と相対する。


「誰かと思えば、エトヴィン=フレーベ侯爵ではないか。あれから帝都は落ち着いたかな」

 先日とは違い、立派な服を着たオネスティ。

 周りを固めているのは、先日散々世話になった面々。

 それが、軍服を着て立っている。


「これは、オネスティ殿。冒険者だと仰っていたのに」

「帝国が危機だと聞き及んでね。微力ながら力を尽くしただけのこと。まあ他国で堂々と、軍人として活動する訳にもいかず、冒険者としての身分で入国をさせていただいただけのこと。どちらも私だ」

「左様でしたか……」

 話を聞いて、盛大に悩み始める。


 受けた恩が大きすぎる……

 彼がいなければ、魔人は封じることが出来なかった。

「すみませんが、割譲の書類を見せて頂けませんでしょうか?」


 見ると、シュトロー侯爵の印はないが、トールマン伯爵家やヘレニウス伯爵家など正式な印が押されている。

 サインは、当主であったカスペル殿やブロル殿達のもの。


 他にも、関係する家のサインと印が押されている。


「ううむ。正式な書面ですな」

 フレーベ侯爵はそう判断したが、無論偽造だ。


 ただ当主なき家には、援助を行い懐柔をしている。

 無論、その家はオネスティの事を、皇帝に派遣された何者かと思っていたが。

『帝都の方から支援に参りました』

 そう言っただけで、信じてくれた。


 当主の死亡通知と支援。

 各家は、諸手を挙げて迎える。

 疑われてはいたが、帝都の現状そして、多くの家が当主を失ったこと。

 皇帝が、モンスター化して帝都が大混乱であること、虚実を取り混ぜ説明を行った。


 そして、この書類。

 書いたときには、宰相に向けた各家の支援申請の書類だったはずだが、国土割譲。そして、ネメシス王国への編入となっていた。そう、なくなった当主の連名書。


 すぐに、食料などの支援は、ネメシス王国から行っている。

「ネメシス王国?」

「ああ、旧メーヴィス王国ですね」

「あそこね」

 そう、騙された者達は、メーヴィス王国について、自国の属国だとまだ信じている。

 それを逆手に取った。


 各領とも、すでにネメシス王国から支援を受け取っている……

 それを、人は実効支配という。

「ふっふっふ…… 今更違うというのなら、支援分。耳をそろえて返してもらおうか?」

 そんな言葉が、待っている……

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