第35話 フレーベ侯爵は困り果てる

 宰相から言われたのは、自国の土地を取り返してこいと言う命令。

 来てみれば、出てきたのは帝国にとっての恩人。


 侯爵は、戦争を仕掛けるわけにも行かず、困り果てる。


「帝国の見張りから、すぐに遠征ですか? それは大変ですなあ」

 オネスティは、わざとらしくねぎらう。


「いえ実は、その前はエッカルト王国と、少し国境でもめていまして……」

 当然それも、オネスティの依頼による戦争。


「連戦ですか。それは大変だ。宰相殿も考えてくれれば良いものを」

 無理をさせる原因になった本人が、しらっとそんな事を語る。


「せっかく来られたのですから、まあまあ」

 そういう事で、関所の門を開き、こちら側では収穫祭と銘打って昼から盛大なパーティが開かれる。


 近隣の村々にも声をかけて、盛大に。

 村人には、見たことのないようなごちそうや酒が振る舞われる。

 そうして酔っ払い、村人が「ネメシス王国万歳」と言いだした頃、フレーベ侯爵は酒宴に招かれる。


 当然兵士達も、怖々としながらやって来る。

 国境を越えて……


 オネスティの監修により、安くて見栄えの良い料理が振る舞われている。

 お好み焼きや、唐揚げ。

 焼きそばに、酒が入ったフルーツポンチ。

 お子様向けの酒抜きもある。


 小麦粉は、ふんだんにあるため粉物がメイン。

 そして、ジビエ料理。


 帝国の兵士も専任の兵は多くはなく、基本は農民だ。

 専任の兵にしても、そんなに豪勢な生活はできていない。


「なんだこの、唐揚げという料理」

「このビールという飲み物もうめえ。秋のこんな時期になんで冷えているんだ?」

 精霊魔法による氷の作製。使えるモノは何でも使う。


 場にはピザやパスタもある。

 知っている限りの小麦粉をメインとした、粉物料理をてんこ盛り。


 そんな中で、一年以上家に帰れていない兵達。

「ねえ、兵隊さんなの? これ美味しいわよ」

「珍しい食い物ばかりだな」

「そうでしょ。私も最初に頂いたときは驚いちゃったぁ」

 彼女達は、村娘に紛れ込んだ、劇団員。

 もとい、オネスティが育てている子供達。

 そうは言っても、十七歳とか十八歳くらいならこの世界では適齢期。


 そう。戦争して、一年以上家に帰っていない男の群れは、酒を飲まされてコロコロと転がされる事になる。


 とりあえず、馬に乗り。侯爵と同時に付いてこられたのは千人と少し。


 彼らは、落とされた……


 そして、フレーベ侯爵も誘導されて、帝国への愚痴をぶちまけてしまう。


「では好待遇で、お迎えしましょう。ご家族も連れて参りますか?」

「おう、そうだな。よろしく頼むよ。がははっ」

「サインはこちらに」

 なぜか準備をされていた書類。


「よし。これで良いな」

 亡命を受け入れ、貴族として遇する。

 そんな事が書かれた書面。

 貴族も、爵位には色々ある。

 はてさて、フレーベ侯爵は侯爵でいられるのか……


 戦時用のテントではなく、きちんとした屋敷の一室でフレーベ侯爵は目が覚める。


 城や屋敷ではなく、木造だがなかなかの調度品。

 昨夜の記憶を思い出す。

 案内されて屋敷にやって来た。風呂に入り…… 

 体の洗い方を叱られながら習って……

 そうだ、変わった服を着た女達。湯浴みようではなく水泳用だと言っていた。

 

 そこでも、冷たい酒を貰い。ゆったりと寛ぎ、マッサージとを受けた。

 それは、嫌らしいものではないが、疲れと酒……

 意識を失って……


「そうだ、ここは?」

 まるで部屋を覗いていたかのように、ノックがされる。


「よくお休みになれましたか?」

 入ってきたのは、超絶美人。


「ああ。ここは?」

 フレーベ侯爵は聞いてみる。


「ここは、オネスティ様の屋敷。フレーベ様は帝国を離れて、ネメシス王国へ来られる優秀な方だと聞き及んでいます。お食事は、こちらにお持ちしてよろしいでしょうか?」

 侯爵は呆然としながらも答える。

「お願いします」


 そう…… 言われて思いだした。


 何か、サインをした……

 あれは何だったのか?


 外では声が響いている。

帝国の兵士諸君。ゆっくりできたかね。昨夜君達の忌憚ない意見は聞いた。そう、君達が感じ言葉にした様に、もう帝国は駄目だ。帝国は皇帝が魔人と化し、今は宰相が仕切っているが、疲れ切っていた君達を無理に。そう無理矢理、戦場に向かわせる態度。そうだ。宰相からすると、君達は生きた人間ではなく、単なる兵。数字でしか見ていない。家に帰ってゆっくりしたいだろう。無論何割かは、此処で家族を見つけたようだが、この際だ。駄目になった帝国。国を駄目にした者達を、一掃して、良き国として作り直そうではないか? そうは思わないかね」


 まあ訳せば、帝国を倒して、良き国ネメシス王国にしようと言っているのだが、その意図は通じたのか通じなかったのか、元気なお返事が兵達から聞こえる。

「「「おおー。そうだぁ。宰相の横暴を許すなぁ」」」


「ふふっ。皆さんお元気になりましたわね」

 侯爵のすぐ横で声がする。


 気配など全くなかった。

「どわあぁ」

「あら、すみません。ノックはしたのですが」

 見ると、ワゴンに乗せられた見事な食器と料理。


 すでに、白磁に金で装飾された器が作られたようだ。

 その見事さに、侯爵は驚く。


 そうして、その後から遅れてきた兵達も、見事に洗脳され、宰相打倒に燃えることになる。


 英気を養った侯爵軍は、やって来た道を戻る。

 そのすぐ後ろに、とうとうお披露目する。

 小銃装備のネメシス王国軍と共に……


「帝国。滅亡への序章だね……」

 嬉しそうな、オネスティ。

 あきれ顔の、ニクラス。


 馬車は、帝国の帝都へと向かう。


 もう一つの六頭引き大型馬車で、女の子達に囲まれ、酒のグラスを傾けながら、侯爵は考える。

 帝国の遠征と全然違う。

「ネメシス王国軍…… 良いかもしれない」

 もう帝国軍には戻れない……

 彼はそう思った。


 ただ、いま掲げている軍旗は帝国のモノ。

 兵達は、悪政を強いた宰相を倒すつもり。


 すべての思いが、巧妙な誤解の上で転がされる……

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