第23話 国は滅び、新たな国となる
数日前。
オネスティは、国民を鼓舞するための言葉を考えていた。
「長年の帝国による実効的な支配。それにより国民は飢え。年頃なのに貧相になった体。その薄い胸の中に恨みをしまい込むときは終わる。国民よ今こそ立て!! 恨みにより肥え太った心。その重くなって、動けなくなった体に今鞭を入れ、敵を打ち倒し追い出す。今がその時だぁ…… こんなものかな?」
読み返していると、アネットがやって来る。
「すみません。何か心に刺さるものがあって、皆が泣いています」
そんな事を言われる。
「感動したのか?」
そう聞くと首を振る。
「いえ、自身のささやかな胸とか、おかげさまで心配なく食べられるようになり、少し脇腹に付いたものとか気になる子が…… その…… お言葉が心に刺さると……」
「あー理解した。気にしすぎだと言っておいてくれ」
―― セクハラかぁ。
そうして、夜な夜な、作文する羽目になる。
無論、ジャマをされることになり、作文は終わらない……
作戦を開始しながらも、オネスティは悩んでいた。
色々あって、遅れてしまった。
「新国名、何にしよう?」
地怨王国とか、エターナル王国とか、アンヘルカイド? スペイン語で堕天使だったか……
「ヘルなんとかって、格好いいよなぁ……」
すでに彼は、王都セントリアル前にテントを張り、座っていた。
ぞくぞくと集まってくる農民達。
彼らの狙いは、王ではなく王都にいる帝国兵達。
来る途中でも、見かけたから切ったという話が聞こえている。
「ああ。楽しかったよ。偉そうにしていた奴らの剣が、真っ二つになるんだ。あわてて逃げやがった。驚いたよ。これで首を吊っちまった娘の敵が取れた……」
そんな話が聞こえる。
そして夜明け。
何も知らない門番が扉を開け、「今日は人が多いな」とぼやいたら、いきなり剣先が差し込まれて、門がこじ開けられる。
「む……」
そして、いきなり口を塞がれる。
「黙っとけ。例の作戦だ」
それだけで、門番は理解した様だ。
門の外で聞こえる声。
「武器を持ってない奴は来い。武器をを与える」
そんな声が聞こえる。
オネスティは、ニクラスやイサーク、スヴェト。仲間達と共に王城へ向かう。
途中で出会う帝国兵は、当然だが切り飛ばしていく。
「王城内の案内は任せろ。王国の兵は切るなよ。後が面倒になる」
王城に着くと、叫ぶ。
「開門!! 第三王子オネスティだ。門を開けろぉ」
早朝の王城前に声が響く。
「なんだよ」
通用口から兵が顔を出し、オネスティの顔を見る。
「お帰りなさい。ですが、その格好は?」
「いいから開けろ。今日が例の日だ」
当然だが、門番には通達が来ていた。
何せ茶番。
こちらの被害は、少ないに越したことはない。
「はっ。ただいま」
門が開き、民衆もろとも雪崩れ込んでいく。
「もう、良くないか?」
「いや奴ら、王城内にもいるんだよ」
「ひえー。本当に属国だな」
「だろ」
ニクラスと、うだうだと話をしながら、オネスティ達は大股でずんずんと進み、
だが途中から、すでに制圧が終わっていたようだが、ボロい武器の為、王国側にも被害が出たようだ。
「バカどもが。待てと言ったのに」
そうして、約束とおり、王の執務室へ突っ込む。
ドアには、わざと丸太をぶつけたような傷をつけて、証拠を残す。
色々な手続き時には、帝国も招かねばならん。
「さて、ただいま帰りました。父上。早速ですが、しばし監禁します」
「ああ、分かった」
振りだと聞いていたのに、本当に牢へ放り込まれる、王達。
「父上これは?」
「さあな。まあ、考えがあるのだろう。ゆっくりさせて貰う」
まあ基本、すべてが台本とおり。昼までには、王城内の制圧と、王都内の探査。
そう、普通なら起こる貴族や王族の探査ではなく、あくまでも帝国兵の発見が目的。
王都の征圧が終われば、兵達は、オネスティの持ち込んだ装備に着替えて、王国内に散らばっていく。
そう、国内の帝国兵。掃討作戦。
御旗は、盾と剣それに蛇をあしらったものだったが、
そう、余分な者が入ったが、メーヴィス王国の意匠を、少しいじっただけと本人は語る。
その赤と黒が目立つ旗を掲げて、新しい装備を纏った兵達が馬で駆けていく。
各村や町に駐在している帝国兵達。今、一時的に数が減っているが、それでも数十人単位で残っている。クロスボウで斉射して、剣でとどめを刺す。そして山に埋める。そこまでが流れ。帝国に聞かれたら、見ていないとしらを切る。
そう、いつかのお返し。
「さて、色々と考えたが、決めた。新国名をしばらくは、『ネメシス』にしよう。英語で復讐者だ」
オネスティは、そう宣言をするが、ニクラスに突っ込まれる。
「英語ってなんだ?」
「あー。よおーそぉのぉこぉとぉーばぁ。どぅゆー、あんだぁすたん?」
「だからぁ、解らねえよ」
そんな事を言っている、ニクラスはいいとして……
「まあいい。俺の兄貴とママんは何処だ?」
「はっ。お呼びして参ります」
兵が走っていった。
少しすると、二人がやって来る。
「間違えて、謁見の間で待っていたわよ。お帰りオネスティ。多少男らしい顔になったわね」
そう言って、微笑んでもらえた。
だが笑顔でも、目が笑ってねぇ。何か値踏みをするような目付き。思い出される、剣術の修行で、笑顔のママんに両手首を折られそうになった日々。
「ママんも、お元気そうで何より。今からすぐに書面を作り、国が変わったことを各国に通達します。兄上いいですね。書類を確認してサインをしてください。それとメーヴィス十四世ではなく、この国はネメシスにしますから、適当に家名を考えて」
説明をすると、ママんから一言。
「あら、私の家名。カーティスで良いじゃ無い」
なぜかビストなどという記憶が、呼び起こされる。
あれは、にているが、カーティスではない。
大型のロボットが欲しいぃ。赤い光が……
「ああ。じゃあ、それで。やることは沢山あるんで、兄上動いてください」
無表情で、オネスティは新王であるウェズリーに命ずる。
「じゃあ、頑張ってね」
そう言って、ママんは部屋に戻ってしまった。
「ふふーん。色々な武器。あれはすごいわ。あの子何処で覚えたのかしら? 私も兵が持っていた物を、一本貰ったけれど、刃と地金が別物。考えれば当然という造りね」
そう、途中でママんは、兵の剣を見て取り上げた。
魅入られた兵は、まるで大蛇に睨まれ、動けば死ぬと思いましたと、後日答えた。
ママんの実家、カーティス家。
この時から、再び強力な武器を持ち、戦場へと復活することになる。
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