第2話 悪ガキは考え、暗躍を開始する

 調印書、きちんと、読めば、属国化。


 自ら選択して、そこに足を踏み込んでしまった。

 そこから始まる、底の見えない泥沼……

 国は…… そして国民は、もがき苦しむことになってしまった。


 一,メーヴィス王国に対して、これ以上、侵攻は行わない。

 二,シュプリンガー帝国は、要望を受ければ王国を庇護する事を約束する。兵の派遣及び、必要なときは衣食住も与える。

 三,双方において武力行使は禁止する。破った国は賠償責任を負う。

 四,二項において、相応分の経費について、対価をもって支払う。

 五,不服あるときは、お互いに書面をもって通知し、双方協議の上、決定事項は速やかに履行をすること。


 そんな、ザルだらけの協定書。


 四番目が、死の宣告。

 つまり属国化を決定付けた。

 他にも、奴らが作り、ルールまで勝手に作った両替所。レートの問題とか色々ある。

 押しつけられた、新貨幣とかね。


「なんと言うことだ。来る途中に視察させて頂いたが、王国内にはまともな兵力も居ないでは無いかぁ。これでは、盗賊の対応にも困るであろう」

 調印をした翌日から、シュプリンガー帝国軍は、王国内へ派兵を開始。  

 王国内へ入り込み、獲物はいないかと目を光らす。

 獲物とは、金と商品を持った商人達。当然だが、盗賊と兵士は一人二役。


 請求された経費は、とても支払えるものでは無かった。

 法外ではない。それだけの兵達が、入り込んできていた。


 そして、困った王国は、必要が無いと帝国兵を追い出そうとしたが、当然のように居座る事になる。

 強引に追い出そうとしても、協定の三があるため、帝国兵に手が出せない。


 書面で苦情を言っても、回答はなく。

 しびれを切らして、使者を送る事になるが、受け取った覚えが無いという回答。

「残念だが…… こちらまで届いておらぬのだろう。やはり道中に盗賊でも出たのではないか? 武力は必要だのう」

 書面に書かれていたのは、自国の防衛は自国でする。兵を引いてほしい。その文書に、そんな答を返してくる。


 当然、その後も、見ていないとの一点張り。


 一年が過ぎた頃には、財政が破綻。

 帝国に懇願して、餌を貰い、日々を暮らす国が一つ出来上がった。国内でできた農産物は、債務のためにすべて没収。そして、食う分は買うことになる。高値で……


 当然だが、その間にも請求される経費は積み上がり、国民は奴隷として徴収される事になる。


「憾むなら、自国の王族と貴族を恨め」

 これが今の現状。


 それがもう十年。

「貴族を見れば、石を投げておやり……」

 平民がそれを口にできる、貴族達に何の力もない国。

 

 でも、よく言えば、身分に差の無い国だな……


 それはさておき。

「どう考えても無理だ」

 オネスティは考える。


 こっちの言葉では、深い意味の無いオネスティ。

 だが、英語では、正直さや誠実さを意味する。


 「『ビリージョエル』が歌っていたなあ」

『誠実というのは寂しい言葉、人は誰しも、そんな風には生きていない……』

 確かそんな内容だった。


 国を弱体化する手順ねえ……

 破壊、現状では無理。

 偽情報の流布。情報操作。いける。だが問題は内容。

 資産の窃取せっしゅ。これもいける?

 サボタージュマニュアルと言うものがあったなあ。CIAが作った、組織をダメにするマニュアル。


 昔読んだ情報に、マニュアルがあったが、組織の中に入り込まないといけない以上、まだ実行は無理だが、思い出した記憶は薄れていく。神様のおかげか、今はまだはっきりしている。


 昔、これを知ったときに日本の国会中継が、まさにそのままだと思い、笑った記憶。

 その、記憶を呼び起こす。


 達成する目的、全体の進捗よりも手段を優先させる。

 何かあった時に、自分の責任ではなく人の責任にできるようにする。

 ええと…… 常に文書による指示を要求するとか。

 誤解を招きやすい指示を出せ。それと、意思統一のために、長時間議論せよだったか。

 そして、完全に準備ができまで、実行させるな。


 すべてのステップで書類を必要にして、繰り返しステップごとに会議と書類チェックをしてあら探し…… すべてのステップで、決まったことを、また引っくり返して再度検討。


 そう、時間を掛けて、検討をするのを目的にする。

 そうすれば、何も決まらない組織を作る事が出来る。


 ―― さて、それはそれとして……

 今の俺でできることなど、声高に不満を言うくらい。

 そんなんじゃ、何も変わるわけがない。

 

 国家に大打撃を与える方法…… 悪い事だとは、判っちゃいるが、基本駄目だとか、禁止という物事には、きちんとした理由がある。

 やっては駄目なこと……


 そうだ、日本の法律で重罪。

 外患誘致罪がいかんゆうちざい、コイツは他国と共謀をして戦争を手引きすること。内乱罪ないらんざいはクーデター。通貨偽造、放火と公共交通機関の爆破とか……


 ―― そうだ…… 偽金。

 ばら撒いた後、情報の流布だな……


 さてと、信用できる奴はいないし…… ああ。そうだな。悪ガキ、オネスティと一緒に連んでいた、あいつらを使おう。


 それを思いついて、決断し即行動。

 日本人の記憶が蘇り、色々悩むことはあるが、この国の為に……

 おれは、悪になろう。

 力を持ち、魔人を倒さなきゃいけない。

 そう、きっと頑張れるさ。


 その夜、いきなりだが、城からオネスティの姿が消えた……


 城の中では忘れられていたが、彼はふと思い出した。

 城の裏宝物庫に残っていた、山積みのぶつ

 半金貨になる前に使っていた、帝国製の粗悪金貨が入った箱をすべて持って……

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