第15話 死の谷

 次の町は、鍛冶師の町デルヘースト。


 その町には、別にドワーフが湧いてなど居ないらしい。

 ニクラスに聞くと、ドワーフ? 何それ美味しいの? な感じで返された。


 だが、その手前に、死の谷村という村がある。


 山から毒の霧が降り、卵の腐ったような匂いが立ちこめる。

 そして川には、数年前の地揺れからのち、魚の一匹も居なくなったようだ。


 そう、子供達が、売られた村。

 子供達の世話をしていた、お姉ちゃんが心配という事で寄ることにした。


「ミルダ姉ちゃんは、たしか十七歳で美人だよ」

 その言葉に、釣られたわけではない。

 美人なら、横でナイフを研いでいるジャンナ達も美人だ。

 この前、お尻なでからの首落としを頼んでから機嫌が良く、そばを離れなくなった。



 ジャンナは考えていた。

 やっと興味を持ってくれて、手を出す口実だと思っていたのに……

 でも、触られた瞬間の、ぞくぞく。たまらない……

 他を触って貰ったら、私どうなるのかしら……


 そんな事を考えていた。


「あそこを、川の上流へ入ったところ」

 川の脇に山へと通じる道がある。

「荷車がギリギリだな」

 そう、かなり道は狭い。


 折りたたみの小屋や、串焼き用コンロ。

 色々増えてしまった。


 川の水は、言っていたとおり白濁している。


 日本で宮崎県か、どこかの記事を読んだ記憶がある。

 火山性の温泉水が、火山活動の影響で表出したときに、しろ濁りとかが起こる現象がある様だ。

 地揺れがあったというのが、単なる地震か火山性かそこが難しいところだな。


「魚が一杯、死んじゃったんだよ」

 マトウシュという男の子が説明をしてくれる。

「食べてないだろうな?」

 ちらっと見ると、うんうんと頷く。


「食べたら危ないって言っていたし、川のお水は触るとピリピリ痛くなるの」

「ああ酸性がかなり強いんだろ。それにそういう水は、重金属が含まれているようだからな。体に悪い」


 周りでは皆が、考える。

 さんせいってなんだ? じゅうきんぞくって?

 また訳の分からない事を言っている。

 王族だから、色々な勉強をしていたのは知っているけれど、最近は意味不明な言葉が増えた。


 そんな事を思いながら、荷車を引き坂道を上がる。

 やがて村を見つけると、子供達が走って行く。

 村はずれの家と言うよりは小屋へ向けて。


「おねえちゃん」

 そう言って飛び込んでいくが、子供達が後ずさって出てきた。


 中を見ると、子供にはあまり見せたくない光景が広がっていた。


 お姉ちゃんは、村で飼われていたのか、子供達がいなくなり問い詰めたからこの有様なのか…… 暴力の後。


「あんた達ぶじだったの? 良かった」

 自分がひどい状況なのに、子供達を心配する彼女。


「俺は今、子供達を引き取っている、オネスティだ。何があった?」

 聞くとポツポツと話してくれる。

 途中で、地揺れが始まる。

 あまり大きなものじゃないし、俺は平気だったが皆はパニックを起こす。


「まて。地震だ大丈夫」

「「「地震?」」」


「よく、あるのか?」

 彼女に聞くと、大きいのが一度あった後、頻発しているようだ。


 持っていた水で、石けんを使い彼女を洗い、着替えをさせる。

 服はぼろだし、破かれていたので捨てる。


 この数日飲まず食わずだった様で、歩けなさそう。

 なので荷台に乗せて、連れて行くことにする。

 だが、ふと気になり、川の上流を見に行く。


 そう、しろ濁りの原因。

 

 マトウシュとファリーが、案内をしてくれる。

「なんだか、変わっている」

 この辺りは、風向きによりガスが出て、鳥たちが死んでいるところらしい。

 村の名前の由来。

 死の谷。


 到る所から、蒸気が吹き上がっているが、地形が変わっているらしい。

「もっと谷だったのに……」

「そうか」

 そう言いながら、卵の腐った匂いの中で黄色い泥を集める。

 ガスと共に噴き出し、冷えて再結晶化した黄色で透明な物質。自然硫黄の結晶をツボに集める。

 色々と使えるからな。つい顔がにやけてしまう。



 だが繰り返される地震と、地盤の膨張。

 多分あまり良くない状態なのだろう。


 家に戻り、彼女に一応聞く。

「どうする村に残るか? それとも一緒に行くか?」

「この子達は?」

 彼女がそう聞くと、子供達が答える。


「一緒に行こう? ミルダねえちゃん。串焼きも美味しいし、算数も覚えたんだ」

「そうだよ一緒がいい」

 子供達がミルダに張り付く。


「皆……」

 彼女も、皆を抱きしめる。


「行くということで、良いのか?」

 そう聞くと、彼女はこっくりと頷く。



 村を出て、一応その晩に野宿をしながら説明する。


「頻発をしている地震。谷の隆起。噴火はしなくとも、水蒸気爆発は起こる可能性は高い」

「谷が…… りゅうき? ふんか? すいじょうきばくはつ?」

 そう言って、首をひねるミルダ。


「そう。なんといえば良いのか、あそこの谷には地面の下に熱い土がある。そこに水が触れて、お湯が湧く。だけど地面で蓋をされているからある程度まで我慢をするんだ。だけどいつかは耐えきれなくなって、上の地面ごと吹っ飛ぶ……」

 そう言って、握っていた手を目の前でボンという感じに広げる。


「じゃあ村は……」

「全部かどうかは判らないが、吹き飛ぶ……」

「そう……」

 そう一言言って、彼女は何かを考え始める。

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