第13話 必要悪と社会悪?
ジャンナが駆け寄ってきて抱え込み、いい子いい子と人の頭をなでる。
「なんのつもりだ?」
「泣くかと思って。あんた、一度泣き出すと手が付けられないから……」
「この年になって、泣くかぁ」
反論するが、放してもらえない。
「あらそう。つまんない」
抱えられて、なだめられている俺。仲間は笑い、ニクラス達は目を丸くする。
それからまあ、ニクラス達へ懐かしの、泣き虫オネスティの逸話が暴露される。
「そうそう。自分で怒って顔を出さなかったのに、一月後に来て、淋しかったぁって泣くんだよ」
「そんな事は、覚えていない」
俺はそう言って、ぷいっと顔を背ける。
そんな様子を見て、オネスティってかわいい……
そんな事を考える、人間が二人。
この家、いくつか部屋がある。
そして相変わらず、俺は、物置に一人。
女の子達は女の子で雑魚寝だが、むくっと一人起き上がる。
だが、それに反応をして声がかかる。
「トイレかい? 物騒だから付いて行ってやるよ。また攫われないようにね」
「あーらまあ。ありがとうございます。でも、ゆっくり休んでください。睡眠不足はお肌に悪いですわよ」
そんなやり取りが、行われる。
「油断も隙もない…… 私だって、我慢しているのに」
翌朝。俺達は、いつもの様に小屋を建てて、マジックショー。
その間に、穀物の商店を、ニクラス達が見張る。
そして出かけた先は、小売店。
主人が出迎え、頭を下げている。
店の裏へ回り、声を聞く。
断熱材など当然入っていないし、薄い板が一枚。
外でも声が聞こえる。
板にすりこぎのような棒を当て、反対を耳に当てる。
「居ない? 私どもの手の者は、きっちり八人。買ってきたと申していましたが」
「小屋には、搬入した感じもなかったぞ」
「近くですから、依頼した者達に会いにいきましょう」
そしてまた追いかける。
今度は普通の家。
若いのが出てきて、二人を招き入れる。
「頼まれたとおり、各村を回って、親無しを買ってきました」
「いつもの様に小屋に入れたのか?」
「ええ。手抜かりはありません」
「化かされたような話だが…… 向こうも人手が足りないのだ。仕方が無い。出発までにそろえてくれ」
そう言って、また小袋が渡される。―― 逃げた連中は、探さなくて良いのか? 袋を渡された男は考えるが、相手がそう言うなら、まあいい。
「近場の村には、もう居ませんので、少し遠くに回らないと……」
壁越しで表情とかは判らないが、人手の足りない農村と、親無しが居て困っている農村。その間で、穀物問屋の方が人の斡旋をしている感じのようだ。
「という感じで、人さらいという感じじゃないな。この辺りにはいないと言っていたから、たまたま人数合わせにお前達も攫われたが、山だったし、山で隠れ住んでいる親無しだと思われたかな?」
それを聞いて、エステリとアウッティは怒り狂う。
「確かに、若いけどさ。武器も持っていたのに……」
「ああ、そうだな。持っていないと危ないし、買いに行くか」
翌日は、昼から小屋を開くつもりで、武器屋に二人を連れていく。
お目付に、ジャンナとアネットが付いてきた。
「ちわーす」
「帰れ」
「はっ?」
店主の『帰れ』は、俺達に向けてでは無かったようだ。
冒険者だろうか? 少しガラの悪い二人組。
出がけに、ジャンナ達の胸を触ろうとして、大事な所を蹴りあげられる。
「ぐはっ」
ストンと座り込み、動かなくなってしまった。
「死ね」
そう言い放ったときの顔は、背中越しなので見られなかったが、こっちに向いたときには普通の笑顔だった。
ただ、エステリとアウッティは顔が見えたのか、躊躇無く蹴ったことへの驚きか、多少顔が引きつっていた。
「まあ良いか」
振り返って、店主に聞く。
「弓を二つとナイフ。女の子が使うので、それなりのものを」
そう言ったら、強面のオッサンがこそっと言ってきた。
「連れのお嬢ちゃん容赦ないな。見ただけで、ひゅときたぞ」
「激しく同意する。でだ、エステリとアウッティ。蔓の強さとか大きさは?」
「ええと村を出るときに、猟師さんから適当に貰った奴だから判らない」
「二人とも?」
そういう事らしい。
オッサンに言って、奥で試射させて貰う。
「自分の引ける弓力の弓で、七割くらいが良いと思う。強ければ威力は上がるが、疲れたときに引けなくなってしまう」
そうして、大きさと強さを決める。
そして、ナイフを四つ。
二つは、刃渡り三十センチくらい。
もう二つは、その半分くらいの小さなもの。
そしたら、ジャンナとアネットも持って来た。
そういえば、皆の装備も、考えないとやばいかも。
買うと、ジャンナはなぜかナイフに頬ずりをしている。
美人な分だけ、やばさが際立つ。
そして、あの男達。
復活をしたらしい。何か話し合って逃げていった。
「あいつらは、屑だから気を付けろ」
オッサンが教えてくれる。
「何があったんだ?」
「買っていった剣だが、手入れもせず、刃が潰れ、どうせ石でも叩いたんだろ。折れたから新品に変えろって、ふざけたことを言いやがって。あいつらが買ったのは、一年も前だ」
そう言いながら、話を思い出して腹が立ったのかオッサンが真っ赤になる。
「クレーマーか?」
「クレーマーってなんだ?」
「ああいや。気にしないでくれ」
そして、馬鹿達は人数が増えてやって来る。
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