第26話 オネスティの企み
「帝国が、国境へ来たそうです」
「そんじゃあ。伝令と、命令」
「はい」
いたずらか、ニクラスは恭しく命令を受ける。
そんな茶番を、王座でただ眺める現王。第二王子ウェズリーは呆れたように問いかける。
「俺って必要か?」
「ええ、失敗をしたときには、誰かが責任を取らないといけないでしょう?」
「そうだな…… ……まさか、俺か?」
「ママんにしますか?」
「……」
そう言われて、一言も返せず悩んでいたウェズリーだが、気が付く。
「あの野郎。自分を外しやがった……」
我が弟ながら、ずる賢い。
あそこで、ママんだと言われれば、何も言えないことを知っていて口に出す。
「むううっ」
それはいいとして、その一月後。
帝国内で散発的な戦争反対、食い物をよこせというシュプレヒコールが発生をした。
帝国軍は、三方の国境で足止め状態。
敵の方が、射程が遠い為に突っ込めず、打つ手がないまま長引く戦線。
そしていきなり始まった、意味不明な戦争反対の運動。
兵達が、現場へ到着する頃には、抗議者達は誰一人居ない。
だが、日々繰り返される言葉は、耳に入り人々を暗示にかけていく。
日本とかでもよくマスコミが繰り返し有名人の自殺を流すと、それを聞いた人々は後を追う事がある。これはウェルテル効果と呼ばれる現象だ。それと同じように、同じ事を繰り返すと、人は信じることが多く、またその言葉について、深く考えずそうなのかと納得をする様になる。
同じ文字などを見つめていると、認識阻害や、判別を出来なくなることがある。
この現象は、ゲシュタルト崩壊という。
そんな感じで、繰り返しに脳は弱い。
詳細は不明だが、それによる効果なのか、工作員以外が勝手に暴走を始めることになる。
「無駄な戦争をやめろぉ。食い物をよこせぇ。旦那を帰せ…… 等々」
それを聞いた皇帝は、粛正を命令する。
兵達はしかし、数が少なかった。
粛正を行いに行って、ある兵が当然のように。そう、いつもの様に国民に対して暴力を振るった。
だが彼らは、いつもの様にひるまず。逆にそれを切っ掛けにして、本格的な暴動が起こる。
圧倒的に多い国民。
多少の武力を、数が圧倒してしまう。
剣があっても石を投げられ、弓は矢が尽きるまで放てば終わりが来る。
各領地では、抑えることは出来ず、多くの領主が館を燃やされた。
後に言われる、帝国、土の季節の惨劇が始まった。
丁度収穫と年貢の徴収が終わり、貴族家には大量の穀物があった。
これから一年を暮らす為の貯蔵。
あるのは当然だ。
だが、国民が苦しんでいるのに、貴族は食い物を隠し持っていると成ってしまう。
そう。噂の流布。それが真実だろうが、嘘だろうが、皆が信じればそれは正解となる。
宰相や皇帝は、それを収める為に、残酷な見せしめを行った。
そう、暴走状態の国民。それを、止める為の残酷ショー。
帝都では、それを皇帝自らが行った。
罪人達は、生きているまま、体を切り裂かれていく。
大衆に見えるように、少し高所に貼り付けにされた者達は、生きたままで自らの体の中身を見る事になった。
血を浴び、嬉しそうな表情でそれを行う皇帝。
その途中で、人々は見てしまう。
皇帝に角が生え、体が変化を始める。
それは、日本人が見れば鬼だと答えるだろう。
それを見て、逃げ出す帝都の民。
それを、皇帝は手の一振りで殺してしまう。
初めて見る魔法。明らかに、ヒトでは無い何か……
宰相も、驚いてしまう。
そして残酷ショーにうっとりしていた王妃も、怖がって逃げ始め、背中からバッサリと切られ、体を裂かれる。
「皇帝陛下が…… 化け物に…… 一体いつから……」
オネスティの悪企みは、お告げの魔人をあぶり出したようだ。
これは予想外で、本人は全く嬉しくないようだが……
「帝国の皇帝がモンスター?」
「ああ、そうみたいだぞ。例の、労力をかけずに帝国で内乱を起こそうを実行中に、モンスター化をした様だ」
「なんだよそれ?」
ここは本来、王の執務室。
王であるウェズリーは此処におらず、謁見の間で貴族からの嘆願や報告を聞いて、「うむ。くるしゅうない」と告げる任務に付いている。
業務自体は、宰相に返り咲いた、クリストハルト=ヴィーガントがやっている。
かれは、自身で勝手に判断をしないから、使う側としては使いやすい。
元王達は、牢に色々と持ち込んで優雅に暮らしているし、王国内は安定をしている。
税収については、国が一元化して、それ以外の税を取るときには、申告をして許可を得ることになっている。
許可をされても、地方税は単年度で執行すること。
余るときには、余剰分として減税。
無理に使い切れば、倍の減税。
そのかわり、天変地異などで非常時復興予算は国が負担をする。
ただし、あらかじめの工事などで防げたのに、しなかった場合は自領負担。
そんな事を細かに決めていく。
だがまあ、国としても軍備と、食料備蓄はある程度必要。
帝国の腐った硬貨は、鋳つぶして、新たな硬貨を発行。
蒸気機関を使ったプレス加工で、均一なものを発行している。
デザインは、美しい横顔のママん。コインの上では、裏のない笑顔を見せている。
その美しい造形を逆手に取り、他国の金貨は二分の一とレートを決めた。
「だがしかし、困ったなぁ。天命…… 帝国に行かないといけないか……」
ニクラス達、身内には『魔人を倒し、この世界に安寧を』と言う天命のことを言ってある。
「そうだな」
「銀の弾は効くかな?」
ポケットから取り出して眺める。一応作ってみた。
「なんだそりゃ?」
「他国の言い伝え。だが、そうだな狼男に効いても、鬼か…… 桃太郎って言う名前の奴を探すか……」
周りにいた、ニクラスやスヴェト。
ジャンナ達は、また変なことを言い始めたと頭を抱える。
「モウモ、ツァローって誰?」
「さあ?」
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