第四章 帝国の滅亡へ向けて

第20話 計画

「あー、ごめんね」

 最初に反応をしたのは、ジャンナ。

「いえ。オネスティが王子だっていうのは知っていたけれど、王様って簡単になれるものなの?」

「普通は、成れない。それに、メーヴィス王国のままで、王になっても意味が無い」

 俺がそう言うと、ニクラスは気が付いたようだ。


「そうか、条約が有効なら誰が王になっても一緒だな」

「そうそう」

 不安そうな顔になっている、ジャンナ達を抱き寄せる。


「まず、メーヴィス王国を倒すぞ」

 俺が言うと皆の顔が『はあっ?』ってなった。


「しかし協定は? 国を守っているのは帝国兵だぞ」

 確かに、三番目に双方での武力衝突は禁止する。破った国は賠償責任を負う。なんて言う文言はある。だがそれは……


「皆が勘違いをしているようだが、これは国と国の協定だし。民が自国を攻撃するのは関係ない」

「はあっ?」

 ニクラスは驚いているが、皆は『へっ?』という感じ。


「今は民一人一人に力が無く、いやいや従っているが、民が国を倒し。国そのものが変われば、協定は破棄だ…… むろん、帝国兵がジャマするなら、そのとばっちりで倒す」

「そんな、へりくつ」

 呆れたように言ってくるが……


「理屈は理屈だ。簡単だろ。違う国になれば、ついでにメーヴィス王国の借金もチャラになる。はっはっはっ。その後は、新国家として各国と新たに同盟を結ぶ」

 ベッドに寝転がり、天井を見ながら宣言をする。


「ペテンじゃないか……」

「害はない…… いや、帝国だけは貧乏くじだな」


 そんな話を、当然エルドランド王国の王。ノルベルト=アーリエンは報告として受ける。


「オネスティ殿は、そんな事を。むろん王族。部屋に物見が潜んでいることは知っていただろう」

 そう言って宰相と、顔を突き合わせて考え始める。


「当然その計画、各国と同盟を結ぶということは、帝国を倒すのに手を貸せという事じゃな」

「そうでしょうなあ。かの御仁。評価が随分変わりすぎて。前情報では、放蕩息子で悪さをしていたとなっておりますが、面会時のイメージ。いえ、お会いした瞬間から随分評判と違う様な気がします」

 宰相がそう言うと、王も椅子にゆっくりとそして腰を深く掛けなおす。腹の前に手を組み、何かを考えはじめる。


「今彼が何処で何をしておるのか、一チーム付けなさい。むろん迷惑がかからないように」

「御意に。ただ明日。謁見の間ではなく、この部屋ででも、聞けば話をしてくださるかとも思いますが……」

「そうか、そうだな。素直に聞いてみるか。下手な探り合いは、帝国のつけいる隙を見せることになるやも知れぬ」


 そうして翌日。王、ノルベルト=アーリエンは、時代を飛び越した非常識な光景を見ることになる。



「おはようございます。よく、おやすみになれましたでしょうか?」

 宰相さんが現れて、声をかけてくる。

 あれから後、結局皆が一つのベッドで寝た。

 そうは言っても、皆それぞれ思うことがあったようで、寝られなかったようだ。


 今までの皆を見て自信はあったが、此処で裏切られることになると、大きく計画が狂うことになる。


 宰相さんに呼ばれて、王の部屋へ入る。


「申し訳ない。話を聞いてしまった」

「いえ、聞かせるつもりでしたから…… そうですね。いま武器を作っているんです。ご覧に入れましょう」

 あっさりと、オネスティは暴露する


 兵達の練兵場を借りて、武器を見せる。

 鎌付きの槍。槍の真ん中に良くある刃が一本。

 だが付け根から、曲がった刃が生えている。


「この横からでている刃で、敵の手でも首でも、足首でも刈れます。ただ重いので昨日説明をした、塹壕からの攻撃用です。敵は突くしかできないが、こちらは引っかけて刈れます。そして弓。エステリさん。お願いします」


 そして出てきたのは、無骨な弓。

 的を用意したのだが、彼女が構えたのは、練兵場の端。的は逆側。

 百メートルくらいの距離があったが、矢は的を突き抜いてしまう。

「おおっ。なんという強力な」


 そして、非常識が始まる。

 消音やマズルフラッシュを防ぐサプレッサー付きの銃。 サプレッサーとは銃の発射音と閃光を軽減するために銃身の先端に取り付ける筒状の装置である。


 オネスティが手を上げ、静かに的へ向かうと、妙な音が響きはじめる。

 パシュパシュとかプシュプシュとかいう音。

 距離は、およそ三十メートルほど。


 ただ、草を巻いた的が、音がする度にはじける。


「これじゃあ、よく分からないから、中古の鎧とかありませんか?」


 そして用意された鎧。

 念のため、オネスティは弾頭を変える。

 距離は同じで撃ち込むと、鎧が暴れまくる。


「おお、これはすごい。鎧に穴が開いている」

 喜んでいる王と、宰相を尻目に考える。

 手にしているのは、手榴弾。


「すみません。離れてください」

 オネスティは使ってしまった。


 ぽいっと何かを投げると、逃げる。

 王城全体を揺らすような音と地響き。

 中庭だったから、思ったより反響をした。


 それを見ていて、驚いたようだが、動き始めた者達が数人。


 それを全員、あらかじめ伝えられていたとおり、宰相の命令により捕らえる。


「困りますなぁ、ベランジェ=デュナン伯爵。その手紙はなんでしょうか?」

 兵は強引に手から奪い、内容を見る。

「この手紙を送る相手は、どなたかな? 別室でゆっくりとお聞きしましょう」


 内部情報を流していた者達は捕らえたが、オネスティの正体と武器の本当の強さを計れた者達はいなかった。


 後日、銃と手榴弾以外が搬入された。

 そして、中にはクロスボウまで入っていた。

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