第2話

 俺が生まれてから、13年の時が経った。

 その間に、母親であるカリンは死んだ。

 俺が看取った。

 スキルで冷静なはずだったのに、その時は涙が出た。


 ちなみになんだが、この13年で一度も魅了のスキルは使ったことはない。

 普通にそんなので俺を好きになってもらっても、虚しいだけだし、可哀想だと思うからな。

 だから、少なくともそういう目的で使う気は無いよ。


「ミシュレ様、起きていらしたのですか」


 そうして色々と考え、扉がノックされたかと思うと、そう言って、母さん以外で唯一俺と仲良くしてくれている、俺と同い年くらいの銀髪犬耳メイドのロゼが耳をぴょこぴょこさせながらも無表情で入ってきた。

 うん。可愛い。魅了は使わないけどな?


 ロゼは俺の専属メイドだ。

 なんで扱いが悪い俺に専属のメイドなんてものがいるのかというと、いくら無能でも死なせたとなると貴族としての評判が悪くなるらしく、専属のメイドをつけようという話になったらしいんだが、みんながみんな出世する可能性が0の俺なんかに仕えたくはないみたいで、あれよあれよという間に獣人だからという理由であまり人に好かれていないロゼが俺の専属メイドになっていた。

 最初はかなり警戒心を露わにしていたけど、今はそんなことはないし、かなり仲良くなれたんだと思う。……多分。

 いや、無表情だし、分かりずらいんだよ。


「ミシュレ様、朝食の時間ですよ」


「……ロイドは?」


 朝食はもちろん食べたいが、ロイド……弟には会いたくないから、俺はそう聞いた。

 俺、無能だから、嫌われてるんだよ。

 ロイドはスキルが聖騎士で魔法の才能まであるチート野郎の癖に、器が狭いから、本当に会いたくないんだよ。

 会う度に無能だとか色々言われるのは全然いいんだけど、暴力を振るってくるのだけは本当に嫌だ。

 残念なことに俺には魔法の才能も無ければ剣の才能もないから、本当に抵抗手段が無いんだよ。

 ……いや、魅了はあるけど、今更ロイドに好かれるのは好かれるで嫌だしな。


「今は庭でいつも通り訓練を行っています。だから、今なら大丈夫ですよ」


「なら、行くか」


 そうして、俺たちはリビングに移動した。

 俺以外の家族はもうとっくに食べ終わっているから、当然リビングには俺一人だ。

 まぁ、一緒に食べることを許されてないんだから、当然だけど。

 ……俺が転生者じゃなかったら、とっくに壊れてると思うぞ。




 そんなことを思いつつも、俺は朝食を食べ終わった。

 太るのは嫌だし、部屋で適当な運動でもしようかなと思って立ち上がったところ、ロゼの時とは違い、扉がノックされることなんてなく、ノルドが俺を睨むようにして入ってきた。一応、俺の父親だ。

 こんなことはこの13年間一度もなかったことだ。

 まさか、とうとう俺は家を追い出されるのか? ……流石になんの才能もない俺が13歳で家を追い出されたら生きていくことなんて不可能だぞ。


「何をボサっとしている」


「──ッ、申し訳ありません」


 冷静スキルを持っている癖に、想像の何倍も冷たい声でそう言われた俺は体が凍えるような思いをしつつも、片膝をつき頭を下げた。

 チラリと傍に控えてくれていたロゼの様子を見ると、ロゼもちゃんと頭……どころか、耳までペタリと閉じるようにして、下げていた。

 ……なんか、一気に癒されたな。

 あれ、いつかモフモフさせてくれないかな。なんて思う余裕まで出てきた。

 ……うん。流石にこれは冷静スキルのおかげかな。


「明日、公爵様が娘を連れ、家に来る。お前は何もせずにいつも通り部屋の中にいろ。万が一のことがある、窓を覗くことも禁止だ。分かったな?」


「分かりました」


 公爵が来る、ね。……どうしようかな。俺のことを保護してくれる可能性にかけて、存在をアピールして見るか? ……無いな。

 どうせ上手く切り抜けられるだけだろうし、そんなことになったら、後が怖い。

 今はノルド達が食べているものの何倍もしょぼいものとはいえ、食事が出来ていることを考えると、俺は恵まれてる方なんだ。

 わざわざそんな危険を犯す意味が無い。

 ノルドの言う通り、部屋に居よう。


 そう思っていると、用は済んだとばかりにノルドは俺たちに何も言うことなく、部屋から出ていった。


「ロゼ、大丈夫か?」


 俺は冷静スキルや精神年齢も相まって大丈夫だけど、ロゼは違うから、そう聞いた。


「大丈夫です。心配、ありがとうございます」


 無表情だけど、耳がぴょこぴょこと動いてる。

 ……不快には思われてないってことでいいのかな。

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