第8話

 意識が覚醒していき、目が覚めると、俺は何故かロゼと一緒に眠っていた。

 手はロゼの頭に置いてあり、眠る直前まで頭を撫でていたことが分かる。


 ……そういえば、そうだったな。

 昨日はあれから結局最後までロゼは俺に甘えてきて、風呂と食事の時以外は常にくっついてたんだったな。

 俺も普通にロゼの耳の触り心地が良すぎて、満更でもなかったし、特にマイナスな感情なんて沸いてなかったし、全然いいんだけどな。


 それよりも、どうしような。

 結局、家から逃げるのか、逃げないのか。

 ……まずはロゼに聞くところからだよな。


 そんなことを内心で思いながらも、ロゼはまだ目を覚ましていない。

 だからこそ、ロゼを起こさないようにベッドから起き上がった俺は、なんとなく昨日の狼がどうしているかを確認しようと、窓を覗いた。

 まだ朝だし、部屋の外に出たらノルドやロイドが朝食を食べていて、鉢合わせるかもだし、外には出られない。つまり、暇だからだ。

 今日は窓を覗くことを禁止されてないしな。

 ……まぁ、禁止されてたって、今の俺なら覗いたかもだけど。今様子を確認しようとしているあの狼が味方にいるし。


「……ん?」


 すると、朝食を食べていると思っていたロイドが重装備を着て、俺が昨日魅了を掛けた狼に向かって歩いているのが見えた。

 ……まさか、昨日の復讐をしようとしてるのか? ……その復讐心が俺に向かってこなかったことを喜ぶべきか、せっかく大人しくしてくれているのに、馬鹿なことを、と思うべきなのか、どっちなんだろうな。


 ロイドはめちゃくちゃ小物っぽいけど、実力は確かだ。

 もしかして、俺は狼を心配した方がいいのか? あの狼がやられたら、絶対次は俺だろうし。

 

「​──のせいだ! お前のせいで! お前のせいでぇぇ!」


 ロイドが何かを言っているように見えたから、少しだけ窓を開けると、そんな声が聞こえてきたから、俺は直ぐに窓を閉めた。

 普通にどうでもいい内容だったし、そんなしょうもないことを聞くためにロゼが起きてしまったら大変だからな。

 せっかく気持ちよさそうに寝てるのに。


「……」


 そうして声は聞こえないながらも、様子を見続けていると、ロイドは狼に向かって剣で斬りかかっていた。

 もしもあの斬りかかっている相手が俺だったのなら、確実に死んでいたであろう攻撃だ。

 ただ、ロイドにとっては残念なことに、相手は俺では無い。

 だからこそ、あの狼は攻撃を受けつつも、全く効いた様子がなく、そのままロイドは片手で踏み潰されてしまった。

 踏み潰されたと言っても、ちゃんと体を倒されてからだし、多分死んでは無いと思う。

 ……と言うか、ちゃんと装備を準備しているロイドを片手で相手……というか、捻れるなんて、やっぱり凄いな、あいつ。

 俺が心配する必要なんて全くなかったな。


「ん……ロゼ、起きたのか?」


 そうして、どうせ暇だからロイドが潰されている様子……あの狼の様子を適当に見ていると、急に後ろからロゼが俺に抱きついてきた。

 まだ反動で甘えん坊になってるのか?


「……また、私じゃなくて、あの魔物を気にしてる」


 ……何この可愛い生物。

 いくら反動で甘えん坊になってるとはいえ、魔物に嫉妬するのは予想外すぎるし、可愛すぎるだろ。


「暇だったから見てただけだって。別に気にしてる訳じゃ無いって」


 今の俺からしたらあいつは俺の生命線だし、本当はそういう面を気にしてたから見てたんだけど、今の甘えん坊なロゼにそんなことを言ったら、拗ねてしまいそうだから、俺はそう言った。


「……頭、撫でてください」


「分かったよ」

 

 ロゼの耳を触れるのは俺としても嬉しいから、甘えられたことを面倒だなんて思わずに、俺は直ぐに頷いて頭を撫でた。

 断る理由がないからな。

 だって、そもそもの話、俺が魅了なんてスキルを貰った理由って女の子にモテたいからだからな。

 ロゼは女の子って言うより、愛玩動物的な感じに思ってるけど。……当然悪い意味じゃなくてな。


「ロゼ、そのままでいいから、聞いてくれるか?」


 俺が触りながら撫でてるから分かりにくいけど、耳をぴょこぴょことさせているロゼに俺はそう聞いた。

 

「……なんですか」


「俺は家を出ようと思うんだが、ロゼも着いてきてくれないか?」


 朝の時点では迷ってたけど、さっきのロイドの様子を見て俺は決めたんだ。

 もうこの家を出ようって。

 

「絶対着いていきます」


「……もう少し、考えたりしないのか? 俺、行く宛てとか無いぞ?」


「大丈夫です。ミシュレ様に着いていきます」


 正直、断られる可能性も考えていなかった訳では無いから、嬉しいんだけど、もう少し考えて見ても良かったんじゃないか? と思ってしまう。

 いや、嬉しいんだけどさ。

 

「まぁ、分かった。今日……いや、明日の朝には家を出るから、準備しておいてくれ」


「分かりました」


 俺の言葉に肯定の返事をしてくれたロゼだけど、俺の体に引っ付いたまま、離れる様子はなかった。

 今じゃないってことね。

 ……取り敢えず、ロゼが一旦でも満足してくれるまで、頭を撫で続けるか。

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