第9話

 取り敢えず、ロゼが一旦でも満足してくれるまで、頭を撫で続けるか。


 そう思ってから、かなりの時間ロゼの耳をもふもふしながら、頭を撫で続けたんだけど、肝心のロゼは一向に満足してくれる様子がなかった。

 

「ロゼ?」


「……なんですか」


「そろそろ、朝食を食べないか? ロゼもまだだろ? 一緒に食べよう、な?」


 何度も言うけど、ロゼの耳の触り心地は最高だし、ずっとこうやって甘えられても全く不快な気分になんてならないんだけど、朝食くらいはお互いのためにも食べたいしな。

 

「…………分かりました。準備してきます」


 渋々、本当に渋々といった感じで、ロゼは俺から離れて、そう言ってきた。

 そしてそのまま、部屋を出て行った。

 どんだけ反動がでかいんだよ。……いや、それだけ心配してくれたってことだろうし、嬉しいから別にいいんだけどさ。


 そんなことを思いながらも、ロゼが出て行ったのを確認した俺は、またロゼに嫉妬されないようにチラッとだけだけど、窓からあの狼を覗き見た。

 すると、まだロイドを片手……と言うか、肩前足で地面に潰していた。

 よし、あいつのおかげで、安心して朝食を食べられるな。

 後でまた撫でてやらないとな。……またロゼに嫉妬されるかもだから、ロゼが許してくれるのなら、もちろんロゼもな。


「ミシュレ様、朝食の準備が出来ました」


 あぶな。

 俺が窓を覗いてあの狼の様子をちょうど見終わったところでロゼが入ってきたから、思わずそんなことを思ってしまった。

 もしも冷静スキルが無かったら、絶対顔に出てた自信があるくらいには焦ったわ。

 またさっきみたいな嫉妬をされて甘えん坊が発動されてしまったらせっかくの朝食が食べられなくなってしまうからな。


「ありがとな、ロゼ」


「では、また後で頭と耳を撫でてください」


 あれ? なんか、俺の想像してた答えと違うな。

 なんだかんだ言って、ロゼはメイドなんだから、遠慮したようなこと……例えば「私はメイドなんですから、当然のことです」みたいなことを言うと思ってたんだよ。

 別に一言一句同じことを言ってくるとは思ってなかったけど、流石に報酬? みたいなのを要求してくるのは予想外だわ。

 いや、全然良いんだけどさ。

 本当に何度も言うけど、ロゼの耳、好きだし。


「後でな」


「はい」


 


 朝食を食べ終わった。

 ロゼも食べ終わっている。

 

「約束、守ってください」


 俺はそろそろロゼが明日家を出る準備をしてくるのかと思っていたのだが、そんな俺の予想に反してロゼは頭を俺の方に差し出してきながら、そう言ってきた。


「ちゃんと約束は守るぞ? でも、そろそろ明日家を出る準備をした方がいいんじゃないのか? 着いてきてくれるんだろ?」


「…………ミシュレ様が着いてきてくれるのなら、準備、します」


 えぇ……別にいいけど、ロゼ、お前メイドだよな? なんで主人である俺がメイドの準備について行くんだよ。いや、いいんだけどさ。理由は昨日のことだって分かってるし。


「ついて行くから、さっさと準備するぞ」


「はい」


 相変わらず無表情だけど、耳はぴょこぴょこと動いているし、心做しか嬉しそうにも見えるから、良かった、かな。

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