第7話

 公爵様の質問に答えた後、何かボロを出したつもりはなかったんだけど、公爵様は本当にそんな理由なのかと少し……いや、かなり俺を疑っているようだったが、無事にアイリスを連れて帰っていってくれた。

 当然と言うべきか、ノルド達が出迎えに来る前にさっさと、だ。

 まぁ、俺もあの公爵様の立場だったら、今そんなことをされても不快なだけだからな。気持ちは理解できるが、公爵様は何もする気がないんだろうか。

 結果的に何も無かったとはいえ、自分の娘がロイドやノルド達のせいで危険な目にあったというのに、何もしないなんて、有り得るのか? 確実に俺がいるこの家より権力を持っているのはあっち側だろうに。

 ……何か計画があるのかな。……だとしたら、その計画が行われる前に、俺は家を出たいな。

 ロゼが着いてきてくれると言うのなら、ロゼを連れて。


 ちなみになんだが、俺が魅了を掛けたあの狼は今、庭に隠れている。

 ……隠れていると言っても、あの巨体だ。

 全然隠れられてないんだけど、俺が「どこかに隠れることは出来るか?」と聞いて、元気よく返事をした後にああなってるんだから、本人的には隠れているつもりなんだろう。

 ……どうやってあんなので森の中で生き残ってきたんだろうな。……考えるまでもないか。あの圧倒的な強さだわ。


 そして今、なんで俺がこんなことを長々と考えていたのかと言うと、単純に、現実逃避だ。

 ……ノルドやロイドに何かを言われたから? 違う。あの二人は今、公爵家にとんでもない失態を犯してしまったことを悔やんでいる頃だ。さっきノルドのロイドを怒鳴る声が聞こえてきたから、間違いないだろう。

 そんなことはどうでもいい。問題は、ロゼがめちゃくちゃ甘えん坊になってしまっている、ということだ。


「ロゼ、そろそろ満足出来ないか?」


「まだ出来ません」


「……そうかぁ」


 ロゼは相変わらず無表情の癖に、俺の胸に顔をグリグリと押し付けるようにして、抱きついてきている。頭に生えている可愛らしい犬耳も心做しか俺にスリスリとしようとしてきているように見える。

 公爵様たちが帰って、俺が自分の部屋に戻ってからずっとこんな感じだ。

 ……帰ってきた時、ロゼの心のケアは終わったと思ったんだけどな。

 冷静スキルがあって良かった。

 無かったら、ロゼが可愛すぎて何をしていたか分からん。

 心配をしてくれていた相手にそんなこと、していいはずがないからな。

 今だって心配しすぎたが故の反動? みたいな感じだろうし。


「ミシュレ様、さっき、庭にいるあの大きな魔物の頭を撫でてましたよね……?」


「ん? あぁ、まぁそうだな。見てたのか?」


 ついさっきまで恐怖の対象だったんだけど、今はなんか可愛いしな。


「……私も、撫でてください」


「いや、撫でてるだろ」


 さっきも撫でたし、なんなら今だって撫でてる。

 ロゼの言っている意味が分からなくて、俺は反射的にそう言っていた。

 

「……耳は、触ってくれません。あの魔物には、触ってたのに……」


 すると、ロゼは頭を俺の胸に押し付けたまま、拗ねたようにそう言ってきた。

 ……耳、触っていいのか? 俺、何かセンシティブな部分かと思って、避けてたんだけど、触っていいのか? いいのなら、正直めちゃくちゃ触りたいぞ? 見てるだけでも、毛並みが良くて、触ってみたいとずっと思ってたんだよ。


「触ってもいいのか?」


「……ミシュレ様が嫌じゃないのなら、耳も一緒に撫でてください」


「分かったよ」


 甘えるようにそう言ってくるロゼの言葉に頷いて、俺はロゼの耳も一緒に頭を撫で始めた。

 ……やばい。予想通りではあるけど、めちゃくちゃ触り心地が良くて、気持ちいい。


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