第15話
メイドについて行っていると、そのまま一つの部屋に案内された。
当然と言うべきか、まだそこには誰もいない。
ここにくるのがアイリスであろうと、公爵様本人であろうと、全くの別人であろうと、俺たちより立場が上なのは家を見たら分かるし、わざわざ俺たちを部屋で待っていたりするはずがないのは当たり前だ。
待たされることに特に何かを思うことは無い。
そう思いながら、メイドに勧められるがままにロゼと二人でソファに座って俺たちをここに呼んだ誰かが来るのを待っていると、扉がノックされた。
「入っても大丈夫かな?」
そして、あの日聞いた公爵様の声が聞こえてきた。
やっぱり、公爵様だったんだな。と思うと同時に、あの騎士達には身分を明かしてもらってから、連れてきてもらいたかったな、とも思った。
何となく公爵様だろうとは思ってたけど、やっぱり、違う人の可能性だってあったしさ。
……いや、違うか。多分だけど、公爵様も、あの騎士も、俺たちがなんにも知らずにここに来たとは思ってないんだろうな。
一般的な教養を受けていれば、公爵様が治める街を知らないはずが無いって考えから、俺たちは意図して公爵様の街に来たんだと思われてるんだろう。
……実際のところは俺とロゼはまともに育てられてはいないし、ここが公爵様の街だなんて全く知らなかったわけだけどな。
「もちろん大丈夫です」
そう言いながら、俺はロゼと一緒に立ち上がった。
すると、扉が開いて、公爵様とアイリスがそのまま部屋に入ってきた。
アイリスも居たのか。
「座ってくれて構わないよ」
「……ありがとうございます」
本当に座っていいのかと少し迷ったけど、俺は頭を下げながらそう言って、ソファに座り直した。
もちろんと言うべきか、隣でロゼも俺と一緒にちゃんと頭を下げていた。
「先に聞いておくのだが、何故、この街に来たのだ? まさか何も悪くない君たちがあれの代わりに謝罪に来たわけではなかろう」
「…………たまたま、ですね」
多分、信じられないだろうけど、俺はそう言った。
別に目的があってこの街に来たわけじゃないからな。
「たまたま? たまたまとは、どういうことかね」
あの時は変に恩を売られたくないから、と適当なことを言って誤魔化したけど、今の公爵様の目は嘘をつくことは許さない、といった視線を俺に向けてきている。
いくら冷静スキルでポーカーフェイスは完璧とはいえ、この公爵様を今誤魔化す自信は無かったから、渋々ではあるけど、俺は正直に言うことを決めた。
「そのままの意味です。私はあの街……というより、あの屋敷の敷地内から外に出たことが無いのです」
「……それは、生まれてから、という意味か?」
「はい。更に付け加えるのなら、まともな教育など施してもらっていないので、ここが公爵様が治める地とは知らなかったのです」
「そ、それ、本当なの!?」
俺がそう言うと、公爵様……ではなく、隣に黙って座っていたはずのアイリスが思わずと言った感じにそう言ってきた。
「本当ですよ」
「で、でも、それにしては言葉遣いが丁寧じゃない?」
「ロゼに教えてもらったんですよ」
今の公爵様はさっきのように嘘を見逃さない、という目はしていない。
だから、俺はそんな嘘をついた。
……仮にさっきまでと同じ目を公爵様がしてたとしても、前世のことを話す気は無いから、同じことを言っただろうけど。
「そうなの?」
「はい」
ロゼはちゃんと俺に合わせて、頷いてくれた。
冷静スキルがある俺と同等レベルにポーカーフェイスが上手いな。
「ふむ。少なくとも、ミシュレ君はもうあの家に帰る気は無い、ということで良いのだな?」
「はい」
「それは良かった。随分とやりやすくなったよ」
……やっぱり、なにかする気だったんだな。
「申し訳ないのだが、後はアイリスに任せるよ。私は用が出来たからね」
そう言って立ち上がる公爵様を俺とロゼは頭を下げながら、見送った。
……もう話は終わったみたいだし、俺たちは行っちゃダメなのかな。
それとも、公爵様は後はアイリスに任せると言っていたし、普通になにか用があったりするのか?
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