第14話

「……あの、これ、降りた方がいいですか?」


 少し遅いかもしれないが、騎士たちに連れて、街の中に入ったところで、俺はそう聞いた。

 いや、よくよく考えたら、騎士たちをずっと上から見下ろして失礼だろうし、そもそも、普通に恥ずかしい。

 めちゃくちゃ街の住民に視線を向けられるんだよ。

 騎士たちが俺たちを……というか、シロを取り囲むように周りにいるから、怯えているというより、好奇心の視線だ。

 いくらロゼの耳をもふもふして気を紛らわすことができるとはいえ、それにも限度がある。

 ……肝心のロゼは俺に耳をモフられるのを気持ちよさそうにしていて、全く視線なんて気にしていなさそうだけど。


「いえ、街の住民にその魔物が安全だと示すためにも、そのままでいてくれた方が助かります」


「……そうですか」


 我慢、するか。

 ロゼの耳のおかげで我慢出来ないことも無いし、ここで無理にシロから降りて騎士たちの好感度を下げる必要もないと思うし。

 ……そもそも好感度なんてあるのか知らないけどさ。




「着きましたよ」


 そうして、ロゼの耳をもふもふして周りの視線から気を紛らわせていると、騎士の人のそんな声が聞こえてきた。


「ん? あっ、はい。ありがとうございます」


 視線を意識しないようにしてたから、全く周りを気にしてなかったけど、もう着いたのか。

 ……いや、どこに着いたんだ?


 そう思って、反射的に周りに視線を向けると、俺の家だった場所より大きい屋敷が目の前にはあった。

 ……やっぱり、ここが公爵の家ってことなのかな。……まぁ、分からないけど、貴族の家ってことは確かだし、可能性は高いよな。


「その魔物はこちらで管理……世話……預かっているので、どうぞ屋敷の中へお入りください」


 まぁ、別に管理でも世話でも預かってるでもなんでもいいんだけど、一応気を使われたってことでいいのか?

 まぁ、取り敢えず、降りるか。


「ロゼ、大丈夫か?」


 ずっとシロの上に乗ってたし、足だったりが痺れているかもしれないから、俺は一応そう聞いた。


「大丈夫です。……じゃないです。降りるの、手伝ってください」


 ……いや、それは流石に騙されないぞ? 絶対なんともないだろ、その言い方。

 別にいいんだけどさ。

 甘えたように耳を俺に押し当ててきながら言ってきてるし、まだ甘えん坊が治ってないってだけだろうしさ。

 ……ただ、一応ロゼ、お前は俺のメイドなんだからな? 一応、だけど。


「これでいいか?」


 そんなことを思いながらも、俺はロゼを横抱き……前世で俗に言うお姫様抱っこというやつでロゼをシロから下ろした。

 いくら弱い俺でも、ロゼは軽いし、楽々と持ち上げることが出来た。


「……うん」


 軽すぎて、ちゃんと食べているのか? とも一瞬思ったけど、食べさせれなかったのは俺だったと思い直して、そんなことは口にできなかった。

 謝罪代わりに俺はまだ甘えん坊になってしまっているロゼの耳と頭を撫でた。

 どうせ素直に謝っても、ロゼは優しいから、許してくれるだろうし、実際昨日は許してくれたからな。


 そんなこんなで、騎士に変わって今度はメイドに連れられ、俺とロゼはシロを置いて屋敷の中に入った。

 仮に何かがあろうと、大声でシロに助けを求めれば何とかしてくれるだろうしな。……絶対、耳とかいいだろうし。

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