第16話

「えっと、まだ何か話があるのですか?」


 少し失礼かとも思ったけど、目の前に座っているアイリスが何も切り出してくれないから、俺はそう言った。


「もし無いのなら、もう私たちは行かせて貰いたいんですけど」


「えっ、暫くはここに居るんじゃないの?」


 すると、アイリスは何か驚いたような様子を見せてきながら、そう言ってきた。

 いや、普通に行かせてもらう気だけど。

 公爵様やアイリスに迷惑をかけるわけにはいかない……っていうのは建前で、単純に借りを作りたくないだけだ。

 ノルドやロイドに公爵様が何かをするのは、公爵様が娘……アイリスを傷つけられそうになったから勝手に何かをするだけで、そこに俺は関係ないから、借りにはならないからな。

 さっき俺が公爵様に話したことを使って、何かをする可能性はあるけど、それは俺のために……ではなく、俺の与えた情報を公爵様が有効的に使うだけだ。

 どっちかっていうと、俺が公爵様に貸しを作ったって感じだ。

 ……まぁ、あんな情報がなくたって、公爵様なら立場的に全然何とかできてただろうし、下手なことを言う気は無いけどな。


「迷惑をかける訳にはいきませんから」


「迷惑だなんて、私もお父さんも思わないわよ」


「それでも、やっぱり私が申し訳ないと感じてしまうので、行かせてもらおうとは考えていますよ」


 普通に申し訳ないっていうのも嘘では無いんだけど、単純に俺に貴族の暮らしなんてものは向いてないと思うんだよ。

 ……前世の記憶があるっていうのももちろんなんだけど、ミシュレとして生まれた今も貴族らしい生活なんて出来てないしな。

 強いて言うなら、メイドが……ロゼがいることが貴族らしい生活ではあるか。

 まぁ、でも、それくらいだよな。


「……だったら、せめて、なにか私に出来ることは無いの? あの時のお礼として、何かをしたいのよ」


 ……一言言うとするのなら、金が欲しいな。

 俺たち、今普通に一文無しだし。

 お礼って言ってきてるし、貸しにはならないよな? 勇気をだして、金が欲しいって言ってみるか? ……いや、やめておくか。やっぱり、公爵様相手だし、怖いわ。

 俺、スキルのおかげで冷静なだけで頭はあんまり良くないからな。


「少なくとも、今のところは特に何かして欲しいことはありませんので、気持ちだけ受け取っておきますよ」


「なら、私もミシュレについて行くわよ。そっちの方が、何かあった時に直ぐお父さんに連絡出来て、お礼ができるからね」


 ……いや、普通にダメに決まってないか?

 公爵令嬢が何普通に俺に付いて来ようとしてるんだよ。許されるわけが無いだろ。

 

「そんなこと、公爵様が許してくれませんよ。最近、危険な目にあったばかりなんですから、尚更ですよ」


「大丈夫よ。あの時は恥ずかしいところを見せてしまったけど、私、結構強いのよ?」


 無理があるって。

 あの時、恥ずかしい記憶だろうし、あんまり思い出すのも悪いけど、普通に腰を抜かしてたからな? 

 ……まぁ、ロイドもあんな感じだけど、強い方だし、シロが強すぎるだけの可能性は結構高いけどさ。


「それに、あの魔物も一緒なんでしょう? なら、尚更大丈夫よ」


「仮に戦力的に大丈夫なんだとしても、やっぱり公爵様が許してくれないので、無理ですよ」


「つまり、お父さんの許可が出たら、付いて行ってもいいってことでいいのよね?」


 許可は出ないだろうし、アイリスに何かあったら俺が責任を取らされそうだから、普通に嫌だよ。


「……そうですね。もしも許可が出たのなら、大丈夫ですよ」


 そう思いながらも、公爵令嬢相手に「一緒に来られたら迷惑だから嫌だ」なんて言える訳もなく、俺はそう言った。

 どうせ許可なんて降りないだろうと高を括って。

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