第17話

「……」


「……」


 公爵様の許可が出たら、アイリスも俺たちに着いてくる、という話で纏まった。

 それはいい。

 それはいいんだ。

 どうせ許可なんて出ないからな。

 ただ、公爵様が帰ってくるのにも当然時間が掛かるし、アイリスとの会話が弾まない。

 ……当たり前っちゃ当たり前なんだけど、アイリスとの共通の話題が見つからないし、何を話せばいいのかが全くわからん。

 ……まぁ、なんでかは分からないけど、気まずそうにしてるのは全然俺だけっぽいんだけどさ。

 アイリスはともかく、ロゼはなんでそんな平気そうなんだよ、と一瞬思ったけど、よく考えたら、ロゼは最初からあんまり会話に参加してなかったし、別に普通……なわけなくないか? 俺がロゼの立場にいたんだとしても、この空気は気まずいと思うぞ? なんでそんなに平気そうなんだよ。

 いや、俺も表面上はスキルのおかげで気まずいと思っているような雰囲気なんて出してないし、ロゼやアイリスから見たら普通二人同様普通に見えていることだろう。

 ……もしかして、二人も俺と同じでポーカーフェイスが上手いだけか?


「そういえば、お腹は空いてきてない? もし空いているのなら、お父さんが帰ってくるまで少し時間が掛かるだろうし、食事をメイドに持ってこさせるわよ?」


 ……欲しい。めちゃくちゃ、欲しい。

 ロゼも表情は変わらないけど、心做しか俺のことを頷くことを期待したような目で見てきている気がする。

 アイリスの方から言ってきてるんだし、借りにはならないだろうし、仮になったとしても、これを断るわけにはいかないな。

 ロゼは俺のせいで昨日何も食べられなかったんだから、ここで借りだ何だを気にしてる場合なわけが無いだろう。


「ロゼの分まで、是非お願いします」


 そう思った俺は、そう言いながら頭を下げた。

 俺のせいでロゼは食事を抜くことになってるんだし、頭を下げるくらい余裕だ。ここで変なプライドを持ったってロゼを幸せにできないだけだし、そんなのはさっさと捨てるべきだ。

 ……まぁ、もう既に幸せにできてるのかはちょっと怪しいけど。


「ち、ちょっと、こっちがいきなり呼び出したようなものなんだし、食事を出すのなんて当たり前のことなんだから、頭なんて下げなくていいわよ! 早く上げなさい」


 慌てたようにアイリスはそう言ってきた。

 ここで意固地になる必要は無いし、そう言われた俺は素直に礼を言いながら、頭を上げた。

 ……礼といえば、この食事を礼ってことにしてもらえばいいんじゃないか? ……ほぼありえないと思っているけど、本当に僅かな可能性で公爵様がアイリスが俺たちに着いてくることを許可する可能性が無いわけでもないから、これを礼ってことにしてもらって満足してもらえるのならそれが一番だと思うんだが。

 ……まぁ、自分で言うのもなんだけど、アイリスは命を救われてるんだし、その礼としてはちょっとあれだな。

 いや、俺は全然いいんだけど、アイリスが納得してくれなさそうだ。アイリスは俺が最初に感じた印象通り割と気が強い方なのはもう分かってるしな。


「これがアイリス様や公爵様からのお礼ということで大丈夫でしょうか?」


 そう思いながらも、俺は一応そう聞いた。


「そんなわけないでしょ! こんなの当たり前のことなんだから、お礼にはならないわよ!」


 すると、案の定と言うべきか、予想していた通りの答えが返ってきた。

 それと同時に、アイリスはメイドに食事を持ってくるように命令をしてくれた。


「ありがとうございます」


 そんな様子を見た俺は、アイリスに礼を言って、また頭を下げた。

 隣でロゼも一緒に頭を下げている。


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