第18話

 ロゼと一緒に、アイリスがメイドに持ってこさせてくれた食事を食べ終わった。

 前世の食事に比べるのなら、別に普通だったのかもしれないけど、俺は13年間貴族の家で出るような食べ物とは言い難いものを食べてきたんだから、もうとっくに舌はそれに適応してきていた。

 だからこそ、アイリスが持ってさせてくれた公爵家の食事は本気で感動するほどに美味しかった。

 もしも冷静スキルが無かったのなら、俺は泣いていたかもしれない。それくらいには美味しかった。


 ロゼもいつも通り無表情ではあるけど、黙々と食べ進めていたし、多分気持ちは俺と同じだったんだと思う。

 ……別にあの屋敷にいた時も同じような感じだったけど、美味しいとは思っていたはずだ。

 ロゼだって俺と一緒であの屋敷ではいい顔をされてなかったしな。


「ありがとうございます、アイリス様。本当に美味しかったです」


「……美味しかったです。ありがとうございます」


 俺とロゼはアイリスに向かって一緒にそう言った。

 

「さっきも言ったけど、こんなの当たり前のことなんだから、全然大丈夫よ」


 その当たり前のことを今世の俺の親はしてくれなかったんだけどな。

 だからこそ、多分だけど必要以上に感謝してる訳だし。

 

「……そういえば、アイリス様はどんなスキルを持っているんですか? もちろん、答えたくないのであれば、答えてくださる必要はありませんが」


 食事が終わってしまい、メイドが食器を下げてくれた所まではいいんだが、まだ公爵様が戻ってくる様子は無い。

 つまり、また気まずい空間がやってくるのか、と思ってしまった俺は、咄嗟に思いついたアイリスのスキルのことを聞いた。

 あんまり俺にはアイリスが強いイメージなんてないけど、自分で強いって言ってたし、ロイドのように何か凄いスキルを持っているのかもしれないと思って。

 

「私は賢者ってスキルを持っているのよ」


「魔法を使うスキル、ですよね?」


「えぇ、そうよ」


 アイリスは少しだけ自慢げにそう言ってきた。

 もちろんと言うべきか、ロイドのように嫌味のあるような言い方では無い。


 ……めちゃくちゃ凄くないか? 仮にそれが本当なんだとしたら、なんであの時魔法を使わなかったんだ? 賢者なんて絶対強いスキルだし、魔法を使ってればシロを倒すことくらい出来たんじゃないのか?


「……凄いですね」


「なにか反応が微妙ね」


「申し訳ありません。ただ、そんなに凄いスキルを持っているのなら、あの時、何か魔法でも使えば良かったのでは? と思ってしまいました」


 失礼かも、とは思ったけど、俺はそう言った。

 変に誤魔化す方が何か違う誤解をされるかもしれないからだ。


「ぅ、あの時は単純に怖かったのよ。悪い?」


「いえ、あの時は私も怖かったので、仕方ないです」


「……その割には、あの時は襲われない保証なんて無かったのに、あの魔物の前に出てくれたじゃない」


 あの時はまだ魔物に俺のスキルが使えるって確信をもっていたわけじゃないし、確かに、襲われない保証なんて無かったけど、中身大人な俺がアイリスを……小さな女の子を見捨ててなんて行けるわけが無かったから、必死だったんだよ。

 ただ、前世云々を正直に話す気は無いし、誤魔化した方がいいよな。


「ロイドが逃げてしまったので、私が前に出ないとアイリス様が危ないと思い、あの時は必死だったんですよ」


「ふ、ふーん。ほぼ初対面だったのに、私を助けることに命を掛けるほど必死だったの」


 まぁ、それであってる、のか?

 必死だったのは間違いないし、あってるのか。


 そう思っていると、何故か隣に座っているロゼに足を抓られた。

 ……無事に帰ってくるって約束してたのに、危うく死ぬところだったことを怒っているのか? だとしたら、ごめんとしか言いようがない。

 ただ、今はアイリスが前にいるから、出来れば後にしてくれないか? いや、俺が悪いんだけどさ。

 アイリスの前でアイリスを助けたことを謝るのは違うと思うからさ。

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