第19話

 流石にアイリスの前でロゼの頭を撫でるのはどうかと思うから、ロゼは顔には出さないけど、まだちょっと不機嫌だ。


 ……一応、あの森に行った日はアイリスの前でロゼの頭を撫でてたけど、あれは最早不可抗力ってやつだ。

 あんまり思い出すのはロゼに悪いから、思い出さない方がいいんだろうけど、あんなに顔をぐちゃぐちゃにして俺を心配してくれていたロゼが抱きついてきてる状態で何もしないなんて選択肢、いくら俺が冷静スキルを持っているとはいえ……いや、冷静スキルを持っているからこそ、そんな選択肢が出てくるはずがなかったんだ。


 そんなこんなでロゼが不機嫌のままアイリスと話をしていると、やっと公爵様が戻ってきた。

 ……ロゼを不機嫌のまま放置するのは悪いとは思ったけど、アイリスの方を放置する方が不味いと思うし、仕方ないんだ。

 ロゼの方も俺の気持ちは理解してくれているのか、何も言わずにアイリスにバレないように足を抓ってくるだけだし、後でいっぱい構ってやらないとな。

 ……なんか、構ってやらないとな、とか変な言い方だけど、甘えん坊になってしまっている今のロゼにはこの言葉がピッタリだろう。


「アイリス、問題は無かったかい?」


「大丈夫だったわよ。それより、私はミシュレ達について行こうと思うんだけど、問題無いわよね?」


 ……単刀直入すぎないか? なんの説明も無しにそんなことを聞いて、公爵様が頷いてくれると思っているのか?

 いや、俺としては公爵様に早く首を横に振って欲しいし、詳しい説明なんてない方がいいんだけどさ。

 ただでさえ大事な一人娘? かは分からないけど、大事な娘を俺なんかに着いてこさせることに公爵様が頷く可能性なんて低いのに、ろくな説明も無いんじゃ更に低くなるだろうし。


「もちろん構わないよ」


 ほら、公爵様も断って……ないな。

 ん? この公爵様は自分が何を言っているのか分かっているのか?

 仮に分かってるんだとしたら、なんでろくな説明もされていないのに、ノータイムで頷けるんだよ。おかしいだろ。


「待ってください。口を挟んで申し訳ありませんが、本気ですか? 失礼ながら、今のアイリス様の言葉には何の説明もありませんでしたが」


 少し失礼な物言いになってしまったとしても、俺としてはアイリスに着いてきて欲しくないし、俺はそう言った。


「何となく、話がどうなったのかくらい察することは出来るから、問題は無いよ」


 ……公爵様がこんな適当に娘が俺について来ることを許可するとはどうしても思えない。

 まさかとは思うけど、最初から決まってたのか? ……今思えば、アイリスもノータイムで俺について行くってことを言っていたよな。

 ……俺、公爵様とアイリスの手のひらの上で踊らされているのか?

 そう思いつつも、アイリスに公爵様が頷いたらついてきても良いと言ってしまっている以上、下手に断ることも出来ずに、トントン拍子に話は進んでいってしまった。

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