第20話
「ミシュレ君、どうかね?」
「……はい。凄く、美味しいです」
あれから結局俺はアイリスが俺についてくるということを断ることが出来ずに話が進んでしまい、アイリスは俺に付いてくるということになってしまった。
そして今がどういう状況なのかと言うと、夕食を公爵様にご馳走になっていた。
……ありがたいかと聞かれればありがたいのだが、俺としてはさっさと街を出たかった。
……借りを作りたくない……ってのもあるんだけど、それ以上にロゼの視線がちょっと不味くなってきてる気がする。
アイリスを助けた時の話をした時から様子がおかしかったけど、アイリスが俺に付いてくると決まった時は更におかしくなった気がする。……俺の足、ちょっと跡が付いてしまうくらいに抓られたし。
まぁ、その事に対してロゼを恨む気持ちなんて思い浮かぶはずが無いし、実際何も思わない……どころか、ロゼは俺の足に跡が付いてしまったことに罪悪感を抱いてしまっているみたいだし、早く甘えん坊になってしまって自分の行動に罪悪感まで抱いてしまっているロゼのメンタルケア? をしたいから、街を出たかったのだが、よく考えたら、アイリスが付いてくる以上街を出たってロゼと二人きりにはなれないのか。
……だったら、アイリスが居るからって遠慮なんてしないで、さっきロゼを甘えさせてあげれば良かったのかもな。……失敗したな。
今は公爵様が居るから、絶対できないし、本当に失敗した。
「君はどうかな?」
俺がそう思っていると、公爵様は今度はロゼに向かって食事が美味しいかを聞いていた。
今更だけど、公爵様やアイリスは獣人に差別意識とか無いんだな。
まぁ、普通上に立つような人なんだから、仮にあったとしても表に出すような真似はしないよな。
……だったらうちの親……ノルドはなんなんだって話になるけど、自分の子供である俺も目に見えるスキルがしょうもないという理由であんな扱いをするような人だし、納得ではあるよな。
「美味しいです」
ロゼは俺と同じように無難な解答をしていた。
早く街を出たいとは思ってるけど、実際美味しくはあるからな。
「それならば良かったよ」
そうして、夕食を食べ終わったのだが、もう夜も遅いし一日は泊まっていってくれ、ということで俺たちは公爵様の家に一日泊まっていくことになった。
俺とロゼだけならまだしも、立場的にアイリスに野宿をさせるのは不味いと思うし、好都合ではあるんだけど、やっぱり俺は公爵様とアイリスの手のひらの上で踊らされてる気がしてならない。
そう思いつつも、抵抗なんてしてもなんの意味もないし、メイドの人に俺たちは大人しく部屋に案内された。
ベッドは二つあるとはいえ、何故か俺とロゼは同じ部屋に案内された。
まぁ、ロゼのメンタルケア? をしないと、と思っていたから、好都合だと思うし、良いんだけどさ。
どうせあの家にいた時も野宿をした時も一緒に寝たりしてたしな。
部屋が一緒なくらい、今更だ。
「ロゼ、触るぞ?」
大丈夫だとは思うけど、俺は一応そう聞いた。
すると、ロゼは小さくだけど、すぐに頷いてくれた。
「取り敢えず、ごめんな。あの時、ちゃんと無事に帰ってくるって言ってたのに、アイリスを助けるためとはいえ、危険な真似をしてしまった」
「……その事に不満なところがある訳じゃ無いです。むしろミシュレ様が自分の命を賭けてまで人を助けたことは誇り高いです」
……ん? あれ、そのことに対して怒ってるわけじゃなかったのか? なら、何に対してロゼは不満を感じてるんだ?
「もっと耳に触ってください。……それと、私の方こそ、足に跡を付けるくらいに抓ってしまい申し訳ありません」
そう思いつつも、ロゼの頭を撫でていると、ロゼはそう言ってきた。
「足に関しては別に気にしてないから、ロゼも気にするな」
ロゼの望み通り、耳を触りながら、俺はそう言った。
だって本当に気にしてないし。
「……ほんとですか?」
「本当だよ」
「……なら、今日も一緒に寝てください」
「……ベッドはちゃんと二つあるぞ?」
俺がそう言うと、ロゼは不満そうに俺に撫でられている耳をぴょこぴょこと動かしながら、俺の胸に頭をぐりぐりと押し付けてきた。
「……まぁ、そうだな。一緒に寝るか」
「……うん」
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