第3話
ノルドにほぼ初めて自分から話しかけられた日から、一日の時間が経った。
今日は公爵様が来るから、部屋の外に出るなって話だったよな。
「ロゼ、朝食を取りに行くのも不味いと思うか?」
恐らく昨日のノルドのあの言葉は獣人のロゼに対しても言っていた言葉だろうから、もしも不味いのならロゼに朝食を持ってきてもらうことも出来ないし、俺はそう聞いた。
「絶対に不味いですね。……ミシュレ様がどうしてもと言うのなら、獣人の身体能力を活かし、誰にもバレないようにこっそりと朝食をお持ちしますが」
「いや、万が一ロゼが見つかる可能性がある以上、朝食は抜きでいいよ。……朝食だけじゃなく、昼も抜きになりそうだけどさ」
「……そうですか」
やっぱりロゼは無料上だけど、耳はぴょこぴょこと動いている。
……ほんと、どういう感情なんだろうな。
いきなり触ったら怒んのかな。
嫌われたくないし、触らないけど。
そうして、部屋にロゼと一緒に閉じこもって過ごしていると、昨日朝食を食べていた時のように、扉がいきなり開いた。
ノルド……では無い。
「……ロイド、何か用か?」
弟だ。
ノックくらいしろよ、とも思うけど、まぁ今更だ。
「あぁ、兄さん。外に出ろ、今から森に行く。着いてこい」
一体なんの用かと聞こうとしたところで、ロイドは被せるようにして、そう言ってきた。
ノルドの時も思ったけど、ロイドが自分から俺の部屋に来ることもほぼ無い。
「ノル──いや、父さんに部屋を出るなと言われている」
「その父上には俺が許可を取った。早くしろ。……先に言っておくが、お前は俺の引き立て役だ。俺を立てるような言動以外はするな。分かるな?」
「分かったよ」
よく分からないけど、手を魔法でバチバチとさせながら言われたんじゃ、弱い俺は頷くしかない。
チラリとロゼに視線を向けると、犬耳を逆立たせながら、シャーッ、と威嚇していた。
猫かよ。犬だろ、お前。
いや、犬もなるのかもしれないけど、何となくイメージ的に猫のイメージの方が強いんだよ。
「ならいい。直ぐに来いよ」
そう言って、一秒でも早く俺の部屋を出たいとばかりにロイドは部屋を出て行こうとして、止まった。
「あぁ、それと、ペットの躾くらいはちゃんとしておけ。それくらいなら、無能な兄さんでもできるだろう」
かと思うと、そんな嫌味を残して、今度こそ、部屋を出ていった。
……俺のことはどうでもいいが、ロゼのことを馬鹿にされたのは普通に腹が立つな。
俺に力があれば……いや、俺に冷静なんてスキルが無ければ、絶対感情に任せて殴ってやってたのに、嫌でも冷静になって、そんなことをしたら余計に俺たちの立場が悪くなることを理解できてしまい、何も出来なかった。
「ロゼ、大丈夫か? それと、ごめんな」
「私は大丈夫です。それに、ミシュレ様が悪いわけではありません。気にしないでください」
もうロゼの犬耳は逆立っていなかった。
本当に気にしてないっぽいな。
「……はぁ。行きたくないけど、俺は行ってくるよ、ロゼ」
「私も行きます」
「……ダメだ」
「何故ですか」
「単純に危険だ。ロイドは絶対に俺たちを守ってはくれない」
森としか言われてないから、どこの森に行くのかは知らないが、絶対に魔物くらい出てくるだろうし、ロゼを連れていくことなんてできるわけが無い。
「私は獣人です。ミシュレ様を守るくらいのことは出来ます」
「……外に出てもいい許可を出されたのは俺だけだ」
本当はそんなこと知らない。
もしかしたら、ロゼにも許可が出ている可能性は全然ある。
それでも、俺はそう言った。
さっき思った通り、ロゼに危険なところに行って欲しくないからだ。
母さんが死んで、ロゼまでそうなってしまったら、本当に俺の味方がいなくなってしまうからな。
「……ちゃんと、帰ってきてくれますか?」
無表情……ではある。そのはず、なんだけど、どことなく、心做しか寂しそうに、ロゼはそう聞いてきた。
俺の勘違いかもしれないけど、ここで適当な返事は出来ないな。
「帰ってくるよ」
「……分かった。待ってる」
なんでここで敬語が外れたのか知らない。
それでも、俺はそんな言葉を背に、重い足取りで外に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます