第23話
そして、朝食を食べ終えると、時間というのは過ぎ去るのが早いもので俺たちが屋敷を出る時間になった。
「……えっと、嫌な訳では無いのですが、本当についてくるのですか?」
俺は最終確認として別に多い訳ではないけど、公爵令嬢なのにちゃんと荷物を自分で持っているアイリスに向かってそう聞いた。
「えぇ、もちろんよ」
「そうですか」
何となく分かっていたアイリスの返事を聞いた俺は、いつも以上にくっついてきているロゼの方に目を向けた。
「……えっと、ロゼの方はどうした?」
そして、そう聞いた。
あの時から甘えん坊になってしまっているのは分かってるんだけど、ここまでくっついてくるのは寝る時とか、シロの上に乗ってる時だけだったから、不思議だったんだよ。
もちろん、不思議ってだけで別に嫌な訳じゃないし問題は無いんだけど、アイリスの目があるし、ちょっとな。……まぁ、割と今更かもだけどさ。アイリスももう俺とロゼの仲がいいのは慣れたもので何も言ってこないし。
「……なんでもないです」
そうか? ならそれでいいか。……とはならないぞ? 明らかに何かあるときの言い方だろ、それ。
相変わらず表情に変わりは無いけど、なんとなく、長く一緒にいるからか、雰囲気もなんか違う気がするし。
……もしかして、アイリスがついてくるのは嫌だったか? ……いや、でも、ロゼがアイリスを嫌う理由なんて無いだろうし、分からないな。
「そうか?」
「はい」
そう思いつつも、俺はそう言った。
もちろん、ロゼを引き離すことはなく、だ。
昨日はアイリスの前だからって理由でロゼと二人きりになるまで、ロゼを甘えさせてあげられなかったからな。
多分少しの間になるとはいえ、アイリスとは一緒にいることになってしまったんだし、もうアイリスの前だからって理由でロゼを甘えさせない意味なんてないと思うし。
「……じゃあ、行きますか?」
公爵様は忙しいみたいでもう屋敷には居ないみたいだし、特に挨拶をするような相手はいないから、俺はアイリスに向かってそう聞いた。
ロゼは俺が行くって言ったら何も言わずに着いてきてくれるだろうし。
「ミシュレのタイミングでいいわよ」
「なら、行きましょうか」
そう言って、俺はまだここに居ないシロを呼びに行こうと思ったのだが「わん!」という鳴き声が聞こえてきたと同時に、シロがこっちに向かって走ってきていた。
……シロもシロなりに気を使ったのか、俺からしたら早いけど、シロからしたら多分かなりゆっくり目に。
「くぅん」
「別にお前のことも忘れてたわけじゃないって。ちゃんと今から呼びに行こうと思ってたよ」
「わん?」
「あぁ、本当だよ」
狼なのにロゼと違って表情が分かりやすいやつだな、と思いながら、俺はそう言った。
「取り敢えず、アイリスも一緒なんだが、三人でも背中に乗って大丈夫か?」
シロに向かってそう言いつつ、俺は内心で少し焦っていた。
冷静スキルがあるから顔には出てないけど、いつも心の中で呼び捨てにしてたから、普通にアイリスのことを呼び捨てにしてしまった。
「わん!」
シロの返事を聞きながら、チラッとアイリスのことを見たけど、気にしてる様子は無い。
聞こえてなかったのか? それならそれでいいか。
シロも多分肯定の返事をしてくれてるし、早く街を出てしまおう。
……流石にちょっと恥ずかしいし、シロに乗るのは街から出てからだけど。
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