第20話 搭乗型ゴーレム試作1号機
搭乗型ゴーレムの作成を始めて三日目の昼。
私は、熟考に熟考を重ねてデザインした頭部パーツを慎重に持ち上げ、胴体部に接続をした。
「これで……完成よ!」
「おめでとうございます! 姫様!」
後ろで見守っていたミアが、パチパチパチと拍手をして祝ってくれた。
全高2.3mくらい
全幅0.65mくらい
重量おそらく3~400kg
形状は標準的な人型を基本とし、外装は大型のフルプレートアーマーを踏襲したデザインを採用した。
装甲には、主に鋼鉄を使用。
フレーム部は、軽さと堅牢性の兼ね合いでミスリルに置き換え。
関節部の軸やジョイントには、アダマンタイトを使い耐久性を高めた。
複雑に動く箇所の密閉性を高めるべく、ミアに調達してもらった何某かの魔物の皮をリベット等で打ち付け、その上を鎖帷子で覆い、動きを阻害せず柔軟に動ける様にもした。
コクピットとなる胴体内部は、私が半立ち状態で乗りやすい様に、シート形状等を試行錯誤し、魔物の皮で作ったシートベルトを取り付け。
操縦桿ぽく見えるグリップは魔法制御には必要ないけど、急な制動などに踏ん張る為には多少は役に立つし、後々は何か制御機能を持たせたい。
外部を映すモニターの類もないし、外装を閉じると鎧の通気孔みたいな所からしか光が差さないので、ほぼ真っ暗になるけど、私の魔力感知視覚を通して見れば問題はない。
頭部に関しては完全なる飾りだし、まだ塗装もしてないし、特別な装備や機能も何も無い。
だけど、私が初めて1から作り上げた、スーパーでリアルなロボット――
――搭乗型ゴーレム試作1号機の完成だ!
優雅に昼食をとりつつ、ようやく完成した1号機を眺めながら、一息つく。
「さてと、それじゃ動作テストと行きましょうか」
作りながらパーツごとの細かな動作確認はしていたけど、実際に乗ってみてのテストは初めてだ。
「まて、ティアル。中に乗ってテストするのなら、私を首にかけていけ」
「え? 何よ急に?」
搭乗型ゴーレム試作1号機を座らせてある専用台座に足をかけて乗り込もうとすると、ベディが待ったをかけた。
「私も見た事の無いゴーレムの運用方法なので、外部から君をサポートできるのか少々不安だ。乗り込んでテストするというのなら私を身に着けて行った方が良い」
「わたしもゴーレムの上に乗るとかは見た事ありますけど、中にって初めて見ます。ほんとに大丈夫なんですか? そんな狭い所に体を縛り付けて動かすなんて」
今度はミアまで。
「二人とも心配性ねぇ。大丈夫よ。あのベルトとかは不意に衝撃を受けた時とかに、中で体が飛び跳ねて怪我しない様にする物で、安全対策のためよ」
「それでもです。姫様だって初めてなんでしょう? できればテストするのならルインさんが居る時にして欲しいのですけど、せめてベディさんを身に着けて行ってください。何かトラブルが起きそうな時はベディさんを姫様に身に付けさせておけって言われてますし……」
ルイン達が帰って来るのって、今日の夕方までかかるって話だし。
そんなに待ってられない。
「わかった、わかったわよ。ベディを身に着けておけば良いんでしょ?」
ミアからベディを受け取り、首にかける。
何気にベディって、ペンダントにしては大きい所為か重いのよねぇ……
ずっと付けてたら肩が凝りそう。
「それじゃ、さっそく」
私は、自分の体格に合わせて作った操縦席に乗り込み、シートベルトを装着する。
そして、機体各部に魔力を送り込み、可動部に石ゴーレムを生成した。
先ずは、腕を持ち上げ、手の指の動作を確認。
次に手首と肘。その次は肩。
どこも、問題なく稼働する様だ。
思っていたより滑らかに動かせる。
開けっ放しの腹部のハッチと胸部パーツを折り畳む様に閉め、軽く上体を左右上下に動かす。
腹部の動きと、コクピットシートの干渉が無いかの確認をしてからハッチにロックをかけた。
「次は、立たせるのか?」
「ええ」
首元のベディが声をかけて来た。
「慎重にな」
「分かってるわ」
腕部と脚部に力を籠め、マニピュレータで台座の取っ手を掴ませ、慎重に上体を持ち上げる。
そして、脚部を下ろさせ、床を踏みしめて機体を上げ、直立状態にした。
「よし、立った。次は歩行を……」
「バランスに気を付けろ」
「わかっ――きゃッ!」
「姫さま!?」
一歩、足を前に出した瞬間、いきなり、力を込めた側の足が氷でも踏んだかの様に滑り、バランスを崩して派手な音を立てて倒れたてしまった。
「だ、大丈夫ですか!? 姫様!?」
「あいた――痛くない……?」
ミアが心配して、あわてて駆け寄ってきたけど、私はどこも痛くはなかった。
やっぱシートベルトは付けておいて正解だったわね。
体を固定しないで乗ってたら、頭とか体を打ち付けてたわ。
「大丈夫。なんともないわ……これでシートベルトの有用性も確認できたし」
「いや。私が衝撃を消していなかったら、そこの目の前の突起部分とシートの頭部付近に前頭部と後頭部を打ち付けていたぞ」
「……そこは、後で改良が必要ね」
ベディが守ってくれなければ本当はダメだったらしい。
もしかして、ヘルメットとかも必要だったかしら?
このフワフワなドレスみたいな服も胴体の可動部に噛みそうだし、訓練着を着ておけばよかったかも。
今度、パイロットスーツみたいな物も作らなくちゃいけないわね。
「それにしても、何で足が……」
と、倒れた原因を探ってみると、絨毯の下の床がツルツルの大理石みたいな物で出来ていた所為か、脚部で踏んでいた箇所の絨毯が破れて、バナナの皮を踏んだかの様に滑ったみたいだ。
起き上がらせようと、腕部で手を突いて体勢を変えると、そこの絨毯もビリッと行ってしまった。
ここで、このまま稼働テストを続けると部屋の中が大惨事になりそう……
「あー……、あまり、ここでテストするのは良くないかも?」
「そうだな。ここで続けるのは止めておいた方が無難だ」
「それじゃあ、今日はここまでにしましょう姫様?」
「えー……」
ミアは止めさせたいらしいけど、ここで止めるとかありえない。
でも、さすがに、部屋の中で続けるのは色々と危なっかしいのも確かよね。
「お外でやっちゃダメ?」
「外はさすがに……わたしも、そろそろ皆さんが帰ってきた時の為の支度をしないとですし。姫様には、お部屋で大人しくしていてほしいというか……」
しかたない……
この手は使いたくは無かったんだけど……
「少しだけでいいから! ミアが暇な時ここでお菓子食べながらゴロゴロしてたのとか黙ってるから!」
「う゛っ……それは……」
ルインとか相手には通用しないだろけど、ミアになら――
「わ、わかりました……でも、あまり変な所に行かないでくださいね?」
「わっほい! ありがとうミア! 大丈夫、外の訓練場とかでするから」
「訓練場ですか? まあ、訓練兵さん達は皆お休みだから大丈夫かな? あと、これを持っていてください」
ミアは、そう言うと、魔法で小さな水の玉を作り出すと、私に差し出してきた。
ハッチのロックを開け、ミアの差し出してきた物を受け取る。
指でつまんでもグミみたいな感触で形は崩れない、不思議な水の玉だった。
「なにこれ?」
「わたしの魔力を込めた水です。それがあれば姫様の居場所とか無事が分かりますから」
「ふーん、じゃあ頭のティアラにでも付けとくわ」
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