第9話 狙うは足!
リカルド兄さんと別れてから歩く事、数分。
目的地にはまだつかない。
部屋から出てからなら、確実に10分以上は歩いている。
ちょっと、お城って広すぎない?
「ねえ、ルイン? まだつかないの?」
「もう少々かかります姫様」
まだかかるのか……
今まで部屋に籠りっきりだったので、お城の中の様子が見られるのは新鮮で楽しいのだけれど、歩くのにも疲れて来た。
それにしても、貴族教育って何するんだろう?
フワっとしたイメージしかないけど、優雅なお茶会とか食事の際のマナーとか、そういうのなのかね?
和洋中の一般的なマナーとか所作なら少しは分かるけど、他に参考になりそうな知識は無いのよね。
少女漫画とかも食指が動かず、ほとんど読んでないし……
音を立てて茶器とかを置いたら、教育係の人からピシッと指し棒ではたかれて、嫌みな叱られ方をしたりするのかしら?
キャッキャウフフな風に見えて、その裏側で行われる宮廷内でのドロドロとした人間関係を、優雅なマナーと所作で武装して戦ったりとか?
色々と気が重いわ……
なぜ、こんな面倒な立場に転生させられたんだろう。
あの神様と連絡が取れる様になったら、この疲れた足の事も含めて文句でも言いたい気分だ。
そんな事を考えながら歩いていると、ようやく「ここです」とルインが言い、目的地に到着した。
だけど、案内された場所は、想像していた所とは真逆の、なんとも殺風景な所だった。
先程までの城内の雰囲気とはガラリと変わり、学校の体育館並みに広く、天井も同様に広く高い。
床も絨毯などでは無く、むき出しの土を踏みしめた物で、壁や天井も打ちっぱなしのコンクリートみたいな物で出来ていて、一切の飾りつけが無い。
中からは、ほのかに運動部の部室や練習場の様な汗の臭いが漂い、並べて立てられた案山子みたいな丸太人形や、焼け焦げた跡のある土嚢の山、使い物にならなくなった木剣や丸太らしき物が隅に乱雑に積まれているのが目についた。
「何? ここ?」
「城内の近衛用訓練所です」
うん、まあ、そんな感じには見えるけど?
いや、そう言う事じゃなくて。
「ここで何するの?」
「姫様には、クーゲル王族としての心構えを学んでいただきます」
心構えとな……?
私が困惑していると「先ずは、こちらへ」と備え付けの個室に連れていかれ、フリフリのドレスから、丈夫そうな厚手の服に着替えさせられた。
ルインは、私に着せた衣類の全身をチェックし、その上から簡易の皮鎧の様なプロテクターも着せてきた。
「サイズは……大丈夫ですね。どこか動きにくい所はございますか?」
「いや、無いけど……」
「では、訓練所へ戻りましょうか。先ずは、準備運動から始めましょう」
言われるがままに着いて行き、ルインの指導を受けながら簡単な準備運動とウォーミングアップをさせられた。
この国の王族には、体育みたいな教育が必須なのだろうか?
内容的には幼児の私に合わせた内容っぽいけど、運動不足気味だった私には、そこそこな運動量だった。
「はぁ……はぁ……」
「次の準備をいたしますので、少々お待ちください」
彼女はそう言うと、土魔法で何かを用意し始めた。
見た感じ、私より頭一つは大きい人型の人形だけど……
「さあ、姫様。ローキックの練習から始めましょうか」
「ちょっと待って。なんでローキック?」
「大半の敵へ有効な攻撃手段だからですが?」
ですが?ではない。
私って、お姫様なんだよね?
何故ローキック?
この国の貴族は、舞踏会ではなく武闘会をするのが基本なの?
「いいですか、姫様? 人でも魔物でも、その殆どが足を持ちます。その足さえ潰せば、後はどうとでもなるのです。その場を動けなくなった相手は良いマトですし、こちらが不利な状況だったとしても、相手の足さえ鈍らせれば逃走を容易にし、仕切り直すこともできます。戦闘において、確実に有利な状況へと導く攻撃が足への攻撃なのです」
「なるほど――じゃなくて! 何故、私がローキックとか戦う方法を学ぶ事になったのかを聞きたいの!」
「え……?」
いや、なんだその困惑顔は?
困惑しているのはこっちよ。
「……そう、ですね。申し訳ございませんでした姫様。考えてみれば、クーゲル王国の王族としての役目のご説明がまだでしたね。騎士に憧れがあるものと思い、勘違いしておりました」
なるほど?
私が作ってるのは騎士ではなくロボット達の模型なのだけど。
それは良いとして、あれらの所為で騎士に憧れがあるものと勘違いされていたのか。
いや、それでも、止めさせるならまだしも、一国のお姫様に戦闘訓練を施そうとするのはいかがなものか?
「私達の国、クーゲル王国の生い立ちは、大きな木と大きな人でご存じの通りですが」
「いや、初耳だけど? あの絵本って史実なの?」
「はい。まだ早いかと思い、建国記の本はお見せしておりませんでしたね。そちらをお読みになれば、お分かりになると思いますが。我々、人族は世界樹がある聖地を未だ奪還できておりません。その聖地奪還を目的として建国されたのが、我らが国、ノインクーゲルなのです」
少し、嫌な予感がしてきた。
「えーと、つまりは、その役割を王族も担っている……って事?」
「はい。聖地奪還のため、ボリス王とセレイナ女王も、ほぼ毎日、交代で魔物の討伐へと出ておりますし。先ほどのリカルド王子も、国内の魔物討伐の遠征から帰ってきたところです」
どうりで、パパンとママンの二人が揃って居る事が稀なわけだ。
そして、それを私もやる事になると……?
「さぁ、姫様。この腿の外側か、関節のやや裏側ぎみの箇所を狙うのが効果的です」
こうして、この日は、訓練で疲れ果て、私は泥の様に眠る事となった。
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