第2話 ロボ物見放題(レギュラープラン)

 ふーむ……

 使徒契約か。


 異世界転生物の主人公だと、使徒や勇者みたいな役割を負って、無双してたり、楽しそうな冒険を繰り広げているけど。


「使徒とか勇者って具体的に何をするんです?」


「おや? 使徒や勇者特約に興味ありかい?」


「それは、まあ」


「今の日本だと流行ってるもんねぇ。簡単に説明すると、お使いみたいなものだよ。ほら、あの飛行機が大惨事にならない様に手伝ってくれたのも、こちらの世界に転生してもらった使徒なんだ。主に世界の成長の流れに影響しそうな出来事の対処を頼む事が多いかな」


 ほうほう。

 あの飛行機を助けてくれたのは使徒さんだったのか。

 私は助かってないけど……?


 それは置いておくにしても、やはり使途ともなれば冒険活劇の主人公の様な事をさせられるのかな?


「あの……できれば、こっちの世界で生き返りたいのですが」


「え? こっちの方でかい? えっと、それは……うーん」


「どうなんですか?」


「さっきも言ったけど、無理ではないんだけど難しいかな……地元民の使徒契約は大変だよ? 主に、君の方がだけど」


「私の方が? ですか……?」


「使徒や勇者、聖女なんかは、それなりの魂の才覚というか、突出した適性が無いと難しいんだよね。異世界の魂だと、転生先の世界の枠に囚われないから色々な働きを期待できるんだけど。君、凄く頭が良かったり、何か得意な事ってある?」


「頭は自信ないですけど、手先は器用な方かと」


 事務作業などは人並だけど、休日にはプラモやガレキ、最近導入した3DプリンターとCADでオリジナルパーツを作ったり、それらの加工もしている。


「となると……加護を与えてから、どこかの軍か傭兵組織の放り込んで訓練して……それからあそこの紛争と、あっちの内戦と、あの犯罪組織も……」


「あ、結構です。やめておきます」


 物騒な単語が聞こえたので即座に断った。


 肉体労働を最も苦手とする私には、明らかに荷が重すぎる。


「そう? じゃあ、あっちの世界での使徒契約ってことで。そこの使徒オプションを望みますの項目に丸を書いて――」


「あ、そっちも結構です」


 何、さらっと使徒にしようとしてるんだ?この神様は?


 世界が違っても同じ様な事をさせられるのは目に見えてるでしょ!


「使徒にはならないのかい? 使徒になると色々と恩恵が凄いよ? 本当に物語の主人公みたいな人生が送れるよ?」


「いえいえ、記憶を持ったまま生まれ変われるなら、今度は仕事じゃなくて趣味に生きる人生を選びたいので、丁重にお断りさせていただきます」


 いくら上司が神様とは言え、また指示されるまま、あっちこっち飛び回り、無理難題を聞かされるのはまっぴらごめんである。


 とはいえ、転生したとしても、もう新しいプラモを買ったりロボアニメも見られなくなるのか……


「それも使徒や聖女になれば、向こうの世界で転生したとしても解決できるよ?」


「え? マジで!?」


「マジマジ。契約時に選べるユニークアイテムやスキルで、そうした物を選べば良いだけだから。今までも、こちらの世界の物を取り寄せる能力を選んだ転生者も居たし」


「おぉ!? なるほど! それじゃ―――ってなるかぁい!! 分かってるのよ! どうせ給料や福利厚生が良いからって甘い言葉で誘って、いざ入ってみたら便利にこき使われるのよ! なけなしの時間は家事に追われ、プラモは積まれ、やがては壁となって、そして雪崩が起きるのよ! 最近は完成品も出来が良いからって、それに手を出すと出費がとんでもない事になってカードの請求がああああああ!!」


「え? あ、お、落ち着いて? 分かった、分かったから!」


 過去の経験がフラッシュバックし、思わず叫んでしまった。


 次の人生は趣味に生きたい気持ちと、こちらの世界でしか満たされない物とがせめぎ合って、何故が絶叫していた。


 なんだろう?

 いきなり、ここまで他人に向けて感情を発露してしまったのは初めてな気がする。


「今、君は魂だけの状態だからね。本音や、心に溜まっている物が出やすくなっているんだ。しかし、ふむ……そうだね、君の場合は使徒契約はやめておいた方が良さそうだね」


「そうして頂けると……いや、でも――」


「ああ、言わなくても分かるよ。こちらの世界でしか得られない物への執着が強ぎて、心の中の天秤が固まって決められないんだろう?」


「はい」


 転生先の剣と魔法の世界では、おそらく私の心は満たされない。


 それならまだ、記憶を全て封じた状態で転生した方がましな気がする。


「それじゃあ、巫女契約ならどうだい? これなら、使途や聖女みたいな使命も無いし。ほぼ自由に生活ができる。今回の君の死に関しては、介入段階で不手際もあったから、お詫びのサービスとして、一つだけ巫女契約でもユニークスキルも付けてあげるよ」


「巫女……? ですか?」


 手元のパンフの特約欄の巫女契約の部分を探して読んでみると、たしかに他のと比べると規約的な物が緩いっぽい。


「仕事内容としてはメッセンジャーみたいな物かな。たまに、神殿とかで私とやり取りをして、それを誰かに伝えたりするだけで、私生活や、それ以外の事は自由に過ごしてもらってかまわないよ」


「たまにって、頻度はどれくらいなんですか?」


「多くても年に1~2回か、少なければ数年に一度くらいかな」


「それくらいなら、まあ……」


 神様からの伝言サービスみたいな物か。

 それだけでユニークスキルが貰えるなら安い気がする。


「じゃあ、巫女契約の方をお願いします」


「オーケー! それじゃ、そこの巫女契約特約にチェックを入れて、下の恩寵欄に欲しいユニークスキルを思い浮かべて、スキル名を書いてね」


 若干、口車に乗せられた気もするけど、それでも、こっちのあれやこれやを持って行けるというのなら安い物いものだ。


 どんな能力にしよう……

 無難に、動画も書籍も見られ、ネットショッピングもお得なアレを使い放題みたいな――


「あ、ごめんね。さすがに、そこまでの能力は巫女契約だと少しキツイかも。もう少し限定的な物に絞ってくれる?」


「えー? ……となると、うーん……」


 プラモや立体物は……自由な時間がたくさん取れるなら、大変だけど自作という手もあるし。


 やはり映像か情報媒体か?


「……それじゃあ、全てのロボット物の映像作品が見られる能力が良いです。過去作も未来のも全部」


「んー、未来の物まではダメかな。SF物の作品って、その時代の技術の発展形が登場するのが常だからねぇ……こうしよう。君が死んだ現地点からスキルの時間をリンクするから、こっちで新しい物が配信された時点でそちらでも見られる様にするよ」


「それなら、まぁ」


 未来の作品が見られないのは残念だけど、それでも人生が延長された様な物だし、こっちで生きた二十数年の分だけお得だ。


「納得してくれたようで何よりだよ。能力名はどうする?」


「能力名ですか? 適当でいいですけど……」


「じゃあ、君の能力名は『ロボ物見放題(レギュラープラン)』にしとこうか。そう恩寵欄に書いちゃって」


「わかりました」


 言われたままに、希望恩寵欄に『ロボ物見放題(レギュラープラン)』と書き記す。


 すると、紙とペンが消え、私の体が輝き始めた。


「えっ!? これでもう契約終了ですか? 向こうの世界とか、他の説明は!?」


「向こうの世界の事は、生まれてから君自身の目で見て確かめてね。巫女の仕事に関しては、自由に動ける様になったら最寄りの神殿とかに来てくれれば良いから」


「あ、はい」


「まあ、君の場合、魂の形がアレだから、向こうの世界でも楽しめると思うよ。それじゃ、がんばって―――」


 アレとは何だ失礼な!


 などと文句を言おうとしたが、直ぐに意識が遠のき―――……



 ……―――気が付くと、私は、新しい世界へと生まれ落ちたのだった。

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